概念・定義
肺実質内に先天性に気道以外に恒常的に嚢胞が存在する状態をいう。近年は出生前に胎児肺の異常として診断される症例も多い。本邦における全国的な調査では、出生前診断される症例の10-15%程度は周産期に、胎児水腫、子宮内胎児死亡、生直後の呼吸不全などの重篤な症状を呈することが分かった。生直後に呼吸器症状がない場合でも、9割以上の症例は幼児期の間に反復する肺感染などを発症するため、乳児期、遅くも幼児期早期までに手術的に病変を切除すべきであると考えられる。一部の症例では複数肺葉に病変がみられ、手術後も成人後まで嚢胞性病変の遺残や、呼吸障害などの症状を呈し、手術の反復や内科的治療を要することがある。また、本疾患からの発がんの報告が海外で見られるが、近年の全国調査では1992年以降に出生した850例以上の症例中で発がん例は確認されていない。これらから、手術後に正常肺機能を獲得する症例が多い一方で、成人以降も経過観察を要するものと考えられる。
病因
肺の形成過程における発生学的異常により、肺実質内に嚢胞が形成されると考えられている。病変の種類や、病変の主座は、異常の起こる発生段階により異なるものと理解されており、細部においては異論もあるが、本邦の全国調査、ガイドラインでは肺・気道発生の異常、肺芽の異常、前腸の発生異常、先天性の気管支閉鎖、その他の先天異常と病因を大別している。
疫学
年間で約100人の新規発症があり、成人移行をしている者は年間5~10人程度と推定。
臨床症状
【出生前】 胎児肺異常、胎児水腫、羊水過多、子宮内胎児死亡
【生 後】 呼吸不全、呼吸障害、反復性肺炎
【慢性期】 嚢胞遺残、気胸、肺炎、呼吸障害、胸郭変形
【生 後】 呼吸不全、呼吸障害、反復性肺炎
【慢性期】 嚢胞遺残、気胸、肺炎、呼吸障害、胸郭変形
検査所見
胸部単純X線写真、CT、胎児MRIなどの画像診断で先天性、非可逆性に肺実質内の嚢胞性病変が描出される
以下のいずれかの所見がみられる
1) 超音波検査、CT検査などの画像診断により病変部に異常な弾性血管の流入を認める
2) 気管支鏡検査で気管支の閉鎖を認める
3) 切除肺の病理検査で気管支閉鎖部の中枢側に粘液栓がみられる
4) 上記1), 2) ,3)のいずれの所見もなく、切除肺の病理組織検査で嚢胞上皮の腺腫様所見がみられる
5) その他、リンパ管拡張など切除肺の病理組織学検査で先天的な異常がみられる
以下のいずれかの所見がみられる
1) 超音波検査、CT検査などの画像診断により病変部に異常な弾性血管の流入を認める
2) 気管支鏡検査で気管支の閉鎖を認める
3) 切除肺の病理検査で気管支閉鎖部の中枢側に粘液栓がみられる
4) 上記1), 2) ,3)のいずれの所見もなく、切除肺の病理組織検査で嚢胞上皮の腺腫様所見がみられる
5) その他、リンパ管拡張など切除肺の病理組織学検査で先天的な異常がみられる
診断の際の留意点
胸部単純X線写真、CT、胎児MRIなどの画像診断で先天性、非可逆性に肺実質内の嚢胞性病変が疑われた場合に本症を疑う。本症には発生学的に幾つかの異なる背景があると考えられており、
1) 超音波検査、CT検査などの画像診断により病変部に異常な弾性血管の流入を認める
2) 気管支鏡検査で気管支の閉鎖を認める
3) 切除肺の病理検査で気管支閉鎖部の中枢側に粘液栓がみられる
4) 上記1), 2) ,3)のいずれの所見もなく、切除肺の病理組織検査で嚢胞上皮の腺腫様所見がみられる
5) その他、リンパ管拡張など切除肺の病理組織学検査で先天的な異常がみられる
のいずれかの所見を呈し、後天的な疾患が除外される場合には本症と診断する
1) 超音波検査、CT検査などの画像診断により病変部に異常な弾性血管の流入を認める
2) 気管支鏡検査で気管支の閉鎖を認める
3) 切除肺の病理検査で気管支閉鎖部の中枢側に粘液栓がみられる
4) 上記1), 2) ,3)のいずれの所見もなく、切除肺の病理組織検査で嚢胞上皮の腺腫様所見がみられる
5) その他、リンパ管拡張など切除肺の病理組織学検査で先天的な異常がみられる
のいずれかの所見を呈し、後天的な疾患が除外される場合には本症と診断する
治療
病変部の外科的切除が原則。その他、症状に応じて抗感染治療、呼吸補助、胸腔ドレナージなどの支援療法を行う。
合併症
遺残肺葉における嚢胞性病変の遺残
胸郭変形による治療後晩期の諸症状の合併が報告される
胸郭変形による治療後晩期の諸症状の合併が報告される
予後
出生前診断される症例の10-15%程度は周産期に、胎児水腫、子宮内胎児死亡、生直後の呼吸不全などの重篤な症状を呈するものと思われる。平成26年の全国調査では245例の出生前診断例のうち8例が生後30日未満で死亡していた。出生前診断されずに子宮内胎児死亡となる症例も相当数いるものと考えられる。
生後診断例については一般に生命予後は良好。一部の症例で慢性に呼吸障害などの症状が継続し、成人後も治療を要することが知られる。
生後診断例については一般に生命予後は良好。一部の症例で慢性に呼吸障害などの症状が継続し、成人後も治療を要することが知られる。
成人期以降の注意点
遺残肺葉に病変が遺残している場合は、感染、気胸、呼吸困難などの症状を呈し、さらに本邦の調査では確認されていないが、嚢胞性病変からの発がんも報告されており、治療、経過観察を継続する必要がある。胸郭変形による諸症状は報告が散見され、診療を要する。
参考文献
- 「小児呼吸器形成異常・低形成疾患に関する実態調査および診療ガイドライン作成に関する研究班」作成の診断基準
- Tatsuo Kuroda, Eiji Nishijima, Kosaku Maeda, Yasushi Fuchimoto, Seiichi Hirobe, Yuko Tazuke, Toshihiko Watanabe, Noriaki Usui: Clinical features of congenital cystic lung diseases; a report on a nationwide multicenter study in Japan. European J Pediatr Surg 2016; 26:91-95.
- Kuroda T, Nishijima E, Maeda K, Fuchimoto Y, Hirobe S, Tazuke Y, Watanabe T, Usui N: Perinatal features of congenital cystic lung diseases: results of a nationwide multicentric study in Japan. Japanese Study Group of Pediatric Chest Surgery. Pediatr Surg Int. 2016; 32 :827-31
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2017年3月17日
- 文責
- :日本小児外科学会