疾患概念
CASK遺伝子の機能喪失変異による橋小脳低形成を伴う知的障害・小頭症である。CASK異常症は、中等度から重度の知的障害、成長障害、眼科的異常や難聴の合併例もある。
疫学
国内で数十例が診断されているが、遺伝子診断未実施例も多数存在すると考えられている。
病因
CASK遺伝子の機能喪失変異や欠失が原因である。X連鎖顕性遺伝性疾患である。
病理・病態
CASK 遺伝子は染色体Xp11.4に座位し、哺乳類の神経系において強く発現するMAGUK(membrane-associated guanylate kinase)蛋白のメンバーであるCASKをコードしている。CASKは神経末端部において複合体を形成し、シナプス間の結合や神経伝達物質の輸送、Reelinの転写調節を介した神経細胞の移動と層形成への関与などといった多彩な働きを持つ。
臨床症状
小頭症、精神運動発達遅滞、知的障害、眼振などの眼科異常を認める。小頭症は進行性で高度の場合がある。てんかんの合併がみられる。男児例では乳児早期てんかん脳症の場合がある。
検査所見
頭部MRIでは橋小脳低形成を伴う小頭症を認める。小頭のわりには脳梁の大きさが保たれている特徴がある。脳波異常を認める場合がある。眼底異常を認める場合がある。
診断
CASK遺伝子解析による病的変異の検出やマイクロアレイ染色体検査によるCASKをふくむX染色体の微細欠失を検出することによる。
診断の際の留意点/鑑別診断
小頭症や小脳低形成を呈する各種疾患を鑑別する。他の遺伝子変異による橋小脳低形成症は特に鑑別で重要である。
合併症
眼科異常の例が多く、眼科の定期診察が必要である。
治療
特別な治療は存在しない。てんかん対しては一般的な抗てんかん薬を処方する。リハビリや栄養管理などの対症療法を行う。
食事・栄養
刻み食や流動食、栄養補助剤が必要な場合がある。経口摂取が困難な場合、経鼻栄養チューブや胃瘻を検討する。
予後
有意語獲得は困難な場合が多いが、適切な療育訓練や教育で一定の理解力促進は可能である。歩行機能獲得に至らない例もあり、各種バギーや車いすの作成が必要になる。
予後不良症例の対応
重症心身障害の一般的な対応に準じる。
介護
重症心身障害に該当する例があり、全身管理に配慮する。
患者会
大阪母子医療センターでは非公式ながら、約20例のCASK異常症の会合を実施している。
研究班
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「先天異常症候群のライフステージ全体の自然歴と合併症の把握:Reverse phenotypingを包含したアプローチ」
成人期以降の注意点
栄養状態に注意する。側彎後彎などの脊椎変形、胸郭変形、骨量減少、関節変形などの整形外科的合併症に注意する。
参考文献
- Hayashi S, Mizuno S, Migita O, Okuyama T, Makita Y, Hata A, Imoto I, Inazawa J. The CASK gene harbored in a deletion detected by array-CGH as a potential candidate for a gene causative of X-linked dominant mental retardation. Am J Med Genet A. 2008;146A:2145-51.
- Takanashi J, Arai H, Nabatame S, Hirai S, Hayashi S, Inazawa J, Okamoto N, Barkovich AJ. Neuroradiologic features of CASK mutations.Am J Neuroradiol. 2010;31:1619-22.
- Hayashi S, Uehara DT, Tanimoto K, Mizuno S, Chinen Y, Fukumura S, Takanashi JI, Osaka H, Okamoto N, Inazawa J. Comprehensive investigation of CASK mutations and other genetic etiologies in 41 patients with intellectual disability and microcephaly with pontine and cerebellar hypoplasia (MICPCH).PLoS One. 2017;12:e0181791.
- 版
- :第1版
- 更新日
- :2021年11月1日
- 文責
- :日本小児遺伝学会
日本小児神経学会