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メイ・ヘグリン(May-Hegglin)異常症

めい・へぐりんいじょうしょう

May‐Hegglin anomaly

告示

番号:51

疾病名:メイ・ヘグリン異常症

疾患概念

本疾患は、先天性血小板減少症の中で巨大血小板症を呈する代表的疾患の一つである。これまで、メイ・ヘグリン(May-Hegglin)異常、セバスチャン(Sebastian)症候群、フェクトナー(Fechtner)症候群、エプスタイン(Epstein)症候群と別々に呼称されてきた類縁疾患が、同一の遺伝子(MYH9遺伝子)異常に起因することが明らかとなり、これらを包括する疾患概念として本疾患が提唱された(つまり、メイ・ヘグリン異常はメイ・ヘグリン異常症に包含される1病型となる)。同義で、MYH9異常症という疾患名も使用される。
具体的な定義としては、血小板減少症、巨大血小板症がみられ、MYH9遺伝子異常が原因である場合に、本疾患と診断する。その他、末梢血塗抹標本像での顆粒球封入体(デーレ様小体:Döhle-like bodies)の存在や、腎炎、難聴、白内障といったアルポート(Alport)症状は本疾患を示唆する所見である。
なお、巨大血小板の正式な定義はないが、末梢血塗抹標本上、概ね正常血小板の大きさの2倍程度(直径4μm)の場合に大型血小板、赤血球大(直径8μm)以上の場合に巨大血小板と判定する。免疫性血小板減少性紫斑症(ITP)でも大型血小板はしばしば観察されるが、大多数の血小板は正常大である。
一方、先天性巨大血小板症では大多数の血小板は大型あるいは巨大であり、正常大血小板はまれである。以下に、これまで使用されてきた疾患名のそれぞれの臨床的特徴を示す。

メイ・ヘグリン異常:明瞭な顆粒球封入体を認める セバスチャン症候群:やや不明瞭な顆粒球封入体を認める フェクトナー症候群:アルポート症状(腎炎・難聴・白内障)を認める エプスタイン症候群:アルポート症状を認めるが、顆粒球封入体は同定困難

疫学

非常にまれな疾患であり、発症頻度は10万人に1人程度と推測される。但し、原因遺伝子が同定されたのが比較的最近であり、まだまだ見逃されている症例は多いと考えられる。これまで難治性の慢性ITPと診断されていた症例の一部に本疾患が含まれている可能性がある。なお、國島らの検討では、200例を超える先天性巨大血小板症の解析で、本疾患が原因の約30%を占め、最も高頻度であった。本疾患以外の先天性巨大血小板血症としては、Bernard-Soulier症候群、GPIIb/IIIa異常、2B型von Willebrand病、β1-tubulin異常、灰色血小板(Gray platelet)症候群が挙げられる。

病因

非筋ミオシン重鎖IIA(Nonmuscle myosin heavy chain IIA:NMMHCA-IIA)をコードするMYH9遺伝子のヘテロ接合変異が原因であり、常染色体優性遺伝するが、30%の症例はde novo変異による孤発例である。
MYH9遺伝子の異常により、正常なミオシン機能は優性阻害的に障害される。巨核球からの胞体突起形成を介した血小板産生はミオシン活性化により制御されており、本疾患では、巨核球が十分に分化成熟する前に胞体突起を形成し血小板が放出されてしまうため、血小板の形態異常(巨大血小板)と数の減少(血小板減少)の両者が生じる。

臨床症状

鼻出血や歯肉出血といった軽度の粘膜出血や出血斑を認めることもあるが、無症状のことが多い。アルポート症状(腎炎、難聴、白内障)を合併することがある。腎炎の病態は糸球体上皮細胞障害による巣状分節性糸球体硬化症であり、蛋白尿が主体である。難聴は、両側性の高音性感音性難聴パターンを呈する。なお、本疾患とは別に、感音性難聴、眼症状を伴う遺伝性の進行性腎炎としてアルポート(Alport)症候群があるが、こちらはIV型コラーゲンの異常を原因とする糸球体基底膜疾患で、血尿を主体とするので、混同しないよう注意する。
血液検査で、血小板数は5万/μl前後のことが多いが、自動血球計数装置では巨大血小板が血小板数として計測されないことも多く、見かけ上、より低値を示すため、目視による血小板数の確認は必須である。平均血小板容積(mean platelet volume:MPV)は高値もしくは計測不能を示すが、同様に目視による確認が必要である。その他、末梢血塗抹標本での顆粒球細胞質内の封入体(デーレ様小体)の存在は本疾患を示唆する所見である。
特殊検査として、末梢血塗抹標本を非筋ミオシン重鎖IIA免疫蛍光染色することにより、非筋ミオシン重鎖IIA蛋白凝集による顆粒球封入体の同定が可能となる。遺伝子検査ではMYH9遺伝子のヘテロ接合変異を認める。

治療

通常は出血に対する治療を必要としないことが多いが、出血症状が著しい場合や手術などの観血的処置が必要な場合には血小板輸血の適応を考慮する。腎炎が進行し末期腎不全に至った場合には腎移植、難聴に対しては人工内耳が有効である。

予後

血液学的異常は生涯変わらないが、アルポート症状は進行性であり、予後に最も影響する。アルポート症状は、幼少期には認められなくても学童期以降に出現することがあり、検尿を含めた定期的評価は必要である。なお、MYH9遺伝子の異常部位とアルポート症状の合併頻度には相関があるとされる。

成人期以降の注意点

血小板減少以外に腎炎、聴力障害、白内障を呈する一群についてはこれらの症状が進行しうるため長期的な健康管理支援が必要。これら症状は学童期以降に出現することもある。
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児血液・がん学会