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若年性特発性関節炎

じゃくねんせいとくはつせいかんせつえん

juvenile idiopathic arthritis; JIA

告示

番号:8

疾病名:若年性特発性関節炎

概念・定義

 以前は 若年性関節リウマチと呼ばれた病態を含む。国際リウマチ学会(International Leagues of associations for Rheumatism: ILAR)の小児リウマチ常任委員会が1994年のSantiago会議において「16歳未満で発症し、6週間以上持続する原因不明の関節炎で、他の病因によるものを除外したもの」を若年性特発性関節炎(juvenile idiopathic arthritis: JIA)と定義した。その後1997年のDurban改訂、2001年のEdmonton改訂を経て、現在ILAR分類は小児の慢性関節炎の国際基準となっている。 ILAR分類はJIAを下記の7病型に分類している  本邦においても、日本小児リウマチ学会が上記分類にもとづき「若年性特発性関節炎初期診療の手引き(2007年)」を作成した。しかし、発症早期にはILAR分類を用いて診断することは困難であるため、本邦の小児診療の実情に合わせ、新たに『診断の手引き』を策定した。 表:若年性特発性関節炎ILAR分類(2001) 表:若年性特発性関節炎ILAR分類(2001)

疫学

  過去の小児慢性特定疾患の医療意見書の調査によれば、本邦における有病率は小児人口10万人あたり約10人と、関節リウマチの1/50-1/80程度である。病型別では全身型が40%、少関節炎が20%、リウマトイド因子陰性多関節炎が14%、リウマトイド因子陽性多関節炎が18%、乾癬性関節炎が0%、付着部炎関連関節炎が2%、未分類関節炎が5%であった。男女比は発症頻度の高い前者4病型で、全身型1:1.2、少関節炎1:2.5、リウマトイド因子陰性多関節因子が1:2.2、リウマトイド因子陽性多関節炎が1:8.0であった。

病因

 病因は不明で、各病型により病態が大きく異なる。全身型は自己免疫よりも自己炎症の要素が強い。少関節炎やリウマトイド因子陽性多関節炎は自己抗体の頻度が高く液性免疫の関与が強い。リウマトイド因子陰性多関節炎や付着部炎関連関節炎では HLA遺伝子多型の関与が示されている。いずれも活性化したT細胞やマクロファージが病態に深く関わっていると推測されている。家族歴が参考となる病型を除き、通常家族性発症は認めない。

