1. 免疫疾患
  2. 大分類: 後天性免疫不全症
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後天的な免疫系障害による免疫不全症

こうてんてきなめんえきけいしょうがいによるめんえきふぜんしょう

Phenocopies of primary immunodeficiency

告示

番号:20

疾病名:後天的な免疫系障害による免疫不全症

概要

後天的な遺伝子変異により起きる免疫不全症と、後天的に産生される自己抗体による免疫不全がある。診断は、体細胞における遺伝子変異の証明と、自己抗体の測定による。 これまでに以下の疾患が知られている。

1) 後天的な遺伝子変異によるもの a) 自己免疫性リンパ球増殖症(ALPS)

ALPSのうち、TNFRS6の体細胞における変異によるもの(ALPS-sFAS)が知られている。詳細は、4. 免疫調節障害の33. 自己免疫性リンパ増殖症候群参照

1) 後天的な遺伝子変異によるもの b) RAS関連自己免疫性リンパ増殖症候群様疾患(RALD)

リンパ球におけるKRASもしくはNRASの体細胞変異によりリンパ増殖をきたし、自己免疫症状を呈する疾患で、自己免疫性リンパ増殖症候群(ALPS)関連疾患に分類される。症状的にはALPSに類似する。症状等の詳細は、4. 免疫調節障害の33. 自己免疫性リンパ増殖症候群参照

2)後天的な自己抗体産生によるもの a) 慢性皮膚粘膜カンジダ症

原因の特定された慢性皮膚粘膜カンジダ症に、カンジダ感染と外胚葉形成異常を伴う自己免疫性多腺性内分泌不全症;autoimmune polyendocrinpathy-candidiasis-ectodermal dystrophy(APECED)があり、この場合にはIL-17A, IL-17F, IL-22, IFN-α, ωに対する自己抗体が原因とされている。詳細は6. 自然免疫異常の47. 慢性皮膚粘膜カンジダ症を参照

2)後天的な自己抗体産生によるもの b) 成人発症型免疫不全症

インターフェロン(IFN)-γに対する自己抗体により免疫不全状態を呈する疾患である。 2004年以降、東アジアを中心に症例の報告がなされている。 2012年に報告された高抗IFN-γ抗体保有者88例のまとめ(※)では、男女比は約2:3程度で、家族集積性は認めなかった。非定型抗酸菌・結核菌の感染が多く認められ、また、他の日和見感染症(サルモネラ等の細菌、クリプトコッカス等の真菌、水痘帯状疱疹ウイルス等のウイルスなど)との共感染もしばしば認められなかった。また、好中球性皮膚症などの皮膚症状をしばしば認められた。感染症に対しては抗菌薬等の治療が行われるが、治療にはしばしば抵抗性である。 (※) Sarah K., et al. Adult-Onset Immunodeficiency in Thailand and Taiwan. N Engl J Med 2012; 367:725-34

2)後天的な自己抗体産生によるもの c) 反復性皮膚疾患

IL-6に対する自己抗体により起こる免疫不全状態から、ブドウ球菌に対する感受性が増加し、反復して蜂巣炎や膿瘍等の皮膚疾患を起こす。 慢性肉芽腫症、高IgE症候群、免疫不全を伴う外胚葉異形成症、IRAK-4といったIL-1受容体関連キナーゼ欠損症などの原発性免疫不全症でブドウ球菌の感受性が増加することが知られているが、抗IL-6自己抗体を持つ患者で同様の症状を認めることが報告された(※)。この報告では、他に免疫学的な欠陥は認められず、皮膚疾患罹患時でもCRPの上昇が認められなかったことが示されている。 (※) Puel A., et al. Recurrent staphylococcal cellulitis and subcutaneous abscesses in a child with autoantibodies against IL-6. J Immunol. 2008; 180:647-54.

2)後天的な自己抗体産生によるもの d) 肺胞蛋白症(PAP)

■概要 肺胞蛋白症(PAP)は、サーファクタントの生成又は分解過程の障害により、肺胞腔や終末細気管支内にサーファクタント由来物質の異常貯留を来す疾患の総称である。 ■病因 自己免疫性、続発性、先天性、未分類に分類される。自己免疫性PAPでは、マクロファージの成熟に必要な顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)に対する中和自己抗体が肺胞マクロファージ、好中球の機能障害に引き起こし、サーファクタントの分解が傷害されるため、肺胞内にサーファクタントが貯留し、PAPが発症する。続発性PAPは骨髄異形性などの血液疾患、粉塵やガスの吸入、感染症、リジン尿性蛋白不耐症、ベーチェット病等で認められる。先天性PAPはsurfactant protein(SP)-B、SP-C、ABCA3 transporter 遺伝子の異常やGM-CSFレセプターの異常が報告されている。 ■疫学 自己免疫性PAP有病率は約700~800人と推定されている。続発性PAP、先天性PAPの精確な罹患率のデータは不明で、PAP全体として多く見積もっても1000人程度と推定されている。 ■臨床症状 自己免疫性PAPの男女比は2:1、診断時年齢の中央値は男女ともに51歳であった。症状は労作時呼吸困難(40%)、咳(10%)、喀痰、体重減少、発熱など。約30%の患者は無症状である。画像所見の割に症状が比較的軽微であることが本疾患の特徴である。 続発性PAPでは原疾患の症状に加えてPAPの呼吸器症状が加わる。 先天性は重篤な場合が多い。 ■治療 自己免疫性PAPは、洗浄療法(全肺洗浄)が行われる。試験的治療としてGM-CSF吸入、GM-CSF皮下注も試みられている。 続発性PAPは基礎疾患の治療、あるいは、洗浄療法(全肺洗浄あるいは区域洗浄)を行う。骨髄異形成症候群に伴う続発性PAPで骨髄移植によりPAPも改善したとの報告がある。 先天性PAPは、対症療法等行っても予後は不良である。 ■合併症 自己免疫性PAP 212名の調査では、6%に感染症(肺アスペルギルス症、非結核性抗酸菌症、肺結核、肺炎)、1.9%に悪性疾患、1.4%に自己免疫性疾患、1.4%に肺線維症を合併していた。続発性PAPでは原疾患の合併症が加わる

2)後天的な自己抗体産生によるもの e) 後天性血管性浮腫(AAE)

皮膚、気道、消化管などに反復する局所的な血管性浮腫。低悪性度のリンパ増殖性疾患(低悪性度悪性リンパ腫、慢性リンパ球性白血病、M蛋白血症)に伴うもの(Type1)と、C1インヒビターに対する自己抗体の出現(Type2)によるものがある。 症状及び治療等については、7. 先天性補体欠損症の57. 遺伝性血管性浮腫(C1インヒビター欠損症)を参照

:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本免疫不全症研究会