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先天性プロテインS欠乏症

せんてんせいぷろていんえすけつぼうしょう

heritable thrombophilia; protein S deficiency

告示

番号:45

疾病名:先天性プロテインS欠乏症

概要

小児の血栓症は近年増加しており、新生児期・早期乳児期と思春期に多い[1]。特発性と診断される日本人の主な遺伝性血栓症は、プロテインS (PS)、プロテインC(PC)およびアンチトロンビン(AT)欠損症である。いずれも常染色体優性遺伝病で、各遺伝子のヘテロ変異保有者は思春期に深部静脈血栓症を、ホモおよび複合へテロ接合の重症型は新生児に脳梗塞・出血、かつまたは電撃性紫斑病をおこす[2]。

疫学

日本人の小児先天性血栓症は最近の全国調査から現在60名以上と考えられる。内訳はおよそPC異常65%、PS異常20%、AT異常15%と推定される[3]。成人血栓症におけるこの3大抗凝固因子欠損症の割合はPS異常が最も多いとされている。成人までに血栓症を最も発症しやすい時期は新生児と思春期で、前者にはPC異常が、後者にはPS異常の割合が多い。

原因

小児はこの3大抗凝固因子の成熟段階にあるため、とくに新生児と乳児早期における各因子の遺伝性欠乏症(とくにヘテロ変異による)の診断が難しい。中心静脈カテーテル、感染、ビタミンK欠乏、母体の抗リン脂質抗体症候群などは新生児・小児期における血栓発症の後天性因子・誘因となる。従って、小児では遺伝子診断が必要となる。再発リスクの高い遺伝的素因を明らかにしなければ予防的抗凝固療法の適応をきめることは困難である。児にPC(PROC)、PS(PROS1)、AT(SERPINC1)遺伝子異常を有する各因子の欠乏症の場合、ほとんどは両親がこの保因者(発症者)である。

症状

新生児・乳児は脳梗塞と出血、水頭症、硝子体出血、電撃性紫斑病(四肢先端の壊死、紫斑)、腎不全、ショックなどをきたす[4]。学童-思春期の患者は、成人と同様な発症様式で、下肢の深部静脈血栓症(足のむくみ、正座不能、疼痛と赤紫色の腫脹)、肺血栓塞栓症(胸痛と呼吸困難)などをおこす。成人女性では、習慣性流産の原因の一つとなる。

治療

急性期にはウロキナーゼ、遺伝子組み替え組織プラスミノゲンアクチベーターなどによる血栓溶解療法や外科的な血栓除去術が、再発予防にはヘパリンやワーファリンなどによる抗凝固療法が行われる。小児とくに新生児では治療法に関する情報が乏しい[5]。ATおよびPC欠損症に対しては、日本ではそれぞれAT製剤と活性化PC製剤が使用可能である。

予後

肺血栓塞栓症と電撃性紫斑病は、早期に適切な治療が行われなければ致死的となる。生存例も脳梗塞・出血をきたすと神経学的後遺症(小児では精神運動発達障害)を残し、重度では寝たきりとなる。硝子体出血などでは盲に至る。その他、血栓による各臓器不全(腎、肺など)により長期管理が必要となる。電撃性紫斑病では、壊死した四肢の切断に至ることも少なくない。

参考文献

1) Nowak-Göttl U, Janssen V, Manner D, et al. Venous thromboembolism in neonates and children--update 2013. Thromb Res. 2013; 131 Suppl 1:S39-41. 2) Lipe B, Ornstein DL. Deficiencies of natural anticoagulants, protein C, protein S, and antithrombin. Circulation. 2011; 124: e365-8. 3) Ohga S, Ishiguro A, Takahashi Y, et al. Protein C deficiency as the major cause of thrombophilias in childhood. Pediatr Int. 2013; 55:267-71. 4) Chalmers E, Cooper P, Forman K, et al. Purpura fulminans: recognition, diagnosis and management. Arch Dis Child. 2011; 96: 1066-71. 5) Goldenberg NA, Manco-Johnson MJ. Protein C deficiency. Haemophilia. 2008; 14: 1214-21.
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児血液・がん学会