定義・概念
疫学
病因
症状
1.典型例 臨床的特徴は,周期的に繰り返す発熱,漿膜炎症状としての腹膜炎・胸膜炎・関節炎からくる腹痛・胸痛・関節痛である。明らかな性差はなく、主に常染色体劣性遺伝を呈することが多い。以下に、典型的FMFの臨床所見を述べる。 1)発症年齢 FMFの発症年齢は5歳から20歳に多いが、幼児期に徴候がみられることがあり、成人でも発症する。Nelson Textbook of Pediatrics 18thの記述に基づくと、発症年齢は10歳以下が60-70%,20歳以下まで含めると90%に達する.成人発症例もあり,53歳で発症した例が報告されている。私たちの本邦における解析では,5歳以下の発症例が比較的少なく,成人発症例が比較的多い。右田班の統計では、発症年齢は21 ± 16 歳である。 2)発熱 突然高熱を認め、半日から72時間持続する。発熱期間が短いことが特徴である。発熱はほぼ必発であり,38℃以上の発熱がみられ、投薬をしなくても自然に解熱する。発熱間欠期は無症状であり,発熱発作の間隔は2-6週間が多く,1か月毎の発熱が典型的である。しかし,発作時の全身状態はしばしば悪化し,臥床を余儀なくされることも少なくない。運動、心理的なストレス、感染、手術などが発作の引き金になる可能性がある。女性患者では約半数が生理時に一致する。炎症を繰り返すものの発熱が軽度あるいは無熱で発見が遅れる例がきわめてまれにみられる。 3)腹膜炎 腹膜炎による激しい腹痛は多くの患者に認められ(65.5 %),1-3日程度持続し,自然に寛解する.腹部X線写真にてニボー所見を認めることもある。時に急性腹症との鑑別が困難となり,虫垂切除や胆嚢切除を受けた患者も多い。 4)胸膜炎 胸膜炎による胸痛が約半数にみられる。胸水貯留を認めることもある。胸背部痛として、背中の痛みを訴えることもある。胸膜炎による痛みのため深く息ができず、呼吸が浅く速くなることが発作時の特徴である。本症は、漿膜炎による激しい腹痛や胸背部痛が特徴的だが、発作時には、腹痛か胸痛のどちらかを伴い併発しないことが多い。 5)関節炎 関節炎または関節痛の頻度は、諸外国では85%と多いが,人種により異なっており、本邦の随伴率は33.3%である。下肢の大関節(股関節、膝関節、足関節)の単関節炎で発症することが多く、非破壊性である。好中球を含む関節液貯留を認め、関節が著明に腫大する。 6)その他 漿膜炎の症状としては上記の他に心膜炎や精巣漿膜炎がある。右田班の調査では、それぞれ2例と1例見いだされている。私たちも心膜炎を繰り返し、コルヒチン内服で改善している患児を経験している。丹毒様皮疹斑は関節痛に伴うことが多く、本邦では4.6%でみられている。下腿や大腿に労作時の筋痛を認めることがある。アミロイドーシスは本邦では6例見いだされている。睾丸炎,中枢神経症状および後述の血管炎などを伴った例も報告されている。 2.非典型例 Tel-Hashomer criteriaではimcomplete (不完全型/非典型例)として、38度以下の発熱、発作期間が1週間持続するもの、腹痛が限局性あるいは腹痛はあるものの腹膜炎がないもの、関節炎が非典型的な部位にあるもの、などを挙げている。 MEFV遺伝子解析では、exon3に、同一のアレルにP369S、R408Q変異をヘテロ接合体で認められることが多い。また本症の一部ではR408QがなくP369Sのみを認める場合もある。また、この約半数でexon 2のE148Q変異が同じアレルにみられる。 1)発症時期 右田班の統計では、発症年齢は27 ± 19 歳であるが、exon 3に変異のある非典型例は小児期に発症する傾向がある。 2)発熱 典型例FMFは発熱期間が12時間から72時間であり、72時間以上持続することはきわめて稀であるのに対して、非典型例では、発熱持続期間は比較的長く、1-2週間持続することが多い。 