1. 先天性代謝異常
  2. 大分類: 神経伝達物質異常症
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芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素欠損症

ほうこうぞくえるあみのさんだつたんさんこうそけっそんしょう

Aromatic L-amino acid decarboxylase deficiency

告示

番号:55

疾病名:芳香族L―アミノ酸脱炭酸酵素欠損症

概要・定義

AADC欠損症はL-ドーパをドパミンに、5-ヒドロキシトリプトファン(5-HTP)をセロトニン(5HT)に脱炭酸化する酵素遺伝子(DDC)の異常により、神経伝達物質であるドパミン、ノルエピネフリン、エピネフリン、セロトニンの合成が障害される。常染色体性劣性遺伝形式をとるまれな先天代謝異常症で、1990年イギリスのHylandらによって最初に報告された1)。典型例は、乳児期早期からの発達遅滞および間歇的な眼球回転発作など眼球運動異常と四肢ジストニアで発症し、髄液中のHVAおよび5HIAAの低値など特徴的な所見で診断される。ドパミンアゴニストなどを用いた内服治療が試みられているが予後は不良で多くは寝たきりで発語のない状態にとどまる。

疫学

2009年度に施行された厚生労働省による全国調査では患者として明らかになったのは2家系の3人であった2)。きわめて希な遺伝性疾患で世界の報告でも100例に満たない2) 。

病因

AADC活性の欠損はL-ドーパからドーパミンの産生が低下し、ノルエピネフリン、エピネフリンの産生も低下する。このため、線条体の機能不全はジストニアと随意運動の障害の原因となる3)。末梢のカテコラミン不足は突発的な発汗、鼻閉、息止め、便秘や下痢、眼瞼下垂などの自律神経症状を引き起こす。また低血糖による意識障害や痙攣が起こることがある。同時に5-HTPからセロトニンの産生も低下しメラトニンの低下による睡眠障害を引き起こす。

症状

AADC欠損症では、およそ半数に哺乳障害、低体温、低血糖などの新生児期の異常の既往を認めることが特徴の一つである。典型例では6ヶ月以内に、間歇的な眼球回転発作(OGC)と四肢のジストニアで発症し精神運動発達は遅滞する。随意運動の障害、易刺激性、口腔顔面ジストニア、ミオクローヌスなどがある3)。

診断

髄液検査では、L-DOPAおよび5HTPとその代謝産物である3-o-methyldopaの髄液中濃度が上昇し、HVA, 5HIAAは著減している。血漿中AADC活性は低下し多くは測定感度以下となる。遺伝子変異は30数例の報告があり多くはミスセンス変異であるが、現在のところミスセンス変異の集積傾向は無い。

治療

ドパミンアゴニスト、モノアミン酸化酵素阻害剤、補酵素であるビタミンB6などを用いた薬物治療が行われているが、典型例に対してはわずかな効果しか期待できない。遺伝子治療が有効であるという報告がある4)。

予後

重症例においては症状の進行とともに嚥下困難や呼吸障害が出現し、最重症例では乳幼児期に肺炎で死亡する場合があり予後不良である。

成人期以降

現在我が国に成人例の報告はなく不明である。

参考文献

1) Hyland K, Clayton PT: Aromatic amino acid decarboxylase deficiency in twins. J Inherit Metab Dis.13:301-304, 1990 2) 新宅治夫:小児神経伝達物質病の診断基準の作成と患者数の実態調査に関する研究報告、厚生労働科学研究補助金 難治性疾患克服研究事業 平成21年度総括・分担研究報告書(研究代表者 新宅治夫)、大阪、平成22年3月;1-83 3) 加藤光広:AADC欠損症の臨床像と病態.小児神経伝達物質病の診断基準の作成と患者数の実態調査に関する研究報告書(研究代表者 新宅治夫).大阪、平成22年3月;15-16 4) Muramatsu S, et al: A phase I study of aromatic L-amino acid decarboxylase gene therapy for Parkinson's disease. Mol Ther. 2010;18:1731-1735,
:バージョン2.0
更新日
:2015年5月25日
文責
:日本先天代謝異常学会