1. 内分泌疾患
  2. 大分類: 甲状腺機能亢進症
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甲状腺機能亢進症(バセドウ(Basedow)病を除く。)

こうじょうせんきのうこうしんしょう (ばせどうびょうをのぞく。)

Hyperthyroidism (excluding Graves-Basedow’s disease)

告示

番号:23

疾病名:甲状腺機能亢進症(バセドウ病を除く。)

概念・定義 Introduction

甲状腺での甲状腺ホルモンの合成と分泌が亢進した状態が甲状腺機能亢進症である。自己免疫機序により甲状腺がびまん性に腫大し甲状腺機能亢進症を呈する疾患をバセドウ病と称する。それ以外の原因で甲状腺機能亢進症を呈するものがこの範疇に含まれる。

病因 Pathogenesis

バセドウ病以外の甲状腺機能亢進症の原因としては、新生児期に発症する母親からの移行抗体による一過性新生児バセドウ病、非自己免疫性先天性甲状腺機能亢進症を示す機能獲得型甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体異常症、成人に多く年長児でも発症の可能性のある無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎などがある。 新生児バセドウ病は、バセドウ病母体から胎盤を通過したTSH受容体に対する抗体(TRAb)が児の甲状腺を刺激することにより生後一過性に甲状腺機能亢進状態となることである。母親が抗甲状腺剤内服中の時は薬剤も胎盤を通過するので、児の経過は一過性の機能低下症のみ、機能低下の後機能亢進症があり正常化、一過性の機能亢進症のみ、と様々である。一過性だが重篤な場合治療を要することもある。 機能獲得型TSH受容体異常症は、TSH受容体遺伝子の変異により受容体の構造が変化し、常に甲状腺ホルモンを産生し続ける状態となり、先天性甲状腺機能亢進症を呈する病態である。自己免疫機序で発症するのではないので甲状腺自己抗体は陰性であるが、遺伝子検索を実施できる施設は限られる。 無痛性甲状腺炎は、慢性甲状腺炎や寛解したバセドウ病の経過中に発症することが多く、破壊された組織から漏出する甲状腺ホルモンにより一過性に甲状腺機能亢進症を呈し、その後しばしば甲状腺機能低下の時期を経て正常機能に回復する。機能亢進症は通常3か月以内で収まる。 亜急性甲状腺炎の原因は不明だが、上気道感染を前駆症状としてしばしば伴うため、ウイルス感染の関与が考えられている。甲状腺の腫脹としばしば移動する疼痛を特徴とする。

疫学 Epidemiology

バセドウ病が小児における甲状腺機能亢進症の大部分を占めるので、バセドウ病以外の原因で甲状腺機能亢進症を呈する状態は稀である。新生児バセドウ病は出生約25,000人に1人との報告もあり性差はない。機能獲得型TSH受容体異常症は報告例がある程度の頻度である。亜急性甲状腺炎は30~40歳代の女性に圧倒的に多い。

症状 Clinical manifestations

・臨床症状 Physical findings 甲状腺ホルモンの作用は全身の細胞での代謝の促進であり、結果として様々な症状が出現する。頻脈、収縮期血圧の上昇、甲状腺腫、多汗、易疲労感、落ち着きがない、手のふるえ、眼球突出、食欲亢進、頻脈、動悸、学業成績の低下、運動能力の低下、暑がり、排便回数の増加、微熱などが認められる。 ・検査 Laboratory findings 血中遊離サイロキシンthyroxine(T4)、遊離トリヨードサイロニンtriiodothyronine(T3)、TSHの測定、TBIIやTSAbなどの甲状腺自己抗体の測定を行う。また、必要に応じ一般血液検査、甲状腺超音波検査、甲状腺ヨード摂取率やシンチグラム検査などを行う。

診断 Diagnosis

診断手引きはこちら 一過性バセドウ病では、母親のTRAbの値と抗甲状腺剤の内服量の関係で機能亢進になるか低下になるかが決まってくる。TSH受容体異常症では自己抗体が陰性である。無痛性甲状腺炎ではTRAbが陰性であるが、稀に陽性例がある。亜急性甲状腺炎は有痛性の甲状腺腫と炎症反応陽性が決め手となる。

治療 Treatment

新生児バセドウ病では、甲状腺機能低下状態では甲状腺剤を、機能亢進状態では抗甲状腺剤やヨード剤を、程度に応じ一時的に使用することがある。機能獲得型TSH受容体異常症では、ほとんどの場合生下時すでに甲状腺機能亢進状態にあり、新生児バセドウ病が否定された場合抗甲状腺剤やヨード剤の服用を開始する。放射線ヨード内用療法や外科治療も考えられるが、報告例が少なくまだ確立された治療法はない。 無痛性甲状腺炎は原則的に治療を必要としない。抗甲状腺薬は無効で副作用もあるので使用しない。甲状腺機能亢進状態で動悸などの症状が強い時はβ遮断薬を、回復期で甲状腺機能低下症状が強い時に甲状腺剤を使用することもある。 亜急性甲状腺炎では副腎皮質ホルモン剤が効果的である。服用をやめると再発することがあるので、2か月程度かけて徐々に減量していく。

予後 Prognosis

新生児バセドウ病と無痛性甲状腺炎は一過性であり、亜急性甲状腺炎も自然に治癒する病態で再発も稀である。一方、機能獲得型TSH受容体異常症は先天性で永続的であるので治療を慎重に選ぶ必要がある。

参考文献 References

  1. 佐藤浩一: 甲状腺中毒症.小児内分泌学.日本小児内分泌学会編、診断と治療社.pp.407-411,2009
  2. 日本甲状腺学会: 甲状腺疾患診断ガイドライン2013. http://www.japanthyroid.jp/doctor/guideline/japanese.html
  3. Kopp P,et al.:Congenital hyperthyroidism caused by a mutation in the thyrotropin-receptor gene.N Engl J Med 332:150-154,1995
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児内分泌学会