1. 内分泌疾患
  2. 大分類: クッシング(Cushing)症候群
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クッシング(Cushing)病

くっしんぐびょう

Cushing disease

告示

番号:11

疾病名:クッシング病

概要・定義

視床下部室傍核で産生されるCRHは下垂体門脈を経て下垂体前葉に至り、ACTH細胞に働いてACTHの合成と分泌を促進する。ACTHは全身に分泌され副腎皮質に作用してコルチゾールの合成と分泌を促す。分泌が亢進した血中コルチゾールは視床下部-下垂体前葉に作用しCRHとACTHの分泌を抑制する。これをネガティブフィードバックという。副腎からのコルチゾール分泌が慢性的に分泌過剰になり、特異的な症候を呈する状態をクッシング症候群という。この場合ACTH分泌が過剰となり二次的にコルチゾール分泌が増加する場合をACTH依存性クッシング症候群といい、副腎から自律的にコルチゾールが過剰産生される場合をACTH非依存性クッシング症候群または副腎性クッシング症候群という。ACTH依存性クッシング症候群には、下垂体からACTHが自律的に過剰分泌されるクッシング病と下垂体以外の腫瘍からACTHが過剰に産生・分泌される異所性ACTH症候群がある。いずれにせよ、視床下部CRH分泌は抑制される。最近は典型的な臨床症候を示さず、下垂体腫瘍が疑われ、二次的な耐糖能異常や高血圧の精査の途中でACTH-コルチゾール系の自律的な分泌異常がみつかるサブクリニカルクッシング病という疾患概念が提唱されている。 クッシング病は病理学的には良性であるが、経過が長引くと臨床的には治療が難しく悪性に似ているといえる。

疫学

中年女性に多く見られ、男女比は約1:4といわれている。 1965~86年にかけて行われた全国調査では、平均して年に約100症例が新規クッシング症例として診断され、そのうち約50%が副腎性、40%程度がクッシング病と考えられている。

病因

ほとんどがACTH産生下垂体微小腺腫(径1cm以下)が原因と考えられ、非腫瘍部のACTH細胞は萎縮している。大きな腫瘍ではCrook変成がみられることが多く、CRHやデキサメサゾンに対する反応性が低下しやすい。ACTH細胞の過形成がみられる場合は、CRH産生腫瘍の可能性も考慮する。

症状

非特異的臨床症候としては、耐糖能異常、高血圧、月経異常、にきび、浮腫、肥満、骨粗鬆症、多毛、色素沈着、うつ状態などがみられる。特異的症候としては、皮下溢血、皮膚のひ薄化、近位筋萎縮による筋力低下、中心性肥満、水牛様脂肪沈着、満月様顔貌、伸展性赤色皮膚線条、小児における成長遅延がある。

診断

厚生労働省間脳下垂体機能障害に関する調査研究班からのガイドライン(平成17年度改訂)を参照されたい。小児の診断でもこのガイドラインを参照する。 ポイントとしては(1)治療に抵抗する高血圧や耐糖能異常からみつかることが多い。(2)本疾患に特異的な臨床徴候を見逃さないこと。早期には皮膚萎縮、皮下溢血、相対的な中心性肥満などが出やすい。(3)ACTHやコルチゾール値は正常域以下でなければ除外しない。(4)偽性クッシング症候群との鑑別でスクリーニング検査を行うが、0.5mgデキサメタゾン抑制試験1回法が必須である。それ以外に深夜血中または唾液中コルチゾール値が異常の場合、DDAVP試験(検査薬としては保険未収載)で異常反応の3つのうちどれか1つが陽性ならACTH依存性クッシング症候群と診断できる。異所性ACTH症候群との鑑別のための確定診断では、CRH試験、大量デキサメタゾン試験、MRI等で下垂体腫瘍の検出が満たされれば90%以上の確立で本疾患と診断できる。1つでも満たさなければ選択的静脈洞血サンプリングを行う。ただし下垂体macroadenomaの場合は各種負荷試験に反応しないことがあり、逆に気管支カルチノイドによる異所性ACTH症候群の場合は、負荷試験で本疾患と似た反応を示すことがある。さらに病態が周期性に変動することがよくみられるので注意が必要である。局所診断ができない場合は、腫瘍が大きくなるまでステロイド合成酵素阻害薬を用いる方法もある。

治療

これもガイドラインを参照すること。第一選択は経蝶形骨洞的下垂体腫瘍摘出術である。何らかの理由で手術ができないか手術がうまくいかなかった場合はガンマナイフを行う。その効果がでるまではステロイド合成酵素阻害薬を用いる。最近治療薬として保険で認められたメトピロンは、即効性があり可逆性である。ミトタンは細胞毒性があり不可逆性で、効果発現に1~3ヶ月かかる。術後2~4週の血中コルチゾールの基礎値が 2μg/dl以上であれば将来再発する可能性が高い。もし手術で腫瘍が完全に摘出できれば術後は一過性の副腎不全になるのでハイドロコーチゾンの補充療法を行う。通常約1年で視床下部―下垂体―副腎系は回復する。現在ソマトスタチンアナログ等の治療への応用が検討されている。合併症としての高血圧や糖尿病、骨粗鬆症の治療も必要である。血中コルチゾール値が30μg/dl以上の場合は敗血症になりやすいので、抗真菌薬の予防投与を考える。

ケア

筋力低下による転倒で骨折しやすい。精神的にうつになりやすく、自殺企図に注意する。 蛋白異化作用で血管壁の脆弱性があり出血しやすく、また免疫力も低下しているので、感染に注意する。

食事・栄養

二次性高血圧や糖尿病があれば、塩分やカロリー制限等の食事療法を行う。

予後

未治療の場合は、通常の平均余命より10年程度短いといわれている。さらに血中コルチゾール値が30~50μg/dlを超えた状態が長く続くと感染症を合併しやすく予後不良である。
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児内分泌学会