1. 膠原病
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シェーグレン(Sjögren)症候群

しぇーぐれんしょうこうぐん

Sjögren's syndrome

告示

番号:7

疾病名:シェーグレン症候群

概念定義

 シェーグレン症候群 (Sjögren’s syndrome: 以下SS)は、全身の外分泌腺が系統的に傷害されることを特徴とする、全身性の自己免疫疾患である。自己免疫性外分泌腺症 (autoimmune exocrinopathy)ともいわれる。  外分泌腺の中でも涙腺・唾液腺の障害が主で、障害が進行すれば、涙液分泌の低下による眼の乾燥、唾液分泌低下による口の乾燥などの症状が出現する。しかし、症状はかならずしも自覚症状となるわけでなく、羞明感、眼の異物感、う歯の増加、口内炎の多発などの症状として表れることもある。 多くの患者で種々の自己抗体の産生が認められ、血中ガンマグロブリン値が高値となる。自己抗体としては抗核抗体(斑紋型)、抗SS-A/Ro抗体、リウマチ因子の陽性率が高い。抗SS-B/La抗体はSSに特異性は高いとされるが、陽性率はそれほど高くない。  外分泌腺障害以外にも種々の臓器障害を来すことも知られている。障害が外分泌腺に限定されている例を腺型SS、外分泌腺以外の臓器に障害がある例を腺外型SSと呼ぶことがある。また全身性エリテマトーデス(SLE)など種々の膠原病と合併することも知られており、膠原病の合併のない例を一次性SS、膠原病を合併する例を二次性SSと呼ぶ。

病因

 他の多くの膠原病と同様、病因は不明である。何らかの遺伝的素因のある人に環境因子が作用して、外分泌腺の炎症が引き起こされ、自己免疫反応が起こり、炎症が慢性化する。さらに慢性炎症の過程で、全身性の反応が起こってくると推測されている。

疫学

 1995年の日本小児リウマチ研究会(現在は学会)の全国調査では一次性SSと二次性SS合わせて70例が登録され、小児の膠原病では5番目に患者数が多かった。この調査は病床数が100床以上で小児科常勤医がいる施設を対象としたものであったため、母集団は限られていたと思われる。  2000年に行われた、厚生労働科学研究班による小児膠原病相談会に登録された患者数からの推定では、小児のSSは10万人あたり0.71であり、小児膠原病では4番目に多い疾患となる。また、1998年から2004年までに小児慢性特定疾患調査研究事業に登録された患者数は138例で、この数字から推計すると、10万人あたり0.53となる。このときの登録例数をみると、患者数の地域差が非常に大きく、小児リウマチ専門医がいない地域ではほとんど患者が登録されていなかった。  従来からSSは中年女性に好発する疾患と言われており、小児ではまれとされてきた。これはSSが「眼や口の渇きを訴える疾患」と考えられていたからであるが、「外分泌腺の障害」「自己免疫」という観点から見直すと、小児でもそれほどまれではない。これまでは診断されていなかった患者が多いと考えられ、患者数は今後増加すると考えられる。

臨床症状

1)腺症状  「眼が乾く、口が渇く」という症状を小児が訴えることはほとんどない。涙液分泌低下がある場合、羞明感、異物感、かゆみ、結膜発赤を繰り返す、等が症状としてあげられる。唾液分泌低下による症状としては、う歯の増加、口臭、口内炎の多発、口腔内の痛み、乾燥した食品(ビスケットやクラッカーなど)を食べづらい、摂食時によく水を飲む、等がある。 反復性耳下腺腫脹は小児期のSSの症状としてよくみられる。 2)腺外症状  全身症状としては、発熱、皮疹、関節痛などが多い。発熱にリンパ節腫脹を伴うこともしばしばみられる。倦怠感は、日常生活に影響を与えることも少なくなく治療も難しいため、診療上問題となる症状である。  無菌性髄膜炎、末梢神経炎、間質性腎炎、高γグロブリン血症性紫斑など、全身の重要臓器の障害をきたすこともある。  さまざまな膠原病に合併することがあり、特にSLEとの合併が多い。臓器特異性自己免疫性疾患では、橋本病の合併がよく見られるので注意が必要である。  IgGクラスの自己抗体は胎盤移行性があり、移行抗体が胎児に影響を及ぼすことがある。SS患者で保有頻度の高い抗SS-A/Ro抗体は、胎児の心臓の伝導系を傷害し、心ブロックを起こすことがある。心ブロックの発症頻度は1〜2%とされるが、抗SS-A/Ro抗体陽性の女性が妊娠した場合には、早期から産科と連携して、胎児の心拍のフォローが必要である。胎児に徐脈が見られた場合には、母親に対してステロイド薬の投与を行う。

診断

治療

 症状の重症度・進行の速度には、かなり個人差があるため、治療はその患者の病態に適した方法を選択する。  腺症状に対しては、対症療法が主である。眼乾燥には人工涙液、ヒアルロン酸点眼液、やムチンの産生を促進するジクアホソルナトリウム、レパミビドの点眼薬ある。口腔乾燥には人工唾液のほか、唾液分泌促進薬として、ピロカルピン、セビメリンがある。また、気道粘液潤滑薬であるカルボシステイン、アンブロキソールにも唾液分泌促進作用があることが知られている。漢方薬では麦門冬湯が使われている。  発熱や関節症状には非ステロイド系抗炎症薬が使われるが、まれに無菌性髄膜炎を起こすことが有り、注意が必要である。重篤な腺外臓器障害にはステロイド薬をSLEに準じて使用する。関節炎には若年性特発性関節炎と同様にメトトレキサートの低用量パルス療法を行う。ステロイド減量困難例やより重症な症例には、免疫抑制薬を併用する。  生物学的製剤については、成人領域でrituximab, epratuzumab, abataceptや抗サイトカイン療法の臨床試験が行われている。

予後

 一般に生命予後はそれほど悪くないと考えられている。  臓器障害の進行には、かなり個人差がある。10歳前後ですでに腺障害が進行している例もあれば、10歳代で確定診断に至ったが、30歳代になっても検査で分かる程度の軽度の腺障害のみを認める例もある。  成人のSSでは、悪性リンパ腫の合併が最も問題となるが、小児期に診断された例では、これまでのところSSの診断と同時に悪性リンパ腫が診断された1例があるのみである。  小児期に診断された症例の長期予後は今後の課題である。
:バージョン1.1
更新日
:2015年3月30日
文責
:日本小児リウマチ学会