概要・定義
尿中の3-メチルグルタコン酸(3MGCA)の過剰排泄を特徴とする疾患群であり、現在はI-Vの5型に分類されている。このうち尿中MGCAの由来が明らかなのはI型の3-メチルグルタコニルCoAヒドラターゼ(MGCH)欠損症である。他の病型は、MGCAの排泄増加は他の代謝経路の障害による二次的変化と考えられている。
疫学
いずれもきわめて稀で、I型の報告は20例に満たず、わが国では2例が確認されているのみである。
病因
遺伝形式について表に示す。II型を除き全て常染色体劣性遺伝形式を呈する(II型はX染色体劣性遺伝疾患)。
I型では、ロイシン異化の過程で3-メチルグルタコニルCoAから3-ヒドロキシ-3-メチルグルタニルCoA(HMG CoA)への変換酵素3-メチルグルタコニルCoAヒドラターゼが障害されている結果、中間代謝産物である3MGCAの著増、3-メチルグルタル酸、3-ヒドロキシイソバレリン酸の中等度の増加を認める。ロイシン負荷や長期飢餓で尿中3MGCAは上昇するが排泄量にはばらつきがある。
II~V型では各々の病態によるミトコンドリア障害が二次的に3MGCA増加を惹起すると考えられるが、その機序は十分に解明されてはいない。
症状
I型:小児期に非特異的神経症状で発症する。発語の遅れ程度のものから急性脳症、小脳失調、重度の精神運動発達遅滞に至る例まで報告されており、臨床的多様性がみられる。一方成人期に発症する緩徐進行性の白質脳症例もあり、進行性の視機能低下、四肢失調、痴呆を呈する例が報告されている。
II型(Barth症候群):乳児期に拡張型心筋症による心不全が顕在化し、心内膜線維弾性性変化や緻密化障害を認める。骨格筋ミオパチーや成長障害も合併する。周期性好中球減少が軽度から重度までみられ、新生児期には致死性の細菌感染が生じることもある。
III型(Costeff視神経萎縮症候群):乳児期の両側視神経萎縮、白内障、錘体外路症状、小脳失調、認知障害などがみられる。
IV型:進行性の神経症状、多臓器障害(肝不全、骨髄不全、膵外分泌不全等)、早期発症の肥大型心筋症、白内障、網膜色素変性などがある。一部はLeigh脳症に類似し、感音性難聴、乳酸アシドーシス発作、重度感染、低血糖を呈する。
V型:早期発症の伝導障害を伴う拡張型心筋症、非進行性小脳失調、精巣形成不全、成長障害などを呈する。
診断
『診断の手引き』参照
治療
I型では治療用特殊ミルク(ロイシン除去乳)を用いてロイシンを制限する。低蛋白食と十分なカロリー、L-カルニチンの補充を行う。急性期には他の有機酸血症と同様、高カロリー輸液や血液浄化療法を要する場合がある。
他の型では対症療法が主体となる。II型は心不全への薬物療法、好中球減少へのGCSF投与などが行われる。
予後
I型では神経症状の重症度や急性発作の有無等によるが症例数が少なく、不明な点も多い。II型は心不全や重症感染で乳児期に亡くなる例が多い。IV型は多様でミトコンドリア異常の程度や合併症による。
参考文献
- Wortmann SB et al. The 3-methylglutaconic acidurias : What’s new? J Inher Metab Dis. 2012; 35:13-22.
- Shoji Y et al. 3-methylglutaconic aciduria type I: Clinical heterogeneity as a neurometabolic desease. J Inher Metab Dis. 1999; 22:1-8.
- Matsumori M et al. A molecular lesion in a Japanese patient with severe phenotype of 3-methylglutaconic aciduria type I. Pediatr Int. 2005; 47:684-6.
- Eriguchi M et al. 3-Methylglutaconic aciduria type I causes leukoencephalopathy of adult onset. Neurology. 2006; 67:1895-6.
- 大浦敏博. メチルグルタコン酸血症. 山口清次編. 有機酸代謝異常ハンドブック 東京:診断と治療社; 2011. p. 68-9.
- 版
- :バージョン2.0
- 更新日
- :2015年5月25日
- 文責
- :日本先天代謝異常学会