症状

 病型ごとに臨床症状および検査所見について述べる 。なお、慢性関節炎の画像検査として①単純エックス線②MRI③関節超音波検査が現在有用な検査法である(詳細は診断の手引き参照)。 1)全身型
*臨床症状:
発熱、関節痛・関節腫脹、リウマトイド疹、筋肉痛や咽頭痛など。3割は発症時に関節症状を欠く。マクロファージ活性化症候群(macrophage activate syndrome: MAS)(8%)、播種性血管内凝固症候群(DIC)(5%)など重篤な合併症に注意を要する。
*検査所見:
左方移動のない好中球優位の白血球増加と、強い炎症所見(赤沈亢進、CRP高値、凝固線溶系亢進)を認める。経過とともに小球性低色素性貧血や血小板増多も出現する。高サイトカイン血症を反映して血清フェリチン、尿中β2ミクログロブリンの増加がみられるが、特に血清フェリチン高値はMAS発症の危険因子である。 リウマトイド因子(RF)や抗核抗体(ANA)等の自己抗体は基本的に陰性である。
*経過:
関節炎の経過により2つのタイプに分かれる。3/4は関節炎が急性期に限定し、 最終的には多くが完治する。残り1/4は全身性炎症が鎮静化した後も関節炎が遷延し、難治性である。5〜10年の経過では、4割が無治療、6割が無症状であった。関節機能は8割が正常であったが、2割は関節変形や可動域制限を残している。また、低身長、圧迫骨折、白内障など治療の副作用にも注意が必要である。
2)少関節炎
*臨床症状:
関節痛・関節腫脹、可動域制限、朝のこわばりなどに加え、10〜20%にぶどう膜炎の合併が見られる 。少関節炎に伴うぶどう膜炎は女児、若年(幼児期)発症、ANA陽性(160倍以上)例に多く、無症候性で前部に起こり、放置すれば失明率が高い(15~20%)。
*検査所見:
炎症所見や、関節滑膜炎を反映する血清マトリックスメタロプロテイナーゼ-3(MMP-3)は正常~軽度上昇が多い。ANA陽性者が3割程度いる。
*経過:
5〜10年の経過では、3割が無治療、5割が無症状であった。ぶどう膜炎は関節炎発症後5年以内に発症することが多い。関節機能は正常~軽度障害が98%で、最も関節予後がよい。
3)リウマトイド因子陰性多関節炎
*臨床症状:
関節痛・関節腫脹、可動域制限、朝のこわばりに加え、4割で発熱(微熱)を認める。
*検査所見:
炎症所見は正常~軽度上昇にとどまる。ANA陽性例が2割いる。血清MMP-3は軽度~高度上昇する。関節予後不良因子である抗環状シトルリン化ペプチド抗体(抗CCP抗体)陽性者は0~5%と低い。
*経過:
5〜10年の経過では、3割が無治療で4割が無症状であった。関節可動域制限や変形を認める例があるものの、95%が関節機能正常~軽度障害と、少関節炎についで関節予後はよい。
4)リウマトイド因子陽性多関節炎
*臨床症状:
この病型は関節リウマチに近い病態である。関節痛・関節腫脹・可動域制限・朝のこわばりが著明で、初期にすでに変形を来たしている例もある。皮下結節は2.5%と欧米の報告(30%)に比べ少ない。
*検査所見:
炎症所見は軽度~中等度上昇し、血清MMP-3やヒアルロン酸も高値例が多い。4割がANA陽性、7割が抗CCP抗体陽性である。
*経過:
5〜10年の経過では、無治療はわずか8%で、無症状は3割とほとんどの患者が治療継続し、症状も持続していた。可動域制限を7割、変形を2割で認め、 16%に中等度~重度の関節機能障害を認める。
5)乾癬性関節炎
*臨床症状:
皮膚症状としての乾癬が先行し、その後に関節炎、指趾炎、付着部炎、腱鞘炎、脊椎炎などの関節症状が出現する。時に腱鞘炎や付着部炎が先行し経過中に皮膚症状が出現する症例ある。
*検査所見:
血液検査で、ESR亢進やCRP上昇などの炎症反応を認めることがあるが、正常の場合も多い。
*経過:
海外の報告(罹病期間中央値10年)では、約3~4割が無治療寛解していた。本邦における系統だった報告はまだない。
6)付着部炎関連関節炎
*臨床症状:
関節炎and/or付着部炎を認める。付着部とは腱および靭帯の付着部を指し、小児では四肢の付着部炎が多い。関節炎は下肢の大関節が多いが肩関節にも生じる。経過中に仙腸関節炎や脊椎炎など体軸関節に進展する例もみられるが、初期には稀である。
*検査所見:
炎症反応陽性で、ESR亢進やCRP上昇がみられる。HLA-B27保有率の高い欧米では80〜85%で陽性であり,診断に有用とされるが保有率の低い本邦では陰性例が多い。
*経過:
海外の報告(罹病期間中央値10年)では、約3~4割が無治療寛解していた。本邦における系統だった報告はまだない。
7)未分類関節炎  上記6分類の基準を満たさない、あるいは複数の分類基準を満たす症例をいう。発症から6か月以内に罹患した関節数が5個未満でRF陽性の症例、乾癬に伴う関節炎でHLA-B27陽性症例はともに未分類関節炎であることに注意する。

診断

治療

病態により治療が異なる。 1)全身性炎症病態  活性化マクロファージから産生されたサイトカインによる全身性炎症の病態。各種鑑別疾患の精査をおこないつつ非ステロイド抗炎症薬(ナプロキセンまたはイブプロフェン)を開始し、診断がつき次第メチルプレドニゾロンパルス療法を施行する。炎症が鎮静化した後は経口プレドニゾロンに切り替え、以降症状を確認しながら漸減する。ステロイド減量中に再燃を繰り返す例やステロイドが減量できず副作用が問題となる難治例に対しては、生物学的製剤であるトシリツマブが適応となる。免疫抑制薬追加の効果は少ない。 2)関節炎病態  Tリンパ球から産生されたTNF-αやIL-6などのサイトカインが関節滑膜を標的に炎症をおこす病態。非ステロイド抗炎症薬で治療を開始するが、効果が乏しい例や多関節型においては早期にメトトレキサート週1回経口投与を開始する。副作用が危惧される場合は葉酸を併用する。約2~3割の難治症例では関節炎の進行を抑制できず、生物学的製剤(エタネルセプト、アダリムマブ、トシリツマブ)投与の適応となる。 3)マクロファージ活性化症候群(MAS)  血球貪食症候群の一型。高サイトカイン血症により短時間で多臓器不全に至り、無治療では致命率が10~20%である。この病態が疑われた場合は、できるだけ早期に小児リウマチ専門施設と連絡をとり治療を開始する。非ステロイド抗炎症薬はすみやかに中止、生物学的製剤投与は全て禁忌となる。