3)腹膜炎、胸膜炎 典型例と比較し、随伴症状として激しい腹痛や胸背部痛の合併が少ない特徴がある。 4)関節炎 関節炎は、典型例では股関節、膝関節、足関節などにみられるが、非典型例では上肢の肘関節などに認められる。また、骨髄炎を併発しやすい特徴がある。 5)PFAPA様症状 exon 3に変異のある非典型例にPFAPA様症状、すなわち白苔の付着する扁桃炎/咽頭炎、口内炎、頸部リンパ節炎、咽頭痛、頭痛、嘔吐などを認めることがある。PFAPAとは区別できないが、PFAPAでみられない激しい腹痛を伴うことがある。また、PFAPAでは、扁桃摘出でほぼ治癒するのに対して、本症では扁桃摘出後も症状は持続する。 6)その他 TNF受容体関連周期性症候群(TNF-receptor-associated periodic syndrome: TRAPS)にみられる症状である筋痛や消化器症状を呈することがある。また、嘔吐を伴うこともある
検査所見
典型例、非典型例ともにほぼ同様の炎症検査所見を呈する。炎症性疾患であるため,発作時には白血球数の増多,血沈の亢進,CRPの上昇(10 mg/dl以上になることも多い)、血清アミロイドAの上昇が認められるが,発作間欠期には、これらは劇的に陰性化する。白血球は増多するが核左方移動を認めないことが多い。プロカルシトニンも上昇することはない。一部の例で慢性炎症によって補体値が上昇する。発作時の胸部X線写真や腹部CTで漿膜炎が画像的に検出されることがある。症状の程度と検査値の間に必ずしも有意な相関関係がみられるわけではない。FMFに特異的な検査所見はないが、典型例では発作簡潔時においても血清IL-18値が高値になる。非典型例では、発熱時でも血清IL-18は上昇しない。好中球/単球活性化の指標として、発作時にCD64発現が増加するが軽度である。漿膜炎の病理像は好中球浸潤が主体である
診断
治療
治療は、第一に副腎皮質ステロイド薬の反応性について把握することが重要である。典型例FMFは、副腎皮質ステロイド薬は無効である。非典型例FMFでは、副腎皮質ホルモン薬が若干有効なことがある。コルヒチンが典型例/非典型例ともに大多数の症例で著効する。コルヒチンは成人で、0.5-1.0 mg/day 分1-2(2 mg/dayは超えない)の連日内服を行い、下痢、嘔吐、腹痛など消化管症状の副作用が出現した場合は減量する。小児においては0.01-0.02mg/kg分1-2からはじめて、予防できない場合は0.03 mg/kg まで増量している(0.04 mg/dayは超えない)。発作時のみの内服では効果がないため、持続投与が必要である。しかしながら、腹部症状などの予兆時に内服を開始しても有効なこともある。コルヒチンが無効の難治例においては、生物製剤(TNF阻害薬、IL-6阻害薬、IL-1阻害薬)の有効性が確認されている。アミロイドーシスを合併すると予後不良であるが、本邦における合併例は6例把握されているのみで、30~50年間発熱発作を繰り返した場合でもアミロイドーシスの合併がみられないことが多い。妊婦へのコルヒチン投与は、影響がないと報告されているが、患者ごとの症状の程度や発作による胎児への影響なども考慮した総合的な判断が望まれる
予後
発熱発作の反復のためQOLは著しく阻害され精神的負担も大きいが、生命予後が良好である。アミロイド―シスの合併によって消化管や腎臓などの臓器にアミロイドの沈着が著明になると予後不良になる。近年、コルヒチンによる発作予防によって世界的にアミロイドーシス進展例は著減している。小児期発症例は成人から30代くらいで軽減・自然消退することもあるが、高齢期まで持続することもある
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2014年10月1日
- 文責
- :日本小児リウマチ学会