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ピルビン酸キナーゼ欠乏性貧血

ぴるびんさんきなーぜけつぼうせいひんけつ

Hemolytic anaemia due to red cell pyruvate kinase deficiency

告示

番号:6

疾病名:ピルビン酸キナーゼ欠乏性貧血

疾患概念

赤血球酵素異常症は、赤血球機能を維持する上で重要な解糖系、ペントースリン酸回路、グルタチオン代謝・合成系、ならびにヌクレオチド代謝に関連した酵素の異常による。わが国の先天性溶血性貧血の原因で多く見られる赤血球酵素異常症では、解糖系酵素異常症としてピルビン酸キナーゼ(PK)異常症、グルコースリン酸イソメラーゼ(GPI)異常症、ペントースリン酸経路ではグルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)異常症、そしてヌクレオチド代謝系ではピリミジン-5'-ヌクレオチダーゼ(P5N)異常症の頻度が高い。

疫学

PK異常症はわが国の赤血球酵素異常症の中でG6PD異常症の次に頻度が高い。遺伝形式は常染色体劣性遺伝で、臨床症状を呈するのはホモ接合変異、ないしは複合ヘテロ接合変異で、まれにヘテロ接合変異でも軽度の貧血を呈することがある。わが国においては20%がホモ接合体、80%は複合ヘテロ接合体である。

病因

PK異常症で同定される遺伝子変異の70%はミスセンス変異、15%はスプライシング、その他フレームシフトやナンセンス変異で、高次構造が大きく変化する遺伝子変異が1/4程度みられる。通常、一次構造が正常とは異なる変異酵素が産生され、酵素活性の低下や酵素分子の不安定性により赤血球代謝を障害して溶血をきたす。PK異常症では、解糖系の障害によりATPの産生が低下し、脱水により赤血球は有棘赤血球となり、変形能を失い、脾内の網内系細胞に捕捉されることにより溶血する。

臨床症状

貧血、黄疸、脾腫、胆石症と、慢性溶血性貧血の一般症状を呈し、感染などのストレスで貧血が増強する。貧血の程度は新生児黄疸が著明で交換輸血を必要とし、その後も頻回の輸血を必要とする例から、成人になって初めて発見される例まで、異常酵素の性質により様々である。

治療

PK異常症では、遺伝性球状赤血球症ほどの効果が得られないにしても、摘脾によりヘモグロビン濃度にして2g/dl程度の上昇が期待できる。頻回な輸血を要する重症例では除鉄療法を併用する。鉄過剰症などの危険性が高い例は摘脾の適応である。重症例には根治療法として造血幹細胞移植の報告がある。

予後

一般には天寿を全うする例が多いが、中には胎児水腫例や新生児期の死亡例も報告されている。頻回の輸血によりヘモジデローシスを合併し、成人に達するまでに死亡する重症例もある。

成人期以降の注意点

慢性溶血性貧血を呈する患者には脾摘が有効であるが、重篤な血栓傾向を合併することもあり重症例のみが適応となる。無効造血による二次性鉄過剰症を発症する例もある。

参考文献

  1. 藤井 寿一:赤血球膜異常症. 三輪血液病学(第3版),p1135-1139, 文光堂, 2006.
  2. 別冊日本臨床 血液症候群(第2版) 2013
  3. UpToDate® http://www.uptodate.com/contents/overview of hemolytic anemias in children/
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児血液・がん学会