1. 血液疾患
  2. 大分類: 鉄芽球性貧血
5

鉄芽球性貧血

てつがきゅうせいひんけつ

sideroblastic anaemia

告示

番号:46

疾病名:鉄芽球性貧血

疾患概念

鉄芽球性貧血は、赤芽球のミトコンドリアに鉄の異常沈着を認める貧血の総称である。骨髄における環状鉄芽球の出現を特徴とし、環状鉄芽球はミトコンドリアへの鉄の異常蓄積により形成される。鉄芽球性貧血は、遺伝性鉄芽球性貧血と、骨髄異形成症候群(MDS)およびアルコールや薬剤による二次性鉄芽球性貧血からなる後天性鉄芽球性貧血に大別される。

疫学

 遺伝性のものより骨髄異形成症候群に伴う後天性のものが圧倒的に多い。遺伝性鉄芽球性貧血の発症頻度は極めて稀で詳細な疫学データはない。最も頻度の高い遺伝性鉄芽球性貧血はX連鎖性鉄芽球性貧血(XLSA) で、現在までに100種類程度のALAS2の変異が確認されている1)

病因

 遺伝性鉄芽球性貧血の原因となる遺伝子は複数あり,それぞれの機能は異なっている。厚生労働省研究班(遺伝性鉄芽球性貧血の診断分類と治療法の確立班)による本邦の遺伝性鉄芽球性貧血の調査研究では,変異遺伝子が確定した症例の大多数は ALAS2 遺伝子変異によるXLSAであった2)。XLSAではALAS2の機能喪失型変異により赤血球におけるヘム合成が不全となり、ミトコンドリアでの鉄利用障害起こるものと考えられている。その他にも鉄-硫黄クラスター合成・輸送にかかわる遺伝子、ミトコンドリアDNA遺伝子、ミトコンドリアトランスポーター遺伝子、ミトコンドリアtRNA関連遺伝子など複数の遺伝子の変異が報告されている。ただし、原因遺伝子が同定されない遺伝性鉄芽球性貧血も多く、既報の遺伝子以外にも原因となる遺伝子が存在すると考えられている3)。

臨床症状

  1. 貧血 病型により軽度~中等度まで認められる。原因遺伝子が同じであっても、変異によって重症度が異なる。
  2. ヘモクロマトーシス 病型と輸血量によりその程度は異なる。
  3. その他の合併症 ALAS2およびSLC25A38以外の遺伝子変異による遺伝性鉄芽球性貧血の場合、ミトコンドリア機能異常などにより、造血不全以外の臓器障害(小脳失調、代謝性アシドーシス、膵外分泌不全、インスリン依存性糖尿病、神経症状など)を認めることがある。

診断

遺伝性鉄芽球性貧血は、まず鉄芽球の存在、若年発症、遺伝性により疑い、遺伝子解析により診断を確定する。診断基準の詳細は「診断の手引き」参照のこと。

診断の際の留意点/鑑別診断

後天性鉄芽球性貧血は発症年齢、遺伝性から鑑別が可能であるが、成年発症のXLSA症例も報告されている。アルコール性、薬剤性の後天性鉄芽球性貧血については、生活歴、治療歴から鑑別する。薬剤性はビタミンB6に対する拮抗作用を原因として発症することが多い。また、多系統の血球に異常が認められる場合や染色体異常が認められる場合は骨髄異形成症候群の診断となるが、貧血のみで遺伝子・染色体異常がなく、特にビタミンB6に反応する場合は、遺伝性鉄芽球性貧血を考慮するべきである1)。

治療

  1. 薬物療法
    1. ビタミン補充療法XLSAでは半分以上の患者がピリドキシン(ビタミンB6)の経口投与に反応する。チアミン反応性巨赤芽球性貧血ではチアミン(ビタミンB1)の投与で反応を示す。その他の疾患では特異的な薬物療法はない。
    2. 鉄キレート療法
    3. 輸血依存状態となった症例では、鉄過剰症によるヘモクロマトーシスのリスクが高く、フェリチン値、臓器障害の有無により、鉄キレート療法を行う。


  2. 輸血療法

  3. 造血幹細胞移植少数ではあるがこれまでに報告はある4)5)。 造血細胞移植は効果があると考えられるが、ヘモクロマトーシスを伴っている症例が多く、前処置等に配慮が必要と考えられる。基本的に治療不応で輸血依存となっている症例が適応となると考えられるが,現時点で前処置等について確立されたものはない。

予後

極めて稀な疾患のため、疫学、病態解析に関してまとまった報告がなく、不明である。

成人期以降の注意点

遺伝性の場合、きわめてまれな疾患であり、自然歴、予後について不明なことが多く、成人期以降も定期的な受診の必要性を説明する必要がある。

参考文献

  1. 遺伝性鉄芽球性貧血の参照ガイド 令和1年改訂版 遺伝性鉄芽球性貧血の診断基準と診療の参照ガイド改訂版作成のためのワーキンググループhttp://zoketsushogaihan.umin.jp/file/2020/15.pdf
  2. Ohba R, Furuyama K, Yoshida K, et al. Clinical and genetic characteristics of congenital sideroblastic anemia: comparison with myelodysplastic syndrome with ring sideroblast (MDS-RS).Ann Hematol.92:1-9,2012
  3. 先天性骨髄不全症診療ガイドライン2017
  4. Medeiros BC, Kolhouse JF, Cagnoni PJ, et al. Nonmyeloablative allogeneic hematopoietic stem cell transplantation for congenital sideroblastic anemia. Bone Marrow Transplant.31:1053-1055,2003
  5. Uminski K, Houston DS, Hartley JN, et al. Clinical characterization and hematopoietic stem cell transplant outcomes for congenital sideroblastic anemia caused by a novel pathogenic variant in SLC25A38. Pediatr Blood Cancer. 67:e28623,2020
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児血液・がん学会