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脳クレアチン欠乏症候群

のうくれあちんけつぼうしょうこうぐん

Cerebral creatine deficiency syndrome

告示

番号:80

疾病名:脳クレアチン欠乏症候群

概念・定義

脳クレアチン欠乏症候群(cerebral creatine deficiency syndromes: CCDSs)は、脳内クレアチン欠乏により、発症する疾患群の総称です。 クレアチン/リン酸クレアチン系は,脳や筋における化学的エネルギーの細胞質貯蔵の緩衝系として働いています。クレアチン生合成や輸送の障害は脳内クレアチン欠乏をきたし、知的障害、言語発達遅滞、てんかんを引き起こすと、考えられています。 クレアチン生合成の異常によるグアニジノ酢酸メチル基転移酵素(GAMT)欠損症と、アルギニン・グリシンアミジノ基転移酵素(AGAT)欠損症の2疾患、 クレアチン輸送の障害によるクレアチン輸送体(SLC6A8)欠損症の3疾患が知られています。 SLC6A8欠損症は遺伝性知的障害症候群の中でもっとも頻度の高い疾患の一つとされています。また、GAMT欠損症とAGAT欠損症は、クレアチンの経口投与が有効な、治療方法のある知的障害症候群であり、その早期診断は重要です。

病因

クレアチンは、食品からの摂取による外因性のものと、アルギニンとグリシンを基質としてアルギニン・グリシンアミジノ基転移酵素(AGAT)およびグアニジノ酢酸メチル基転移酵素(GAMT)の二つの酵素により産生される内因性のものがあります。クレアチンは、脳毛細血管に存在するクレアチントランスポーターを介して、最終的に神経細胞などに輸送されます。 AGAT欠損症はGATM遺伝子(15q21.1)、GAMT欠損症はGAMT遺伝子(19p13.3)、の変異により発症し、常染色体劣性の遺伝形式をとります. クレアチントランスポーター欠損症は, SLA6A8遺伝子(Xq28)の変異により発症し,X連鎖性劣性の遺伝形式をとりますが,男性及び女性ともに発症します.

疫学

AGAT欠損症は世界で16例、GAMT欠損症は世界で110例(日本では、1例の報告のみ)が報告されている、稀な疾患でです。 クレアチントランスポーター欠損症は、欧米では遺伝学的要因による知的障害の中でもっとも頻度の高い疾患の一つであり、知的障害を呈する男性患者の0.3~3.5%(米国では42,000人、世界では100万人)と推定されていますが、現在までにわが国で診断されているのは8家系のみであり、未診断例が多数存在すると推測されます。

臨床症状

3疾患に共通の症状は知的障害(軽度~重度)、言語発達遅滞、てんかん、自閉症スペクトラム、筋緊張低下です。GAMT欠損症では約3割の患者さんで不随意運動を認めます。クレアチントランスポーター欠損症はX連鎖性疾患であり,男性が典型的な症状を呈するが,女性も様々な程度で症状(知的障害,学習障害など)を呈しうることに注意が必要です。 1. 知的障害 2. 自閉症スペクトラム 3. てんかん 4. 言語発達遅滞 5. 筋緊張低下

検査所見

1. 血液・生化学的検査所見:尿、血清、髄液中のクレアチン、クレアチニン、グアニジノ酢酸 (ア) AGAT欠損症 診断に有効な所見なし。 (イ) GAMT欠損症 尿中グアニジノ酢酸/クレアチニン比の上昇、血清および髄液中のグアニジノ酢酸の上昇  (ウ) SLC6A8欠損症(男性患者)尿中クレアチン(mg/dl)/クレアチニン(mg/dl)比の上昇(>2.0)、AGAT欠損症やGAMT欠損症では正常範囲。(注意;女性患者では正常範囲の可能性があります。) 2. 画像検査所見(3疾患に共通):脳の1H-MRスペクトロスコピー(MRS)におけるクレアチンピークの低下。

診断の際の留意点

特に、頻度の高いクレアチントランスポーター欠損症は、男性の知的障害患者だけではなく、女性の様々な程度の知的障害や発達障害の原因となることに注意が必要である。特に、男性の知的障害や発達障害を呈する症例に関しては、全例に対して、尿クレアチン/クレアチニン比を測定し、スクリーニングすべきである。女性患者では、尿クレアチン/クレアチニン比の測定は役に立たない。最終的な確定診断には、遺伝学的検査が必要である。

治療

クレアチン生合成の異常によるAGAT欠損症やGAMT欠損症に対しては、クレアチン補充療法が有効であり、後者に対しては、グアニジノ酢酸産生を抑える治療(オルニチンや安息香酸ナトリウムの摂取、アルギニンの摂取制限)の併用も有効である。クレアチントランスポーター欠損症に対しては、クレアチン補充療法の効果は乏しい。動物実験レベルではあるが、サイクロクレアチンの有効性が期待される。 てんかんや不随意運動に対しては対症療法が中心となります。

合併症

てんかんのコントロールに注意が必要です。発育障害(低身長、体重増加不良)を呈することがあります。

予後

生命予後は合併症によりますが、悪くないと推測されます。

成人期以降の注意点

成人に関する十分な情報がありません。 定期的な検診による身体および認知機能の評価が必要と考えられます。

参考文献

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:バージョン1.0
更新日
:2018年1月31日
文責
:日本小児神経学会