1. 膠原病
  2. 大分類: 自己炎症性疾患
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クリオピリン関連周期熱症候群

くりおぴりんかんれんしゅうきねつしょうこうぐん

cryopyrin-associated periodic syndrome

告示

番号:16

疾病名:クリオピリン関連周期熱症候群

概念・定義

NLRP3遺伝子(蛋白名:cryopyrin,クリオピリン)の異常により発症する自己炎症性疾患の総称であり、炎症性サイトカインIL-1βの過剰産生により、周期性或いは持続性に全身の炎症を来す疾患群である。

病因

原因遺伝子としてNLRP3が同定されており、常染色体優性遺伝形式をとる。クリオピリンは細胞内に存在する自然免疫系のパターン認識受容体であるNOD-like receptorsの1つであり、各種病原体由来物質・内在性のストレス応答物質に対して反応してNLRP3インフラマソームを形成する。形成されたインフラマソーム蛋白複合体はcaspase-1の活性化とIL-1βの産生をもたらし、炎症が惹起される事となる。CAPSにおいてはNLRP3遺伝子の変異により病原体由来物質等の刺激なくして自発的にNLRP3インフラマソームが活性化し、過剰なIL-1βが産生される事が病態とされている。 臨床症状の強さにより、軽症病型である家族性寒冷蕁麻疹(家族性寒冷自己炎症症候群ともいう)、中等症病型のMuckle-Wells症候群、最重症病型のCINCA症候群/NOMIDの 3 病型に分類されるが、それぞれ移行型も存在し明確に病型を区別できない場合もある。即ち、常に炎症が持続するCINCA症候群/NOMIDから、寒冷刺激で炎症が惹起されない限り無症状である家族性寒冷蕁麻疹まで連続性のある疾患群としてとらえられている。

疫学

本邦では家族性寒冷蕁麻疹約5家系、Muckle-Wells症候群約30例、CINCA症候群/NOMID 約30例が報告されている

臨床所見

1症状 軽症型の家族性寒冷蕁麻疹は、寒冷刺激により炎症が惹起され、蕁麻疹様の発疹、発熱、関節痛等の症状があらわれる。間欠期には症状を認めない事も多い。一方、重症型のCINCA症候群/NOMIDでは、新生児・乳児期早期から蕁麻疹様の発疹があり、関節炎、関節症(長管骨骨幹端過形成が特徴的)、慢性無菌性髄膜炎と、それに伴うと考えられる頭痛・うっ血乳頭・精神発達遅滞・てんかんを認める。その他の症状としては、全身倦怠感、感音性難聴、ブドウ膜炎・強膜炎・結膜炎などの眼症状を認める。顔貌は特徴的で鞍鼻・前頭部突出を認め、患者は姉妹兄弟のように顔が似ていることが知られている。ばち指、足底の深いしわも比較的特徴的な所見とされる。Muckle-Wells症候群は両者の中間に位置する病型であるが、蕁麻疹様の発疹、関節炎、感音性難聴を合併し、25%の患者がAAアミロイドーシスによる腎不全に至ることが知られている。 2検査所見 家族性寒冷蕁麻疹においては発作時限定的に、CINCA症候群/NOMIDにおいては持続的に、WBC数の上昇、血沈の亢進、CRP、血清アミロイドA蛋白など炎症マーカーの上昇を認める。その病態より血中IL-1βの上昇が予想されるが、その不安定さより測定出来ない症例も存在し臨床診断には使えない。IL-6等、他の炎症性サイトカインも上昇しているが、やはり特異性にかける。比較的特異度の高い炎症性マーカーとしてS100蛋白(S100A8/A9、S100A12)が知られている。 CINCA症候群/NOMID、および一部のMuckle-Wells症候群においては無菌性髄膜炎の合併が認められ、髄液中細胞数増多と髄液圧上昇が認められる。髄液中の細胞は、多核球・単核球の何れも増加している場合が多い。 蕁麻疹様皮疹は通常非固定性であるが、皮膚の生検所見では、好中球を主体とする炎症細胞の浸潤が同定され、通常の蕁麻疹とは異なる特徴の1つである。この皮膚所見には肥満細胞の関与が報告されている。 難聴は通常感音性であり、高音域から聴力低下を認める。進行性であり、早期加療例では聴力の改善が期待されるが、進行例では不可逆的である。 3画像 CINCA症候群/NOMIDでは、無菌性髄膜炎の所見としてMRIにて髄膜の造影像が認められ、内耳にも同様の造影効果が認められる。 CINCA症候群/NOMIDに特徴的な長管骨骨幹端の過形成は、通常骨幹端近傍の骨幹部に腫瘤様病変として認められる。同部位のMRIにおける信号強度は軟骨と同等であり、その本態は成長軟骨板における軟骨内骨化の異常とされている。同病変は、初期には単純レントゲンでradiolucentであるが、後に骨化する。

診断

治療

CAPSの病態がNLRP3インフラマソームの活性化に伴うIL-1βの過剰産生であるということは、抗IL-1薬であるアナキンラが著効した事実により確かなものになった。CAPSの治療において抗IL-1療法は治療の第一選択薬である。諸外国では、関節リウマチに対してアナキンラが抗TNF-α療法より先に承認されていたが、本邦では未承認であり、その使用には並行輸入による入手が必要であった。2011年9月、本邦初の抗IL-1療法としてカナキヌマブが承認された。カナキヌマブは8週間おきの皮下注投与であり、毎日皮下注が必要であるアナキンラに比べ、患者QOLの改善に役立った。CAPS最軽症型である家族性寒冷蕁麻疹に対するカナキヌマブの使用には議論のあるところであるが、NSAIDsや副腎皮質ホルモンの短期間使用でコントロールできない症例ではその使用が考慮される。

予後

CINCA症候群/NOMIDでは、無治療では髄膜炎等の炎症により精神発達遅滞やてんかんを合併する。ブドウ膜炎やうっ血乳頭と、それに伴う視神経萎縮の合併により視力障害をきたす場合もある。聴力障害もほぼ必発で、高度の難聴となる。関節炎による関節拘縮や、長管骨骨幹端過形成により、特に膝関節に重度の内反・外反変形を来す。加えて、全身性炎症による発育不全により低身長となる。Muckle-Wells症候群では全体的な症状の程度は軽いものの、長期的な炎症の持続により、25%にアミロイドーシスを合併し腎不全となりうる。難聴も高頻度に認められる。家族性寒冷蕁麻疹では比較的予後良好であるが、アミロイドーシス合併症例も知られている。今後、これらの合併症の多くは抗IL-1療法により発症が抑制される期待されるが、長期的な効果や副作用に対しては不明な点が多い。治療によって全身性炎症が鎮静化しても、長期間に渡る丁寧なフォローが必要である。
:バージョン1.1
更新日
:2015年3月31日
文責
:日本小児リウマチ学会