概念・定義
病因
全体の10%が悪性、10%が多発性とされる。多発性内分泌腺腫症1型(MEN1)にともなうことがあることが知られており、この場合は多発性であることが多い。インスリノーマ全体に占めるMEN1の比率は7.4%とされ、ガストリノーマのとき(27.3%)と比較すると頻度は低い。一方MEN1の側から見ると、インスリノーマの合併は本邦では全体の15.1%に見られるとされる。MEN1以外にも、von Hippel-Lindau病、神経線維腫症1型、結節性硬化症などの腫瘍好発症候群にともなうことがあることも知られている。YY1遺伝子のThr372Arg変異が30%の腫瘍組織に見られたとの報告もある
疫学
インスリノーマは一般に他の膵・消化管 NET に比較して若年に発症する傾向がある。すべての膵・消化管神経内分泌腫瘍 のうち 20 歳未満での発症は 1%程度を占めるに過ぎないのに対し、本邦で集計された MEN1 のインスリノーマでは診断時年齢の記載のある 54 例中 13 例が 20 歳未満で診断されており、若年発症のインスリノーマでは MEN1 が強く示唆されるので精査が推奨される。散発例のインスリノーマは 90%が単発性であるが、MEN1 では多発例が多いのが特徴である
臨床症状
空腹時の低血糖発作が主要な症状である。 意識障害、けいれんなどの中枢神経症状(neuroglycopenic symptom)と、低血糖に対する防衛反応としての発汗、震えなどの自律神経症状(adrenergic symptom)が見られる。自律神経機能障害がある場合や、低血糖発作を繰り返す場合は自律神経症状を欠くことがある。また、低血糖症状が自覚されず、非典型的な症状(けいれん発作、認知症など)が初発症状のことがある。Whippleの3徴候として、空腹時・運動時の意識障害、空腹時低血糖、ブドウ糖投与による劇的な改善が低血糖による症状であることの証明とされているが、高インスリン性低血糖症は必ずしも空腹時・運動時とも限らず、これにこだわる必要はない
診断
治療
ブドウ糖輸液などの対症療法のほか、頻回食、胃瘻や鼻注による持続流動食注入などの対症療法が行われる。インスリノーマと診断された場合、インスリノーマ切除術が推奨される。術式は核出術や膵部分切除などの局所切除が推奨される。悪性が疑われる場合、リンパ節郭清を伴う定型的膵切除術が推奨される。直径が 2cm 以下の病変については核出術が推奨される。腫瘍と主膵管が 3mm 以上離れている場合は、主膵管を損傷せずに核出術が可能である。しかし、腫瘍と主膵管の距離が近接しており、主膵管損傷の危険ある場合は膵部分切除術や分節切除術、膵尾部切除術などが推奨される。膵体尾部切除術を行う場合、腫瘍の被膜がはっきりしており、浸潤傾向がないなど悪性所見を伴わない場合は脾動静脈温存が推奨される。腫瘍多発、尾側膵管の拡張、周囲組織への浸潤、リンパ節転移などを認めた場合はリンパ節郭清を伴う膵切除術(膵頭十二指腸切除術/膵体尾部切除術)が推奨される。低血糖発作の頻度の抑制にジアゾキシドやエベロリムスが有効なことがある
予後
リンパ節転移や肝転移などの遠隔転移の有無による
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2014年10月1日
- 文責
- :日本小児内分泌学会