1. 神経・筋疾患
  2. 大分類: 糖蛋白代謝障害
32

先天性グリコシル化異常症

せんてんせいぐりこしるかいじょうしょう

Congenital disorders of glycosylation; CDG

告示

番号:61

疾病名:先天性グリコシル化異常症

疾患概念

糖タンパクにおける糖鎖はタンパク質の機能に重要である。先天性グリコシル化異常症は、糖タンパクの糖鎖の合成過程および修飾過程に関わる遺伝子変異により、糖タンパクの機能不足によって発症する先天代謝異常症である。多数のタイプが存在するが、最も多いPMM2-CDGでは筋緊張低下、体重増加不良、精神運動発達遅滞、てんかん、特徴的顔貌、眼科異常、臀部脂肪沈着・乳頭陥没など皮膚症状、心嚢液貯留、肝機能異常等多彩な症状を認める。胎児水腫や多臓器不全による早期死亡例から軽度知的障害のみの例など、CDGの重症度は多様である。糖鎖異常の同定には、質量分析法が有用である。

疫学

国内の調査では50名程度が存在する。しかし、診断方法が普及しておらず、未診断例が多数存在すると予想される。

病因

糖タンパクの糖鎖の合成過程および修飾過程に関わる遺伝子変異が原因である。常染色体潜性遺伝の疾患が多いが、一部はX連鎖性である。

病理・病態

糖鎖はタンパクの機能、立体構造、安定性、抗原性、移動などにおいて重要な役割を持つ。たとえば、糖鎖が不足すると、酵素であれば活性が低下し、血液凝固因子であれば凝固因子活性が低下する。先天性グリコシル化異常症では全身の各種糖タンパクに異常が生じるため、臨床所見は多彩である。多くの場合、精神運動発達遅滞、知的障害、筋緊張低下などの神経症状に加えて肝機能異常や凝固異常、免疫異常などを伴う。器官形成段階の糖鎖異常は、中枢神経の構造異常や先天性心疾患などを生じる。

臨床症状

乳児期からの筋緊張低下、体重増加不良、精神運動発達遅滞、特徴的顔貌がある。てんかん、内斜視など眼科異常、臀部脂肪沈着・乳頭陥没など皮膚症状、心嚢液貯留・心筋症が多い。乳児期の哺乳不良、嘔吐、体重増加不良ため、経管栄養を要する例がある。顔貌の特徴として、目立つ前頭部、大耳介、眼瞼裂斜上を認める。オレンジ皮様の皮膚、臀部脂肪沈着、乳頭陥没などの皮膚所見は診断の参考となる。CDGでは肝病変を呈するものが多い。肝腫大、肝線維症、胆汁鬱滞、肝硬変などの肝病変を伴う例がある。脳卒中様発作、脳梗塞、脳出血など脳血管系の異常例がある。

検査所見

低アルブミン血症、肝機能障害(AST、ALT上昇)、低コレステロール血症、血液凝固因子活性低下、ProteinC、ProteinS、Antithrombin活性低下、コリンエステラーゼ活性低下などがみられる。各種内分泌異常例もある。

診断

トランスフェリンは2本のN結合型糖鎖を持ち、血中濃度も高いので、先天性グリコシル化異常症の診断に利用される。トランスフェリンの等電点電気泳動や質量分析法で糖鎖の不足や構造異常を証明することである。O結合型糖鎖の場合はApoCⅢの糖鎖解析が有用である。糖鎖異常は必ずしも認められない場合があり、遺伝子解析で病的変異を同定することも診断的意義がある。

診断の際の留意点/鑑別診断

トランスフェリンの遺伝的多型による糖鎖異常や先天性グリコシル化異常症以外の二次的な糖鎖異常を除外する。ミトコンドリア病と鑑別が必要である。

合併症

全身多臓器にわたる合併症がみられる。

治療

多くの先天性グリコシル化異常症は有効な治療法がなく、対症療法に留まるが、マンノースやガラクトースなど糖補充療法が有用なタイプもある。

管理・ケア

呼吸栄養管理が必要な場合がある。

食事・栄養

経口摂取が困難な場合、経鼻チューブ栄養や胃瘻栄養を要する場合もある。

予後

先天性グリコシル化異常症のタイプにより異なる。PMM2-CDGの場合、劇症型で早期に死亡する場合もあるが、軽症例は精神運動発達遅滞や多動症のみで成人年齢に到達する。

予後不良症例の対応

多臓器に影響がでてICUなどで集中管理が必要な場合がある。

介護

精神運動発達遅滞の程度や合併症の状況に応じた介護が必要である。機能訓練の継続も重要である。

最近のトピックス

従来治療方法のなかったPMM2-CDGにおいても特殊な糖を補充する治療方法が研究されている。

患者会

国内においては存在しないが、海外では存在する(https://cdgcare.org/)。

研究班

AMED難治性疾患実用化研究事業「先天性糖鎖異常症のバイオマーカーの探索と診断法の確立」
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「先天異常症候群のライフステージ全体の自然歴と合併症の把握:Reverse phenotypingを包含したアプローチ」

成人期以降の注意点

側彎後彎などの脊椎変形、骨量減少、関節過進展、胸郭変形などの整形外科的合併症を認める。末梢神経障害(四肢筋萎縮進行)、二次的な骨格変形(胸椎後彎)が生じ、独歩困難になる例がある。骨粗鬆症に進展する場合がある。

参考文献

  1. CDG診断支援プロジェクト
  2. 岡本伸彦. 先天性グリコシル化異常症. 小児科60:899-905,2019.
  3. 和田芳直. 先天性グリコシル化異常症(CDG症候群). 小児科診療79(suppl):289,2016.
:第1版
更新日
:2021年11月1日
文責
:日本小児遺伝学会
日本小児神経学会