1. 免疫疾患
  2. 大分類: 後天性免疫不全症
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後天性免疫不全症候群(HIV感染によるものに限る。)

こうてんせいめんえきふぜんしょうこうぐん (えいちあいぶいかんせんによるものにかぎる。)

acquired immune deficiency syndrome (AIDS) due to HIV infection

告示

番号:19

疾病名:後天性免疫不全症候群(HIV感染によるものに限る。)

概要

後天性免疫不全症候群(AIDS)は、ウイルス感染によって生じる後天性免疫不全症で、厚生労働省は、「レトロウイルスの一種であるヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus;HIV)の感染によって免疫不全が生じ、日和見感染症や悪性腫瘍が合併した状態」と定義している。 HIVに感染した後、CD4陽性リンパ球数が減少し、無症候性の時期(無治療で約10年)を経て高度の免疫不全症に陥り、日和見感染症や悪性腫瘍が生じてくる。

病因

血液を主体とする体液を介したHIV感染症による。HIVは、表面の糖蛋白gp120の作用によりCD4分子及びケモカインレセプターに粘着し細胞に感染することから、CD4陽性Tリンパ球及び一部のマクロファージと樹状細胞が主に感染を受ける。 感染細胞は、ウイルス増殖又はキラーT細胞の作用により殺されるとともに、HIVのVpr蛋白の作用によりアポトーシスに陥りやすくなる。また、非感染CD4陽性Tリンパ球は、gp120を介した合胞体形成、gp120結合中のT細胞レセプター刺激によるアポトーシス及びgp120抗体による架橋で起こるFas分子表出によるアポトーシスなどのため死滅する。こうしてCD4陽性Tリンパ球が減少すると、ヘルパーT細胞及びリンホカイン産生T細胞の機能不全を来たし、細胞性免疫不全をもたらす。また、マクロファージ活性化因子の産生不全から結核菌や真菌等の感染を起こす。さらに、IL-2やINF-γの産生不全からキラーT細胞及びNK細胞の機能不全を来たし、サイトメガロウイルス(CMV)及びヘルペスウイルス感染の重症化に繋がる。 一方、悪性腫瘍の発生機序は単一ではなく、免疫学的監視の低下、発がんウイルス共感染、HIVの作用などが考えられている。

疫学

世界では、2012年末でHIV感染症者は約3,530万人と推計されている。このうち、2012年の新規HIV感染症者は約230万人(成人約200万人、小児約26万人)で、減少しつつあるとされている。また、AIDS関連死は約160万人、抗HIV治療は約970万人で実施されているとされている。 我が国では五類感染症として全例届出が義務付けられている。2013年の新規HIV感染症は1,077件、新規AIDS発症は469件と報告されている。 感染経路は性的接触(同性間、異性間)、母子感染、静注等(注射針の共用、献血を含む薬剤汚染等)に大別される。我が国では、同性間性的接触が760件(約71%)、異性間性的接触が189件(約18%)、母子感染は1件、静注等その他が7件であった。

臨床症状

HIV感染症及びAIDSの診断は、サーベイランスのためのHIV感染症/AIDS診断基準(厚生労働省エイズ動向委員会、2007年)(別表)による。 成人及び年長児では、臨床症状に応じて、病期が以下の通りに分けられている。 1. 急性感染期 HIV感染症成立の1~2週間後から数日~10週間程度継続する。106コピー/mLを超える急激なHIV血症とCD4陽性Tリンパ球数の低下を認める。身体症状はインフルエンザ様又は伝染性単核球症様(発熱、咽頭痛、筋肉痛、皮疹、リンパ節腫脹、頭痛など)で、無自覚から無菌性髄膜炎に至るまで程度は様々であるが、多くの場合自然軽快する。 2. 無症候期 急性感染期に急激に増加したHIVは、感染後の免疫応答により一定の水準に低下し、6~8か月後に定常状態になる。数年~10年間続くこの病期はHIV感染症に係る特徴的な症状に乏しいが、後期には発熱、倦怠感、リンパ節腫脹などが出現する。 3. AIDS期 無症候期までに適切な治療が行われないと、あるときから、定常状態にあったHIVが増加する。また、CD4陽性Tリンパ球が急激に減少し、後述する合併症の項に掲げる症状が出現する。食欲低下、下痢、低栄養状態、衰弱など全身状態も悪化し、HIV脳症を来す場合もある。無治療の場合、AIDS期から約2年で死亡するとされている。 年少児では上記と異なる場合があり、リンパ節腫脹や肝脾腫など、乳児期では鵞口瘡や成長遅滞などの非特異的な症状が認められることがある。特に母子感染では、1歳までに病状が急速に進行する場合と、より緩徐に5~6年で進行する場合がある。無治療の場合、5歳までにほとんどが死亡する。