予後

 本邦における死亡例の報告は全て全身型で、急性期のMASやDICが原因であった。JIAは関節リウマチと異なり完治が期待される疾患である。海外のデータでは5〜10年後に全体で3割が寛解となる(持続型少関節炎:43%、進展型少関節炎:13%、リウマトイド因子陰性多関節炎22%、全身型34%、リウマトイド因子陽性多関節炎0%)。本邦の報告でも、6~7年後には全身型43%、少関節炎31%、リウマトイド因子陰性多関節炎34%、リウマトイド因子陽性多関節炎6%が無治療寛解となっていた。

文献

1)横田俊平、森雅亮、今川智之、他.若年性特発性関節炎初期診療の手引き(2007年). 日本小児科学会雑誌 2007;111: 1103-1112. 2)横田俊平、今川智之、武井修治、他.若年性特発性関節炎に対する生物学的製剤治療の手引き(2008)Ⅰ.トシリツマブ. 日本小児科学会雑誌 2008;112: 911-923. 3)横田俊平、森雅亮、今川智之、他.若年性特発性関節炎に対する生物学的製剤治療の手引き2009 Ⅱ.エタネルセプト. 日本小児科学会雑誌 2009;113: 1344-1352. 4)横田俊平、今川智之、村田卓士、他.若年性特発性関節炎に対する生物学的製剤治療の手引き2011 Ⅲ.アダリムマブ. 日本小児科学会雑誌 2011;115: 1836-1845. 5)横田俊平、武井修治.若年性特発性関節炎 トシリツマブ治療の理論と実際2009.メディカルレビュー社.  6) 武井修治、他.小慢データを利用した若年性特発性関節炎JIAの二次調査.平成21年度厚生労働科研費補助金(子ども家庭総合研究事業)分担研究報告書 2009;121-127. 7) 武井修治、他.若年性特発性関節炎(JIA)の治癒例と死亡例の縦断的研究.小児慢性特定疾患治療研究事業の登録・管理・評価・情報提供に関する研究.平成19年度総括・分担研究報告書 2008;102-113. 8) Cassidy JT, Petty RE, Laxer R et.al. Textbook of Pediatric Rheumatology, 6th edition. Saunders(Elsevier) 9) Fink CW. Proposal for the development of classification criteria for idiopathic arthritides of childhood. J Rheumatol 1995;22:1566-1569. 10) Petty RE, Southwood TR, Baum J, et al. Revision of the proposed classification criteria for juvenile idiopathic arthritis: Durban,1997. J Rheumatol 1998; 25:1991-1994 11) Petty RE, Southwood TR, Manners P, et al. International League of Associations for Rheumatology classification of juvenile idiopathic arthritis: second revision, Edmonton, 2001. J Rheumatol 2004;31:390-392. 12) Lurati A, Salmaso A, Gerloni V, et al. Accuracy of Wallace criteria for clinical remission in juvenile idiopathic arthritis: a cohort study of 761 consecutive cases. J Rheumatol 2009;36:1532-1535. 13)Guzman j, Oen K, Tucker b, et al. The outcomes of juvenile idiopathic arthritis in children managed with contemporary treatments; results from the ReACCh-out cohort. Ann Rheum Dis. 2014;0:1–7. doi:10.1136/annrheumdis-2014-205372. 14) Chen JS, Ford JB, Roberts CL, et al. Pregnancy outcomes in women with juvenile idiopathic arthritis: a population-based study. Rheumatology. 2013;52:1119-1125.
:バージョン1.1
更新日
:2015年3月31日
文責
:日本小児リウマチ学会