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脊髄髄膜瘤

せきずいずいまくりゅう

myelomeningocele

告示

番号:39

疾病名:脊髄髄膜瘤

概念

脊髄髄膜瘤は二分頭蓋や無脳症などとともに神経管閉鎖不全症に包括される疾患です.ヒトの胎児では,その背側にある外胚葉から神経管が形成され,これが脳・脊髄へと発達していきます.神経管が完全な管状構造になるのは受精後28日ごろとされていますが,何らかの原因により神経管の閉鎖不全が起こり、脊髄髄膜瘤が発生します.(図1)脊髄髄膜瘤の日本での発生頻度は、40年前は0.01~0.02%でしたが最近では0.03~0.04%と増加しています。第1子が脊髄髄膜瘤であると、第2子における本症の発生率は約5%とされており,その発生には何らかの遺伝因子の関与が推察されます.1) 一方で,妊娠初期の妊婦に葉酸を投与すると,二分脊椎を含む神経管閉鎖不全症の約70%の発生リスクを軽減できる事実から,母体の栄養状態・内分泌異常さらには催奇形性物質など外的要因の関与も重要であると考えられています.2) 厚生労働省は神経管閉鎖不全症の発生リスクを低下させるために、健常な女性でも不足しがちな葉酸の摂取(0.4mg/day)を勧めています。 図1:一時神経管形成(胎生3〜4週)

分類

二分脊椎症には開放性(表面からはっきりわかるもの)と潜在性(わかりにくいもの)があり,前者には脊髄披裂あるいは脊髄髄膜瘤などが含まれます.これら開放性二分脊椎症では,閉鎖不全に陥った脊髄が表皮に覆われずに、直接外表に露出し,そこから髄液の漏出をみます(図2).一方,潜在性二分脊椎症では皮下脂肪腫,皮膚陥凹などの皮膚徴候を認めるものの(図3),病巣は皮膚によって覆われています.しかし,椎弓および硬膜欠損部を介して,皮下の脂肪腫や線維性の結合組織が脊髄に癒合し,その結果,正常よりも低位に脊髄円錐を係留します. 図表2 図表3

症状

脊髄披裂あるいは脊髄髄膜瘤の患児では,生下時より両下肢の運動・知覚障害,膀胱直腸機能障害などの脊髄・脊髄神経の機能障害を認めますが,これらの症状の重症度は病巣の位置する脊髄レベルとその病理学的変化の程度に依存します.(表1)これに対して,脊髄脂肪腫などの潜在性二分脊椎症では,生下時には神経機能障害のないことも少なくありませんが,加齢とともに身体の屈曲・伸展に際しての脊髄・脊髄神経の可動性が制限され,その結果,係留された脊髄,とくに脊髄円錐【脊髄の下端、膀胱や直腸の機能を保つ部位】は機械的なストレスを受けやすくなり,これが脊髄の局所循環障害を引き起こし、その機能障害をもたらします(脊髄係留症候群). 表1:脊髄髄膜瘤のレベルと麻痺と変形 また,二分脊椎症の患児では脳あるいは他臓器に合併奇形を認めることもまれでなく,これが病状をさらに複雑なものとします.とくに脊髄髄膜瘤の患児では,水頭症(90%)やキアリ奇形(90%),多小脳回症,脳梁形成不全などの中枢神経系の合併奇形以外に,脊椎側彎症,股関節脱臼,下肢の変形,泌尿器系の奇形,水腎症などの全身的な合併奇形あるいは合併症が多く見られます.そして,これらの合併症が患児の機能障害と予後を左右することになりますが,小脳扁桃と延髄が脊椎管内へ逸脱するキアリ奇形では(図4),脳幹機能障害のために呼吸障害をともなうことがあるので注意が必要です. 図4:キアリII型:小脳に加え脳幹の下垂を認め、水頭症を合併している。

診断方法

脊髄披裂や脊髄髄膜瘤などの開放性二分脊椎症では,患児の背部を観察することにより診断は容易です(図2).また,水頭症やキアリ奇形など合併奇形の有無に関しては,CTやMRIを行う必要があります(図5).脊髄脂肪腫などの潜在性二分脊椎症のほとんどの症例が何らかの皮膚徴候を有しているため(図3),これが診断の手がかりになります.腰仙部のMRIを撮影することにより,脊髄円錐を低位に係留する脂肪腫,皮下から脊椎管内に伸展する皮膚洞,さらには硬膜内に存在する上皮腫の存在が明らかとなります(図6). 図5:脂肪席髄膜瘤、脊髄脂肪腫

図6:皮膚洞と脂肪腫

図6:皮膚洞と脂肪腫

治療選択と方法

出生前に診断された場合は、一般的には肺の成熟を待って妊娠36週以降の生期産とします。 脊髄披裂あるいは脊髄髄膜瘤に対しては,出生後24ないし48時間以内に閉鎖術を行うのが一般的です.3) 体外に露出した脊髄周囲のクモ膜を剥離・切開し,脊髄を覆うように硬膜,筋層を縫合閉鎖します.次いで皮膚を閉鎖しますが,皮膚欠損が大きな場合には周囲の皮膚に減張切開を加える必要があります.水頭症を合併していれば脳室-腹腔シャント術を,またキアリ奇形による呼吸障害が顕著な場合には後頭下減圧術を行います.4) 脊髄脂肪腫などの潜在性二分脊椎症については,患児が脊髄係留症候群を呈していれば,脊髄の係留解除を目的に手術を行います.脊髄に癒合する脂肪腫や線維性の結合組織を断ち切り,硬膜欠損部は人工硬膜により閉鎖します.ただし,無症状の潜在性二分脊椎症に関しては,本症の自然歴が明らかでないということもあり,予防的に係留解除術をすべきか否かいまだ結論をみるに至っていません.5)6)

トピックス

1. 胎児期の脊髄髄膜瘤修復術 髄液の体外への流出を止め、幼弱な神経組織の羊水への暴露を軽減できれば、2次的な神経障害が改善すると期待され、子宮内の胎児に妊娠25週前後に修復術が行われました。この手術により水頭症とキアリ2型奇形の発生が減少しましたが、下肢や排尿機能の有意な改善は得られませんでした。現在米国ではNIH主導で胎児期の脊髄髄膜瘤修復術の効果と安全性の多施設共同研究(Management of Myelomeningocele Study; MOMS)が行われております。これに対してドイツでは内視鏡を用いた胎内手術の研究(the German Center for Fetal Surgery & Minimally Invasive Therapy at the University of Bonn)が開始されており、開腹手術と比較して母体への侵襲が少ないと報告されています。しかし、日本では倫理上の問題などがあり脊髄髄膜瘤の胎児治療は行われていません。7) MOMS website (http://www.spinabifidamoms.com) and MOMS summary on ClinicalTrial.gov (http://clinicaltrials.gov/ct/show/NCT00060606) 2. ラテックスアレルギー 二分脊椎の患児は入院を繰り返し、ラテックス抗原に頻回に接触するため、ラテックスによる重篤なアナフラキシー反応を引き起こすことがあります。家族及び医療従事者はラテックスに対する予防策を施ずる必要があります。8)

参考文献

脳神経外科疾患情報ページ(http://square.umin.ac.jp/neuroinf/medical/602.html
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児神経学会、日本小児神経外科学会