治療

小児においても成人と同様に抗レトロウイルス薬(ART)の多剤併用によるAIDS発症抑制が中心となる。治療開始は、CD4陽性Tリンパ球数で判断される。ただし、1歳以上5歳未満ではCD4陽性Tリンパ球分画(%)で判断される。1歳未満では病期の進行が早い場合があり、また検査値からのリスク予測が困難であることから、検査値にかかわらず治療開始が考慮される。無症候期における治療効果判定はHIV RNA量で行う。また、CD4陽性Tリンパ球数が免疫能の指標となる。 母子感染予防及び早期診断の観点から、妊娠女性に対するHIV検査が重要である。HIV陽性妊娠女性の児における感染予防については、HIV母子感染予防対策マニュアルに詳しい。HIV陽性児及びHIV陽性妊娠女性出産児で非感染と診断されていない児では、ニューモシスティス肺炎の予防のため、ST合剤の投与が推奨される。予防接種について、不活化ワクチンは全て推奨時期に実施する。生ワクチンは重度の免疫低下状態の児に対しては禁忌とされるが、それ以外の、免疫低下を来す前の児にはむしろ積極的に考慮される。ただし、効果の持続に問題があるとされるため、注意深い経過の観察が望まれる。

合併症

CD4陽性リンパ球数減少により、下記に掲げるような日和見感染症が出現する。 (1) 500/mm3以下:結核、帯状疱疹など (2) 200/mm3以下:ニューモシスティス肺炎、トキソプラズマ脳炎など (3) 50/mm3以下:CMV感染症、全身性非定型抗酸菌感染症など さらに、悪性リンパ腫などの悪性腫瘍や、その他に指標疾患に掲げるような疾患が認められる。

別表

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-07.html) ア HIV感染症の診断(無症候期) (ア)HIVの抗体スクリーニング検査法(酵素抗体法(ELISA)、粒子凝集法(PA)、免疫クロマトグラフィー法(IC)等)の結果が陽性であって、以下のいずれかが陽性の場合にHIV感染症と診断する。 (1) 抗体確認検査(Western Blot法、蛍光抗体法(IFA)等) (2) HIV抗原検査、ウイルス分離及び核酸診断法(PCR等)等の病原体に関する検査(以下「HIV病原検査」という。) (イ)ただし、周産期に母親がHIVに感染していたと考えられる生後18か月未満の児の場合は少なくともHIVの抗体スクリーニング法が陽性であり、以下のいずれかを満たす場合にHIV感染症と診断する。 (1) HIV病原検査が陽性 (2) 血清免疫グロブリンの高値に加え、リンパ球数の減少、CD4陽性Tリンパ球数の減少、CD4陽性Tリンパ球数/CD8陽性Tリンパ球数比の減少という免疫学的検査所見のいずれかを有する。 イ AIDSの診断 アの基準を満たし、下記の指標疾患(Indicator Disease)の1つ以上が明らかに認められる場合にAIDSと診断する。 AIDSの診断 (付記)厚生労働省エイズ動向委員会によるAIDS診断のための指標疾患の診断法 (略)下記のいずれかを参照のこと。 http://api-net.jfap.or.jp/library/MeaRelDoc/03/images/070808_03.pdf http://www.acc.go.jp/information/surveillance.html
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本免疫不全症研究会