概念・定義
先端巨大症(acromegaly)は、骨端線閉鎖後に下垂体から成長ホルモン(GH)が長期間にわたり過剰に分泌されることによって生ずる病態である.手足末端の肥大や顔貌の変化に加えて,糖尿病などの代謝異常,心肥大や慢性呼吸不全などの循環器や呼吸器合併症,更に腫瘍の発育を促進する慢性疾患である.
注:骨端線閉鎖前にGHの過剰分泌が生ずると高身長となり,下垂体性巨人症と呼ばれる。
病因
病因の大部分は下垂体に発生するGH産生腺腫である。まれに多発陛内分泌腺腫症(MEN)1型やMcCune-Albright症候群に伴うことがある。GH産生腺腫の一部では,刺激性G蛋白のαサブユニットに機能獲得型の遺伝子変異が報告されている。
疫学
人口100万人当たりの年間発症率は3-5人と報告されている。発症年齢は40-65歳に多く、女性にやや多い。
症状
- GH分泌過剰による症状: GH作用の大部分はインスリン様成長因子-I(IGF-l)を介して発現される。 IGF-1は肝臓,軟骨細胞、筋肉、腎臓など生体内の多くの組織で産生され、局所で増殖因子として作用する。そのため、GHの持続的過剰分泌は骨・軟骨、軟部組織や内臓の肥大・変形、更には腫瘍発育を促進する。 顔貌は下顎、眉弓部や頬骨の突出、鼻・口唇の肥大、噛列間隙の拡大、巨大舌などの変化を呈し、特異的な顔貌変化や咬合不全を来す。声は特徴的な反響性の低い声を生ずる。皮膚は粗造で肥厚し、四肢末端は肥大する。足底部の軟部組織 (heel pad)の肥厚は重要である。関節軟骨の不均等な増殖の結果、関節が不安定になり、骨棘や変形を来す。 甲状腺は大多数でびまん性あるいは多結節性に腫大するが、ほとんどで甲状腺機能は正常である。 心臓はGHとIGF-1の作用と,併存する高血圧のため、左心室肥大と過剰拍動心を来し、両室肥大心、拡張不全に至り、心拍出量の低下や相対的冠血流の低下が生ずる。GHはインスリン作用と拮抗するため、耐糖能の低下や糖尿病を引き起こす。
- 下垂体腺腫の増大による症状 頭痛が高頻度にみられる。腫瘍が鞍上部に及ぶと視野狭窄・欠損や視力障害を、上方の海綿静脈洞内に浸潤すると動眼神経麻痺を、下方へ伸展すると髄液漏をそれぞれ生ずる。 GH産生腺腫からのプロラクチン(PRL)産生や下垂体茎や視床下部の圧迫に伴う二次的な高PRL血症を来し、月経異常や性欲低下などの性腺機能低下症は比較的高頻度にみられる。
検査
血中GH基礎値:
先端巨大症では、腫瘍からの自律性GH 分泌のため、健常者とは異なり、目差変動や日内変動が少なく、その血中濃度は大多数が5.0ng/m/以上を示す。
血中IGF-I値:
GH作用の良い指標として本症では一般に高値を示す。
経口ブドウ糖負荷検査:病的なGH過剰分泌は経口ブドウ糖負荷による正常な抑制反応を受けない。
画像検査:
手指末節骨は過形成によりX線像にて花キャベツ様変形を示す.足底部軟部組織の22 mm 以上の肥厚は男女ともにheel pad thickness の増大と定義され, X線上重要な所見である.頭部X線撮影では,腺腫の拡大によるトルコ鞍の二重床、風船様拡大、後床突起やトルコ鞍背の破壊像を示すことが多い.また,頭蓋冠骨の肥厚拡大,後頭結節の突出や前頭洞など副鼻腔の拡大を認める。腫瘍の同定にはCT検査よりもMRI検査が有用である。
診断
本症は特異な臨床症状を呈することから典型例では一見して診断可能である。本症の診断は、GHの過剰分泌による作用あるいは下垂体腺腫の増大に基づく症候を見いだすこと、 GH分泌異常を内分泌学的に証明し、さらに腫瘍の局在を画像検査で確認することである(厚生労働省間脳下垂体機能障害調査研究班による先端巨大症の診断の手引きを参照のこと)。
治療
治療法は外科的療法、薬物療法、放射線療法に大別される。
外科的療法は、経蝶形骨洞下垂体腺腫摘出術(あるいはHardy法)が行われており、開頭術はほとんど行われない。
薬物療法はソマトスタチン誘導体である酢酸octreotideが主体である。従来の頻回皮下投与に替わり、徐放製剤(サンドスタチンLARR)が用いられており、臨床症状の改善やGH分泌抑制や血中IGF-I値の正常化が期待できる。
放射線療法は、汎下垂体機能低下症を惹起することが有り、最終補助手段として用いられることが多い.
予後
主な合併症として糖尿病や高脂血症などの代謝障害と呼吸器合併症、心血管障害,腫瘍発生など形態異常がある。主な死囚は同様に心疾患、呼吸器疾患、脳血管障害や悪性腫瘍などがある。放置例や経過観察例では予後は悪く、最大で89%の患者は60 歳までに死亡する。
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2014年10月1日
- 文責
- :日本小児内分泌学会