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フォンタン(Fontan)術後症候群

ふぉんたんじゅつごしょうこうぐん

Post-Fontan syndrome

告示

番号:90

疾病名:フォンタン術後症候群

概念・定義

 2心室修復が不可能である、単心室血行動態疾患に対して、Fontan手術が施行される。Fontan手術には、心房と肺動脈を吻合する方法や、上大静脈と肺動脈、下大静脈と肺動脈を吻合する方法などがある。Fontan術後、主に遠隔期に、不整脈、チアノーゼ、血栓塞栓症、蛋白漏出性胃腸症、心不全、肺高血圧、肝硬変、肝がん、腎不全など全身の臓器不全をきたす症候群。根本治療が無い予後不良の疾患である。

病因

 Fontan術後の特有の血行動態に起因する。詳しい原因、発症機序はいまだ不明である。

疫学

 我が国にFontan術後患者は数千人存在する。術後10年で約50%が本症候群となる。本症候群患者は約10,000人存在する。

臨床症状

 症状は、心不全、動悸、労作時呼吸困難、易疲労、チアノーゼなど。

診断

[理学的所見] 浮腫、チアノーゼ、腹水、心雑音を認める。房室弁閉鎖不全による収縮期駆出性雑音を聴取することがある。浮腫、肝腫大など心不全所見を認める。 [心電図所見] 心電図で、頻拍症を認める。心房細動や心房粗動を認めることもある。 [心エコー所見] 心エコーにて、Fontan術後血行動態、すなわち、心房から肺動脈へ直接流れる血流ないし、上大静脈から肺動脈、下大静脈から肺動脈への血流を認める。フォンタンルート内に血栓を認めることがある。心室の収縮障害や拡張障害を認めることがある。 [MRI, CT] 心室の収縮低下、拡張障害を認める。心筋シンチグラフィで心筋灌流低下を認めることがある。 [心臓カテーテル] 心臓カテーテル検査では、心室の収縮障害や拡張障害を認めることがある。心房圧は10-15mmHgのことが多いが、時に15-20mmHgと上昇していることがある。 [蛋白漏出性胃腸症] 蛋白漏出性胃腸症では、低蛋白血症を認め,糞便中αーアンチトリプシン増加、99mTc標識ヒト血清アルブミンを用いた消化管シンチが陽性となる。 [ 肝障害 ] 肝臓エコー、CT,MRIで、肝線維症、肝硬変、肝がんを認める。  [腎障害 ] 血清クレアチンの上昇を認める。 [診断基準] Fontan術後に、不整脈、チアノーゼ、血栓塞栓症、蛋白漏出性胃腸症、心不全、肺高血圧、肝硬変、肝がん、腎不全など全身の臓器不全のいずれかを認めるもの。

治療

心不全例には慢性心不全に対する治療をおこなう。 利尿薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬の投与を考慮する。β遮断薬(カルベジロールなど)の投与も考慮する。 蛋白漏出性胃腸症に対しては、ヘパリン注射、ステロイド内服、アルブミン補充などが試みられる。 不整脈に対しては、抗不整脈薬を投与する。 心室性頻拍症に対しては、アミオダロン内服や植え込み型除細動器(ICD)が適応となる。 心停止蘇生例に対しては、ICD植え込みが適応となる。右室と左室が同期して収縮していない例や、心電図上QRS幅が広い例では、心室再同期療法のペースメーカ植え込みが適応となる場合がある。 内科的治療に反応しない場合には、心臓移植の適応となる。その前に状態悪化が予想される時は、人工心臓の植え込みが適応となる場合がある。心臓移植手術そのものの死亡率は高く、術後の死亡率も高い。 肝硬変例では、肝がん発見のための定期的スクリーニングが必要である。肝がんに対しては、コイル塞栓術や抗がん剤動注などがなされる。

予後

 予後は不良である。
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児循環器学会