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脊髄性筋萎縮症

せきずいせいきんいしゅくしょう

spinal muscular atrophy; SMA

告示

番号:40

疾病名:脊髄性筋萎縮症

概念・定義

脊髄性筋萎縮症(SMA)は、脊髄の前角細胞の変性による筋萎縮と進行性筋力低下を特徴とする下位運動ニューロン病である。上位運動ニューロン徴候は伴わない。体幹、四肢の近位部優位の筋力低下、筋萎縮を示す。発症年齢、臨床経過に基づき、I型(OMIM#253300)、II型(OMIM#253550)、III型(OMIM#253400)、IV型(OMIM#27115)に分類される。I、II型の95%にSMN遺伝子欠失が認められ、III型の約半数、IV型の1-2割においてSMN(survival motor neuron)遺伝子変異を認める。

疫学

諸外国の調査では、発症は出生10,000につき1人、保因者頻度は50~90人に1人とされている。我が国では、乳児期~小児期に発症するSMAは10万人あたり1~2人と考えられ、推定患者数は約1,000人前後との結果が得られている

病因

原因遺伝子は、1995年、第5染色体長腕5q13.2に存在するSMN(survival motor neuron)遺伝子として同定された。I、II型のSMAにおいては、SMN遺伝子の欠失の割合は9割を超えることが明らかになっており、遺伝子診断も可能である。また,SMN遺伝子の近傍には、NAIP(neuronal apoptosis inhibitory protein)遺伝子、SERF1(small EDRK-rich factor 1)遺伝子などが存在し、それらはSMAの臨床症状を修飾するといわれている。III、IV型においては、SMN遺伝子変異が同定されない例も多く、他の原因も考えられている

症状

I型:重症型、急性乳児型、ウェルドニッヒ・ホフマン(Werdnig-Hoffmann)病 発症は出生直後から生後6ヶ月まで。フロッピーインファントの状態を呈する。肋間筋に対して横隔膜の筋力が維持されているため吸気時に腹部が膨らみ胸部が陥凹する奇異呼吸を示す。定頸の獲得がなく、支えなしに座ることができず、哺乳困難、嚥下困難、誤嚥、呼吸不全を伴う。舌の線維束性収縮がみられる。深部腱反射は消失、上肢の末梢神経の障害によって、手の尺側偏位と手首が柔らかく屈曲する形のwrist dropが認められる。人工呼吸管理を行わない場合、死亡年齢は平均6~9カ月である。 II型:中間型、慢性乳児型、デュボビッツ(Dubowitz)病 発症は1歳6ヶ月まで。支えなしの起立、歩行ができず、座位保持が可能である。舌の線維束性収縮、手指の振戦がみられる。腱反射の減弱または消失。次第に側彎が著明になる。II型のうち、より重症な症例は呼吸器感染に伴って、呼吸不全を示すことがある。 III型:軽症型、慢性型、クーゲルベルグ.ウェランダー(Kugelberg-Welander)病 発症は1歳6ヶ月以降。自立歩行を獲得するが、次第に転びやすい、歩けない、立てないという症状がでてくる。後に、上肢の挙上も困難になる。 Ⅳ型:成人期以降の発症のSMAをIV型とする。小児期発症のI、II、III型と同様のSMN遺伝子変異によるSMAもある。一方、孤発性で成人から老年にかけて発症し、緩徐進行性で、上肢遠位に始まる筋萎縮、筋力低下、筋線維束性収縮、腱反射低下を示す場合もある。これらの症状は徐々に全身に拡がり、運動機能が低下する。また、四肢の近位筋、特に肩甲帯の筋萎縮で初発する場合もある。 SMAにおいては、それぞれの型の中でも臨床的重症度は多様である

治療

根本治療はいまだ確立していない。I型、II型では、授乳や嚥下が困難なため経管栄養が必要な場合がある。また、呼吸器感染、無気肺を繰り返す場合は、これが予後を大きく左右する。I型のほぼ全例で、救命のためには気管内挿管、後に気管切開と人工呼吸管理が必要となる。II型においては非侵襲的陽圧換気療法(=鼻マスク陽圧換気療法:NIPPV)は有効と考えられるが、小児への使用には多くの困難を伴う。また、全ての型において、筋力にあわせた運動訓練、理学療法を行う。III型、Ⅳ型では歩行可能な状態の長期の維持や関節拘縮の予防のために、理学療法や装具の使用などの検討が必要である。小児においても上肢の筋力が弱いため、手動より電動車椅子の使用によって活動の幅が広くなる。I型やII型では胃食道逆流の治療が必要な場合もある。II型の脊柱変形に対しては脊柱固定術が行われる

予後

I型は1歳までに呼吸筋の筋力低下による呼吸不全の症状をきたす。人工呼吸器の管理を行わない状態では、ほとんどの場合2歳までに死亡する。II型は呼吸器感染、無気肺を繰り返す例もあり、その際の呼吸不全が予後を左右する。III型、Ⅳ型は生命的な予後は良好である

:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児神経学会