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もやもや病

もやもやびょう

moyamoya disease

告示

番号:98

疾病名:もやもや病

疾患概念

もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)は日本人に多発する原因不明の進行性脳血管閉塞症であり、両側の内頚動脈終 末部に狭窄ないしは閉塞とその周囲に異常血管網を認める。発症年齢は二峰性分布を示し、5歳を中心とする高い山と30~40歳を中心とする低い山を認める。小児期には脳血管閉塞(脳虚血)の症状が多く、成人期には脳出血による症状が多い。

疫学

日本人およびアジア系民族に多い。2004年度全国調査の結果、一次調査で本症推定患者数は7492人(95%信頼区間 6056~8928人)と推定された。二次調査では1269人のデータが得られ、男女比は1:2で女性に多く、年齢分布は10~20歳代と50歳にピークがあった。家族性の発生は12.1%に認められた。成人例、家族歴を有する例では無症候の例が増加している。

病因

多因子遺伝の関連が示唆されているが、原因不明の脳血管疾患である。

症状

無症状(偶然発見)のものから、頭痛を呈するのみ、あるいは一過性ないしは固定性の神経症状を呈するものまで症状は無症状から重篤なものまでさまざまである。脳虚血の発生部位によって神経症状が異なるためその症状は多岐にわたり、脳梗塞に陥ればり、その部位の障害による神経症状が固定し、改善しにくい。脳虚血型(TIA型、TIA頻発型、脳梗塞型)、脳出血型、てんかん・不随意運動型、頭痛型、無症候型などに分類される。小児例では頭痛や脳虚血症状が大半を占め、また成人例には頭蓋内出血を来たす例が多い。 小児例の初発症状は、頭痛や大脳虚血(内頚動脈の灌流領域)による神経症状が多く、意識障害、脱力発作(四肢麻痺、 片麻痺、単麻痺)、四肢の不随意運動、感覚異常、失語症、けいれん、などが生じる。脳幹や小脳など椎骨・脳底動脈の灌流領域で初発症状を出すことはまれである。このような神経症状は過呼吸(啼泣、激しい運動、熱い食べ物を吹いて冷ます行為、ハーモニカや鍵盤ハーモニカを含めた吹奏楽器の演奏、ストローでジュースを飲む行為、大きな声で歌う行為など)で誘発され、そのような行為を中止すれば改善するが、反復発作的に出現する。時には病側の左右が交代することもある。過呼吸によって誘発されるのがこの疾患には非常に特徴的である。神経症状はその後継続して生じる場合と、停止する場合がある。悪化する症例では多発性の脳梗塞が大脳に発生し、精神機能障害、知能低下、失語、全盲などにいたる場合があるが、成人期の発症例のように出血を来たすことは少ない。 乳幼児の発症例は多くはないが、啼泣によって容易に脳梗塞に陥りやすく、診断までに多発性の脳梗塞を起こして、麻痺や知能障害を来す例が多く、年長児の発症例よりも機能予後が悪い。15歳以上の年齢になると、成人例のように頭蓋内出血による脳卒中発作(多くは脳室内出血、その他くも膜下出血、脳内出血)で突然発症する例がみられる。出血部位に応じて意識障害、運動麻痺、言語障害、精神症状などを呈する。出血により死亡する例がある。 7%程度に頭痛型モヤモヤ病があり、朝方に嘔気、嘔吐を伴う強い頭痛を呈し、正午ごろから軽快することが多い。上記の神経症状を伴うこともある。脳虚血によって発生していることが示唆されている。早朝に発生した頭痛は睡眠によって改善する傾向があり、学童では午前中は頭痛があって学校にいけないが、午後からは症状が全く消失し学校へ行くなどの症状の変化がある。 小児、成人を通じて、最近は無症候で発見されるモヤモヤ病が増加している。(3~16%)。無症候型においても脳卒中リスクは存在し、年間2~3%と考えられる。

診断

過呼吸の動作で一過性の麻痺などの神経症状を呈すれば、この疾患を疑う。また、頭痛が早朝に発生し、嘔気、嘔吐、神経症状を呈し、午後には改善するような場合もこの疾患を疑う。 診断基準(診断の手引き参照)にしたがって診断する。従来脳血管撮影を行って診断してきたが、最近では条件を合わせてMRAを行えば診断できる。しかし、MRIのみでは血管病変の検索が不十分となり診断は困難な場合が多い。単純CTでは、脳梗塞の診断は可能であるが、もやもや病の診断はできない。上記にあげた基礎疾患の有無、家族歴の有無を確認する。

治療

小児例では、脳虚血発作に対しては外科治療が第一選択とされる。間接的もしくは直接的な方法で行われ、両側性の病変が多いので、両側に血行再建が必要となることが多い。何らかの理由で外科治療が選択できない場合、抗血小板薬としてアスピリンによる薬物治療が行われるが、脳出血を助長する可能性がある。脳虚血、出血の急性期は血圧コントロールや脳圧亢進対策などの内科的治療を行い、通常は急性期を過ぎてから血行再建の適応を検討する。脳虚血急性期の組織プラスミノゲンアクチベーター(t-PA)による血栓溶解療法の適応はない。一方、頭痛は治療抵抗性である。

予後

脳梗塞による神経症状の重症度が予後に関連する。乳幼児期では高次脳機能の評価が困難なため、成長とともに神経症状が明確になることがある。内頚動脈系の主幹動脈の狭窄が進行し一過性の脳虚血を呈していても、血行再建により脳梗塞が発生しなければ機能予後は比較的良好である。小児期発症の例が成人期の長期の予後は明確になっていないが、女性の例が成人して妊娠、出産を経験する例が増加している。一方、頻度は少ないが、小児期に発症し成人期に達した例が意識障害を呈するような大きな出血を来せば生命予後を左右する状態となりやすい。家族性の発生例では表現促進現象(clinical anticipation、親よりも子の方が発病年齢の若年化、重症化を呈する)がみられることがある。
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児神経学会、日本小児神経外科学会