疾患概念
再生不良性貧血は、骨髄での3血球系統(白血球系、赤血球系および血小板系)の産生が減少し、その結果、末梢血での白血球、赤血球および血小板数のすべてが減少する(汎血球減少)1つの症候群である。診断にあたっては、骨髄標本で各血球成分に形態異常を認めないこと、白血病や固形腫瘍の腫瘍細胞を認めないことなどが必要とされている。実際に汎血球減少がみられる疾患は多数存在するので、汎血球減少がみられる他の疾患を除外することによって初めて再生不良性貧血と診断することができる。
疫学
小児再生不良性貧血は年間100万人あたり2人の発症がみられる1)。日本の小児例においては、日本小児血液・がん学会再生不良性貧血・骨髄異形成症候群(MDS)委員会で患者登録が行われており、年間70~100人が新規登録されている。
病因
造血幹細胞が減少する機序として造血幹細胞自身の質的異常と、免疫学的機序による造血障害の2つが考えられている2)。また、成因によって先天性と後天性に分けられる。
先天性は10%を占め、ファンコニ(Fanconi)貧血、先天性角化不全症、シュワッハマン・ダイアモンド(Shwachman-Diamond)症候群、先天性無巨核球性血小板減少症などが含まれる。これらの疾患は特徴的な身体所見や臨床症状を呈し、診断の手がかりになる場合が多い。近年、それぞれの疾患の責任遺伝子が同定されてきており、遺伝子検査が確定診断に有用である。
後天性には原因不明の一次性(特発性)と、クロラムフェニコールなどの薬剤、放射線被曝やベンゼンなどによる二次性がある。特殊なものとして肝炎に関連して発症する肝炎関連や発作性夜間血色素尿症(PNH)に伴うものがある。
さらに、小児MDSの骨髄は低形成であることが多い2017年のWHO分類改訂第4版3)において、小児ではrefractory cytopenia of childhood(RCC)として分類されているが、再生不良性貧血とRCCの異同について検討されている4)。
臨床症状
主要症状は労作時の息切れ、動悸、めまいなどの貧血症状と、皮下出血斑、歯肉出血、鼻出血などの出血傾向である。好中球減少の著しい症例では感染による発熱が初発症状であることがある。軽症、中等症例では無症状で検診等において偶然にみつかる場合もある。他覚的徴候としては、顔面蒼白、貧血様の眼瞼結膜、皮下出血、歯肉出血などがみられる。血小板減少が高度の場合には眼底出血をきたして視力障害をおこすこともある。
治療
貧血に対してはヘモグロビン値を7 g/dL以上に保つように赤血球輸血を行う。血小板数が10,000 /uL以下で明らかな出血傾向があれば血小板輸血を行う。しかし、輸血は未知の感染症や血小板輸血に対する不応性を招く危険性があるうえ、同種造血細胞移植時の拒絶の危険性が増すので必要最小限にとどめるべきである。長期の赤血球輸血では鉄過剰症による臓器障害が問題となるため、フェリチン値 1000 ng/mLを目処に除鉄剤の投与を行う。
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の投与によりほとんどの例で好中球は増加するが投与を中止するともとの値に戻り、その効果は一時的である5)。また、G-CSF長期投与が骨髄異形成症候群や白血病の発症に関与する可能性が指摘されているため不要な投与は慎むべきである6)。
重症度別治療指針として、最重症・重症例においては、HLA適合血縁ドナーがいる場合、速やかに同種骨髄移植を選択する。HLA適合同胞ドナーが得られない場合には抗胸腺細胞グロブリン(ATG)やシクロスポリンを用いた免疫抑制療法を施行する。免疫抑制療法にTPO受容体作動薬の併用も考慮されるが7)、小児での有効性・安全性はまだ確立されていない。免疫抑制療法が無効な場合には、非血縁者間骨髄移植を行う。緊急的に造血細胞移植を必要とする場合は臍帯血も選択される。末梢血幹細胞は慢性GVHDの増加による生存率の低下が示されており、骨髄の方が望ましい8)。
予後
軽症、中等症の症例のなかには、汎血球減少があっても全く進行しない症例や、少数ではあるが自然に回復する症例もある。しかし、無治療で経過観察した輸血非依存性例の多くはその後輸血が必要となり、その時点で免疫抑制療法を施行しても改善が得られにくい9,10)ため、早期の治療介入が重要と考えられている。かつては、重症例は支持療法のみでは半年で50%が死亡するとされていた。最近では抗菌薬・抗真菌薬、G-CSF、血小板輸血などの支持療法が進歩し、免疫抑制療法や骨髄移植が発病後早期に行われるようになったため、80-90%に長期生存が期待できる。ただし、最重症例で感染症がコントロールできない患者では予後は極めて不良である。また、頭蓋内出血や眼底出血により後遺症を残す可能性もある。
成人期以降の注意点
造血細胞移植施行例においては晩期合併症を意識した長期的な管理が必要である。免疫抑制療法施行例ならびに無治療経過観察例においては血球減少の増悪や病勢進展を意識した定期的な経過観察を要する。
参考文献
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- Hama A, Takahashi Y, Muramatsu H, et al. Comparison of long-term outcomes between children with aplastic anemia and refractory cytopenia of childhood who received immunosuppressive therapy with antithymocyte globulin and cyclosporine. Haematologica. 100:1426-33, 2015
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- Nishio N, Yagasaki H, Takahashi Y, et al. Natural history of transfusion-independent non-severe aplastic anemia in children. International journal of hematology. 2009; 89: 409-13.
- 再生不良性貧血診療の参照ガイド 令和元年度改訂版 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業 特発性造血障害に関する調査研究班. 2019
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2014年10月1日
- 文責
- :日本小児血液・がん学会