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  2. 大分類: 血小板機能異常症
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血小板無力症

けっしょうばんむりょくしょう

thrombasthenia

告示

番号:12

疾病名:血小板無力症

疾患概念

血小板無力症は、先天的に出血傾向を呈し、血小板数は正常であるものの血小板膜糖蛋白(GP)IIb/IIIa欠損によりフィブリノゲン依存性の血小板凝集欠如を特徴とする血小板機能異常症である。

疫学

わが国では最近の疫学調査がないため、血小板機能異常症の正確な頻度は不明であるが、1986年の全国調査の報告によると血小板無力症が222例、Bernard-Soulier症候群が43例登録されており、先天性血小板機能異常症のなかで最も頻度が高い。その後、血小板機能異常症の診断法の進歩により、多くの施設で経験されるようになったが、まれな疾患であることに変わりはない。

病因

血小板は血管破綻部位に集まって、凝集塊(一次血栓)を形成するがそのプロセスは粘着、放出、凝集の3段階に分かれて進行する。すなわち血管が破綻すると、血流面に露呈した血管内皮下組織にvon Willebrand因子を接着剤として血小板膜表面に存在する糖蛋白(GPIb/IX/V複合体)を介して血小板が粘着する。粘着した血小板は収縮して、血小板細胞の顆粒の中に貯蔵されていた活性化物質(アデノシン2リン酸、セロトニン、フィブリノゲンなど)を放出する。これらの活性化物質は、血小板膜に存在する別の糖蛋白GPIIb/IIIa複合体、インテグリンαIIb/β3とも呼ばれる)に働き、血漿中のフィブリノゲンを接着剤として血小板同士が付着(凝集)するようにする。かくしておびただしい数の血小板が凝集して一次血栓を形成し、とりあえず血管破綻部位からの血液の流出を食い止める。この反応プロセスで、GPIIb/IIIa複合体の遺伝的欠損により凝集能が障害されるのが血小板無力症で、常染色体劣性遺伝形式をとる。

臨床症状

鼻粘膜や口腔粘膜、皮膚表層の出血が主体で、鼻出血や歯肉出血、紫斑を認める。初潮開始以降の女性では月経過多の頻度が高い。抜歯など小手術後の止血困難で診断されることもある。時には消化管出血や血尿も見られ、打撲などの外的要因により頭蓋内出血など重篤な出血を来たすことがある。一方、血友病でよく認められる関節内出血や筋肉内出血などの深部出血はほとんどない。出血症状の強さには個人差があり、これらの個人差には膜糖蛋白の欠損の程度が関与している。

治療

最も重要なことは、重篤な出血を回避する生活指導である。また、血小板機能を抑制する薬剤(非ステロイド系消炎鎮痛剤など)を服用しないように指導する。皮膚・粘膜の小出血には圧迫止血が基本であるが、鼻出血や口腔内出血などの粘膜出血には抗プラスミン剤が有効である。重篤な出血や外科手術においては血小板輸血が唯一の治療法である、幼少時期は鼻出血や消化管出血でもしばしば血小板輸血を要するが、一般的には成人になるに従い、出血症状は軽減していく。血小板輸血を繰り返すことで、HLAや血小板膜糖蛋白に対する同種抗体ができて、適合血小板以外は効果がなくなることがあり、この場合は遺伝子組み換え活性型第VII因子製剤を投与する。

参考文献

  1. 金子 誠、矢富 裕:血小板機能異常症の診断と対応.  わかりやすい血栓と止血の臨床(日本血栓止血学会編) 南江堂、東京、2011、p48-54
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児血液・がん学会