1. 内分泌疾患
  2. 大分類: 内分泌疾患を伴うその他の症候群
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ヌーナン(Noonan)症候群

ぬーなんしょうこうぐん

Noonan syndrome

告示

番号:89

疾病名:ヌーナン症候群

概念・定義

ヌーナン症候群は,低身長,思春期遅発,心奇形,特徴的外表奇形(眼間乖離,翼状頚,外反肘など)により特徴づけられる先天奇形症候群である.知能低下,難聴,出血性素因,男児外性器形成障害もしばしば認められ,胎児水腫や白血病(特にjuvenile myelomonocytic leukemia, JMML)、さらには固形腫瘍もときに出現する.

疫学

発症頻度は出生1000-2500名に1人とされ,多くは孤発例であるが,常染色体優性遺伝形式の家系例も報告されている.家系例では罹患女性を介して伝達されることが多く,これは,罹患男性の妊孕性が停留精巣や外陰部低形成により低下するためと推測される.

病因

RAS/MAPKシグナル伝達経路の賦活化に起因する疾患であり、PTPN11をはじめとして、このシグナル伝達経路を構成する多数の分子の構造遺伝子に機能亢進変異が同定されている。現在9個の責任遺伝子が知られているが、これらの遺伝子変異は患者の約60%で認められているに過ぎない。

診断

臨床診断:Ineke van der Burgtらが提唱したクライテリアが広く使用されている(表)。このクライテリアは、本邦の小児内分泌・小児遺伝を主とするメンバーで検討され、本邦においても使用しうることが確認されている。ここで、2つのことを強調したい。第1は、中核的所見が典型的・示唆的顔貌という曖昧で主観的なものにとどまっていることである。したがって、臨床診断は、眼間乖離を伴う疾患特徴的徴候(これをゲスタルトと呼ぶ)を呈する患者では容易であるが、これらの所見が曖昧な患者では困難である。事実、NSという疾患名は、低身長を伴う奇形症候群患者にしばしば広く使用されている。第2は、これらの臨床像(特に診断上最も参考となる眼間乖離を伴う特徴的顔貌)が、年齢とともに変化し、乳幼児期に明瞭に現れ、年齢と共に曖昧となってくることである 。したがって、臨床診断は、年長児ではしばしば困難である。なお、表1の所見の他に、思春期遅発、翼状頚,外反肘、難聴,出血性素因などがしばしば認められること,胎児水腫や白血病(特にjuvenile myelomonocytic leukemia, JMML)、固形腫瘍がときに出現することも知られている。なお、この中で、血性素因、JMML、固形腫瘍はPTPN11変異患者に多く認められる。また、ヌーナン症候群のJMMLは類白血病反応であり、乳児期一過性で自然寛解することが多いことを付記する。 表. NS*の診断基準 NS*の診断基準 * 確実なNS:1Aと、2A~6Aのうち1項目、または2B~6Bのうち2項目;1Bと、2A~6Aのうち2項目または2B~6Bのうち3項目。 遺伝子診断:上記のRAS/MAPKシグナル伝達経路に存在する遺伝子の変異解析を行う。しかし、上記のように約40%の患者では変異が同定されていないことから、遺伝子解析で変異があればヌーナン症候群と確定できるが、変異が同定されないときにヌーナン症候群が否定される訳ではない。

症状

特徴的顔貌は,ヌ−ナン症候群の診断基準であり,全例に認められる.身長は,出生時および小児期共に,変異陽性群と陰性群で同等で,平均値は-2 SDをやや下回る程度である.さらに,小児期身長とtarget heightの間に相関は見られず,これは,Noonan症候群の成長障害の程度が変異により異なることを示唆する.心疾患は変異陽性群と陰性群で異なり,肺動脈狭窄と心房中隔欠損が変異陽性群に有意に多く,心筋症が変異陰性群に特徴的である.その他の症状は概ね変異陽性群と陰性群で同等であったが,出血傾向やJMMLなどの血液疾患は変異陽性群に特徴的である.出血傾向は,変異陰性患者でも稀に報告されているが,JMMLは変異陽性患者にのみ認められている.  また、各遺伝子変異に特徴的な臨床像も、いくつか見出されている。PTPN11変異では、低身長や肺動脈弁狭窄・心房中隔欠損が高頻度で、肥大型心筋症は低頻度であり、SOS1変異では、低身長や認知遅滞が低頻度で、RAF1変異では、極めて高頻度に心筋症が発症する。

治療

心疾患などは基本的に対症療法が行われる。低身長に対し,成長ホルモン投与が行われ,その最終身長増加効果は,男児が9.5~13 cm、女児が9.0~9.8 cmされている。

予後

患者の生命予後に大きな問題はない。
:バージョン1.1
更新日
:2018年4月1日
文責
:日本小児内分泌学会