概要・定義
疫学
稀な疾患であり、米国の疫学調査では100万人に3.5人程度とされ、わが国の患者数は400~500人と推定されている。平成21年度厚生労働省研究班による239名の全国疫学調査では、平均発症年齢52.7歳 (3~97歳)、 男女比ほぼ同等、死亡率は約10%であった。しかし、わが国の小児の正確な患者数は不明である。本症は家族内発生、遺伝性などはない。わが国の成人患者では発症から診断確定まで2.9年であるが、海外の小児例では5年と遅れが目立つ
病因
本症の発症機序については原因不明であるが、液性および細胞性の自己免疫反応による炎症によりMMP-3などの蛋白融解酵素が軟骨内に発現し、軟骨が破壊される。II型コラーゲンやMatrilin1等に対する自己抗体も一部の患者で陽性になり、これらの抗原に対する自己免疫反応が原因として示唆されている。病理学的所見として、病変部へのリンパ球浸潤、軟骨の変性(好塩基性低下、lacunaeの消失、空胞化、線維化、アポトーシス)が見られ、免疫複合体や補体の沈着を認めることもある
症状
わが国の小児患者の実態は不明であり、主に成人に関する知見をもとに述べる。 ①耳介軟骨炎 成人では初発症状として多く、経過中に殆どの患者で認められる。片側または両側の耳介の痛み,腫脹、発赤,変形がみられ、耳介が崩壊すると、外耳道閉塞を生じ、伝音性難聴を合併する。軟骨のない耳垂は侵されない。この点は感染やその他の炎症性疾患との鑑別に有用である。前出のわが国の疫学調査では、239名のうち137名(57%)において初発症状であった。フランスからの小児10例のまとめの報告でも、耳介軟骨炎は初発時に6名、経過中全例で認められた。 ②鼻軟骨炎 鼻根部(鼻の付け根の部分)の痛み,腫脹、発赤を生じ、鼻根部の変形により、鞍鼻をきたすことがある。 ③喉頭気管軟骨炎 半数の患者に合併し、嗄声、咳嗽、喘鳴、呼吸困難、失声などを生じる。喉頭気管の狭窄や軟化による気道閉塞は死因となるため注意が必要である。海外の小児例のまとめでは約1/3の患者が気管切開を必要とした。 ④前庭障害・難聴 軟骨炎が耳の奥の前庭に及ぶと、感音性難聴、吐き気、嘔吐、めまい、運動失調などを呈する。 ⑤眼病変 強膜炎、結膜炎が多く、ぶどう膜炎、角膜炎がこれに続く。 ⑥関節炎 一過性かつ移動性のことが多く、非破壊性であり、血清反応は陰性(リウマチ因子陰性)である。MCP、PIP、膝、手、肘関節などの単関節あるいは多関節炎を呈する。 ⑦心血管病変 大動脈弁閉鎖不全、僧房弁閉鎖不全、僧帽弁逸脱、大動脈動脈瘤などを来たし、死因となることがある。 ⑧その他 紫斑、丘疹、結節性紅斑、水疱、結節、網状皮斑、アフタ、表在性静脈炎などの非特異的な皮膚・粘膜症状を呈する。神経症状として頭痛、脳神経障害、痙攣、片麻痺、無菌性髄膜炎などを呈することもある。まれに腎炎を合併する。さらに、血管炎、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強直性脊椎炎・仙腸関節炎などの他のリウマチ性疾患に合併する事も多い
診断
治療
治療にはステロイド薬が主に用いられる。わが国の調査でも239名中219名(92%)に使用されていた。重症例や急激に気道症状が進行する場合はステロイドパルス療法も考慮する。しかし、喉頭や気管の病変にはステロイド薬のみでは治療効果が不十分なことが少なくない。そのため、気管病変を合併した場合や難治例にはメソトレキサート、シクロフォスファミド、シクロスポリンなどの免疫抑制薬が使用される事が多い。重症例には、TNF-α阻害薬(インフリキシマブの報告が多い)や抗IL-6受容体抗体(アクテムラ)などの有効性も報告され始めている。気道病変が進行し、気道閉塞を生じた症例には気管切開や気道内留置ステントが必要となる
予後
わが国の疫学調査では、治癒・改善72.3 %、不変13.3 %、悪化 3.8 %、死亡 9.2 %であった。米国では8年で生存率94%という報告もある
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2014年10月1日
- 文責
- :日本小児リウマチ学会