1. 慢性呼吸器疾患
  2. 大分類: 間質性肺疾患
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特発性間質性肺炎

とくはつせいかんしつせいはいえん

idiopathic interstitial pneumonia

告示

番号:2

疾病名:特発性間質性肺炎

概念・定義

特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonia, IIP)は、おもに肺の間質に慢性的な炎症をきたす疾患群のうち、原因が特定できないものと定義される。

疫学1-2)

海外からの報告では、発症頻度は0.36/100,000と推定されている。国内での正確な数字は不明であるが、難病疾患の登録によると近年の19歳未満の登録患者数は30名、小児呼吸器学会が平成17年に実施した、過去5年間の診療実績の全国調査では21症例が報告されている

病因3-5)

Surfactant protein-C(SFTPC)遺伝子やABCA3遺伝子の異常が本症の発症に関与することが知られている。一方で、SFTPC遺伝子異常を有する無症状例が知られており、ABCA3遺伝子異常の有無がSFTPC遺伝子異常の臨床重症度に関与しているとする報告もある。現段階では、遺伝的背景に何らかの要因(環境要因や調節遺伝子の異常)が加わった場合に間質性肺炎が発症すると考えられている

症状

主要症状は、治療に抵抗して2週間以上持続する多呼吸と低酸素血症である。その他の症状としては、咳嗽や喘鳴、ばち指、体重増加不良や運動能の低下(易疲労感)を認めることもある。長期に経過した症例では、肺高血圧、右心不全をきたすことがある。 胸部聴診では、病変部において呼吸音の減弱や水泡音(coarse crackles)を認めることがある

診断

国内には確立した診断基準はない。以下の症状・画像・血清マーカーの3項目を満たし、類似の症状・所見を呈する疾患群が除外できた場合には特発性間質性肺炎の可能性が高い。確定診断は病理診断(肺生検)で行うのが理想であるが、実施困難な場合には臨床および検査所見から総合的に判断する。 1. 症状 適切な治療を行っても2週間以上持続する多呼吸・低酸素血症を呈する。 2. 胸部画像検査 1) 単純X線写真 びまん性の間質性陰影を呈する。無気肺やconsolidationを合併することがある。心拡大、肺血管陰影の増強の有無にも留意する。 2) CT 単純X線写真でびまん性の間質性陰影を認めた場合にはCTを行う。病変の広がり、間質性陰影のパターンを検討する。 3. 血清マーカー(KL-6、SP-A、SP-D) 間質性炎症の血清マーカー(少なくとも一つ以上)の上昇を認める。 1) KL-6 肺胞障害後にII型肺胞上皮細胞で合成が促進するムコ多糖蛋白で、間質性肺炎で上昇する。 2) SP-A、SP-D II型肺胞上皮細胞が合成・分泌する肺サーファクタント蛋白質である。表面張力作用だけではなく、生体防御機構にも関与している。肺胞上皮障害が進行すると、肺胞腔内に存在するSP-A・SP-Dが血中に漏れて出て上昇する。 4. 除外診断 先天性心疾患、感染症、免疫不全、膠原病、嚥下機能障害・胃食道逆流症などでは類似の症状・所見を呈することがある。間質性肺炎をきたしうる薬剤の使用歴を確認することも重要である

治療

治療は、ステロイド・ハイドロキシクロロキンの2剤が基本である。ハイドロキシクロロキンは本稿記載時点で国内未承認薬のため、ステロイドから開始するのが現実的である。効果判定は、安静時(夜間睡眠時)の呼吸数や心拍数、酸素必要量などの臨床症状を参考に1か月以上の期間をかけて行う。 1. ステロイド 1)PSL内服 重症度が低く、増悪のスピードが緩徐な場合にはPSL内服(2mg/kg/day、分3)で治療を開始する。有効例では時間をかけて減量する。 2)ステロイドパルス療法 重症度が高く、増悪のスピードが急激な場合や、PSL内服の効果が不十分な場合にはステロイドパルス療法を行う。m-PSL(メチルプレドニゾロン)30mg/kgを生理食塩水に溶解し、3時間以上かけて点滴静注を3日間行う。パルス療法終了後には、後療法(PSL内服、1-2mg/kg/day)を行う。効果が不十分な場合には、ステロイドパルス療法を1週間の間隔で繰り返すこともある。1週間の間隔で繰り返しても効果がない場合には、ステロイド単剤での治療は困難と判断し、ハイドロキシクロロキンの使用を検討する。ステロイドパルス療法を繰り返しながらも、間隔が徐々に長くなる場合にはステロイド単剤での治療が可能かもしれない。 2. ハイドロキシクロロキン ステロイドで十分な効果が得られない場合に使用する。実際にはステロイドとの併用療法で開始することが多い。投与量は10mg/kg/day、分2が一般的で、治療効果発現には、2-4週以上が必要である。 日本では網膜症のために承認が取り消された薬剤なので、適応を慎重に判断し、患者・家族の同意を得てから使用する。定期的な眼科診察で、網膜症の早期発見に努める。日本小児呼吸器疾患学会が平成17-19年に行った全国調査では、承認取り消しの事由となった網膜症の報告はなかった。低血糖の関連が疑われる症例報告があるので、注意する(特にステロイド併用例において、ステロイドを減量していく過程では注意が必要である)。 3. その他の免疫抑制薬 ステロイド・ハイドロキシクロロキンの併用療法でも十分な効果が得られない場合や、ハイドロキシクロロキンが使用できない場合に、その他の免疫抑制薬を使用する。残念ながら、有効性が明らかな薬剤はない。 4. 肺移植 内科的治療が無効な場合には、肺移植を検討する。国内では生体肺移植がその主な手段となる。移植肺(成人の一葉)を受け入れる胸郭の大きさが必要であるため、本症の発症者が多い乳幼児期には困難である

予後

ステロイド、クロロキンが有効な症例は予後良好である。逆に、これら2剤が無効の症例は予後不良なことが多い。治療開始時に、検査結果などから予後を判定することは困難である

文献

1)Dinwiddie R, Sharief N, Crawford O. Idiopathic interstitial pneumonitis in children: a national survey in the United Kingdom and Ireland. Pediatr Pulmonol 2002;.34:23-29. 2)肥沼悟郎: 小児特発性間質性肺炎の現状と問題点. 日本小児科学会雑誌114(6):937-945, 2010 3) Nogee LM, Dunbar AE 3rd, Wert SE, et al:A mutation in the surfactant protein C gene associated with familial interstitial lung disease. N Engl J Med.344(8):573-9,2001 4) Shulenin S, Nogee LM, Annnilo T, et al: ABCA3 gene mutations in newborns with fatal surfactant deficiency. N Engl J Med. 350(13):1296-1303,2004. 5)Bullard JE, Nogee LM:Heterozygosity for ABCA3 mutations modifies the severity of lung disease associated with a surfactant protein C gene(STFPC) mutation. Pediatr Res 62:176-179, 2007.

:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日