概念・定義
Ullrich型先天性筋ジストロフィーは1930年にUllrichがscleroatonic (sclero: 近位関節拘縮、atonic: 遠位関節過伸展) congenital muscular dystrophyとして報告し,日本では福山型先天性筋ジストロフィーの次に頻度の高い先天性筋ジストロフィーである.VI型コラーゲンの異常より,重症型のUllrich型先天性筋ジストロフィーと軽症型のBethlem型ミオパチーを生じる.
病因
VI型コラーゲンはα1,α2,α3鎖の3種のα鎖から構成される細胞外器質蛋白で,各α鎖は21番染色体上のCOL6A1 ,COL6A2,2番染色体上のCOL6A3遺伝子によってコードされている.結合組織や心筋・骨格筋の基底膜網状層,筋周膜,筋内膜に存在し,筋細胞基底膜の細胞外器質への固定や,細胞内外情報伝達に何らかの役割を担っていると考えられている.Ullrich型はVI型コラーゲンをコードする3つの遺伝子の変異により発症し,主に常染色体劣性遺伝をとるが優性遺伝もありうる.筋組織の免疫組織学的検討ではVI型コラーゲンの完全欠損を示す場合と筋鞘膜特異的欠損を示す場合がある.
疫学
米川らは本邦での全国実態調査により33名の患者を報告した.福山型先天性筋ジストロフィーの次に頻度の高い先天性筋ジストロフィーとされ,希少疾病ではあるものの一定数の患者が存在するものと考えられる.
臨床症状
臨床症状は新生児期よりの筋緊張低下,哺乳障害に加え,頸・肩・肘・股・膝関節などの近位関節の拘縮と手・足・指関節の過伸展という特徴的な所見を示す.斜頸,踵骨の突出,先天性股関節脱臼も多く,独歩可能な例は半数にとどまる.典型例では10歳までに歩行不能となるが,20歳を過ぎても歩行可能な軽症例も存在する.皮膚は過伸展し,発汗過多に加え,粗な小胞性角化症,紙やすり様丘疹を認める.創傷治癒が遅く,ケロイドが残ることも特徴の一つである.顔面筋罹患を認め,高口蓋,突出した耳介を伴い,丸く特徴的な顔貌を示す.知能は通常正常である.脊柱の可動域制限と側彎は早期から出現する.骨格筋MRIでは大腿広筋や腓腹筋,ヒラメ筋の周囲から障害され,筋内部が保たれる特徴的な所見が認められる.CKは正常から軽度上昇し,筋病理にて結合織の増生,筋線維の大小不同が主体で,壊死再生所見を認めることもある.免疫組織化学染色でVI型コラーゲンの完全欠損または筋鞘膜特異的欠損を認める.筋検体よりも,皮膚の線維芽培養への免疫染色の方がより確実である.10歳を超えると慢性呼吸不全が進行する例が急激に増加する.
診断
治療
現時点では対症療法に限られる.特に慢性呼吸不全は必発であり,呼吸管理が重要になる.小児期から定期的に呼吸モニタリングを行い,呼吸理学療法と非侵襲的陽圧換気療法を必要に応じて導入する.側彎への整形外科的フォローも重要である.主要な病態としてミトコンドリア異常に基づくアポトーシスが報告され,これに対してシクロスポリンAを投与し有効であったという報告があり,治療の可能性が期待されている.
予後
呼吸筋力低下による呼吸不全が予後を左右する.
文献
1) Camacho Vanegas O et al. Ullrich scleroatonic muscular dystrophy is caused by recessive mutations in collagen type VI. Proc Natl Acad Sci USA 98:7516-7521, 2001
2) Demir E et al. Mutations in COL6A3 cause severeand mild phenotypes of Ullrich congenital muscular dystrophy.Am J Hum Genet 70:1446-1458, 2002
3) Pan TC et al. New molecular mechanism for Ullrich congenital muscular dystrophy: a heterozygous in-frame deletion in the COL6A1 gene causes a severe
phenotype. Am J Hum Genet 73:355-369, 2003
4) Yonekawa T et al. Rapidly progressive scoliosis and respiratory deterioration in Ullrich congenital muscular dystrophy. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2013 84:982-988, 2013
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2014年10月1日
- 文責
- :日本小児神経学会