概念・定義
病因
1)僧帽弁逸脱に伴う例が最も多い。僧帽弁逸脱の原因は不明である。弁腹が粘液腫様に変性したり腱索が長くなるためとする説がある。若い女性や、やせ気味の人に多い。一部は、Marfan症候群、Ehlers-Danlos症候群など結合織病に合併する。 2)心内膜床欠損、共通房室弁、心室中隔欠損、動脈管開存などに合併するもの。僧帽弁の解剖学的異常(亀裂など)や左室拡大による僧帽弁閉鎖不全。 3)川崎病後冠動脈瘤や左冠動脈肺動脈起始などによる心筋梗塞後や、拡張型心筋症で左室収縮不全と左室拡張をきたしている場合、腱索がひっぱられ(テザリング)、弁のあわさりが悪くなる。心筋梗塞で乳頭筋も壊死になり僧帽弁閉鎖不全になることもある。 4)乳児期に感冒症状などウイルス感染症が先行して、突然、腱索断裂が発生することがある
疫学
僧帽弁逸脱自体の頻度は高く学童の1−5%に認める。僧帽弁閉鎖不全は約0.6%に認める。治療が必要な程度の僧帽弁閉鎖不全はさらに少ない。 僧帽弁逸脱以外の孤立性のものはまれである。心内膜床欠損などに合併する頻度は比較的高い
臨床症状
軽症例では無症状で検診などの際、心雑音で見つかることが多い。中等症では左心不全症状、すなわち多呼吸、努力性呼吸、体重増加不良を認め、頻回の呼吸器感染及び心臓喘息を呈する。進行し高度となると浮腫・肝腫大などの右心不全症状を呈する
診断
汎収縮期雑音で気づかれることが多い。 胸部エックス線:左房拡大(気管分岐角度の開大、側面像で左房陰影の後方への突出)、左室拡大を認める。進行すると肺静脈うっ血所見を認め、肺高血圧を呈するようになると肺動脈・右心室の拡大を呈する。 心電図:左房負荷所見(II誘導における幅広のノッチのあるP波、V1誘導における終末部の突出した陰性波)を呈する。進行すると肺高血圧を反映し右室、右房負荷を認める。左室肥大を呈するが肺高血圧に至ると両室肥大となる。 心臓超音波検査:カラードプラで逆流を描出することができ、診断は容易である。外科的治療を考慮するにあたり重要な逆流部位および原因となる構造異常を同定することも可能である。左房・左室の拡大を認めるが、逆流程度の評価として左室の大きさを定量評価することが可能である。軽症は左室容量負荷がなく、中等症、重症では左室容量負荷を認める。 心臓カテーテル検査:左房圧とくにv波、肺動脈楔入圧は上昇する。左室造影で左室から左房への逆流および左房、左室の拡大を認める
治療
軽症例には治療は不要である。中等症には内科治療、重症例には外科治療を行う。合併心疾患に対して外科治療する時は、僧帽弁閉鎖不全が中等症以上なら僧帽弁も一緒に治療する。 内科治療としてはアンジオテンシン変換酵素阻害薬の有効性が報告されている。心不全症状を呈している場合には利尿薬などが投与される。 高度の逆流に対しては手術が行われる。先天的な構造異常に起因する場合、弁形成が困難で弁置換が選択される。 感染性心内膜炎のハイリスクであり、感染性心内膜炎予防は必要である
予後
軽度であれば感染性心内膜炎のリスクがある程度で悪くない。中等症の予後はいまだ不明である。重症例では手術時期が遅れると手術により逆流は消失しても心機能低下の状態が持続し予後不良である
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2014年10月1日
- 文責
- :日本小児循環器学会