1. 血液疾患
  2. 大分類: 遺伝性溶血性貧血
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不安定ヘモグロビン症

ふあんていへもぐろびんしょう

Unstable haemoglobin disease

告示

番号:7

疾病名:不安定ヘモグロビン症

疾患概念

ヒトヘモグロビン(血色素、Hb)は141個のアミノ酸を持つαグロビンと146個のアミノ酸を持つ非αグロビンの各2分子からなる四量体である。各グロビンのサブユニットの疎水性ポケットには1個のヘムが結合しており、Hbは計4個のヘムを持っている。本症はこのHbの量的・質的異常に起因する遺伝性疾患である。Hb異常症のうちHbの量的異常をサラセミアといい、質的異常を異常Hb症という。Hbの質的異常である異常Hb症で最も頻度の高い不安定Hb症は、Hbのグロビン鎖アミノ酸変異によりHbの安定性が失われ,酸化ストレスに対する抵抗性が減弱して慢性溶血や一過性の溶血発作を起こす常染色体優性遺伝の先天性溶血性疾患である。

疫学

異常Hb症は日本人の約3,000人に1人の割合で存在する。Hbを構成するアミノ酸のどこの部分にも置換が起こりうるため、相当数の異常Hbの存在が予想される。現在知られている日本の異常Hbは210種類以上(世界的には800種類以上)に及ぶ。日本では10種類の変異体が多く発見されている。

病因

Hb異常症のほとんどは遺伝性疾患で、ナンセンス変異、フレームシフト変異、スプライシング変異や数塩基から広範囲な遺伝子欠失などによる遺伝子異常により生じる。

臨床症状

約60%は無症候性,溶血を示すのは全体の20%である。不安定Hbの重症度は家系ごとに異なる。HbA1c測定中に異常パターンや異常値から偶然発見されることが多い。比較的特徴的な溶血発作と、溶血性疾患に共通の無効造血が起こり得る。異常Hbは熱・酸化剤・有機溶媒・振動・重金属イオンなどにより変性し,赤血球内で沈殿を形成すると,変形能が損なわれて脾洞内などのマクロファージに貧食され,末梢血に奇形赤血球や破砕赤血球が観察される。溶血発作は感染症とくに上気道炎、解熱剤や抗生物質などの酸化剤の使用に際して起こることが多い。酸素飽和度の低下によって気づかれる事も多い。

治療

軽症であれば治療を要さない。感染症による発熱、解熱剤や抗生物質などの酸化剤等、溶血の誘発原因を避けることが原則であるが、重度の溶血が見られる場合には輸血を必要とし、脾摘を行う場合もある。脾摘の効果は症例ごとで異なるため、酸素親和性なども合わせて慎重な判断が必要である。

予後

軽症例の予後は良い。重症例では輸血による鉄過剰が問題となるため早期から除鉄療法を並行して行う。

成人期以降の注意点

一般的には特別な治療を必要としないが軽症から重症まで幅広く存在し、脾機能亢進に伴い脾腫を認める場合や反復する急性溶血発作による腎機能障害例がある。

参考文献

  1. Disorders of Hemoglobin,2001 Steinberg et al.
  2. 別冊日本臨床 血液症候群(第2版) 20133
  3. 稀少疾患 疾患概要 Ophanet
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児血液・がん学会