1. 慢性腎疾患
  2. 大分類: 尿細管性アシドーシス
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尿細管性アシドーシス

にょうさいかんせいあしどーしす

Renal tubular acidosis; RTA

告示

番号:18

疾病名:尿細管性アシドーシス

概念・定義

尿細管性アシドーシス(renal tubular acidosis : RTA)は,先天性あるいは後天性の腎尿細管機能異常により,尿中への酸排泄が障害され,酸血症を生じる症候群である。このうち遠位尿細管における水素イオン排泄障害によるRTAが遠位尿細管性アシドーシス(distal RTA:dRTA,I型RTA),近位尿細管での重炭酸イオン再吸収能低下によるRTAが近位尿細管性アシドーシス(proximal RTA:pRTA,II型RTA),遠位尿細管での水素イオン排池障害と近位尿細管での重炭酸イオン再吸収障害を合併した状態をhybrid RTA(III型RTA),アルドステロン欠乏あるいは作用不全により遠位尿細管におけるKと水素イオンの排池が障害されるものを高K血性dRTA(hyper K dRTA,IV型RTA)とよぶ。ただし,III型は乳幼児に多くみられるI型RTAの重症型とされ,現在では用いられていない。

病因・病態

1. 遠位尿細管性アシドーシス(distal RTA: dRTA,I型RTA)
 遠位尿細管におけるH+分泌機構をつかさどるH+-ATPaseの特異的な障害や,尿細管のH+透過性亢進によるpH勾配形成障害,Na再吸収低下による電位依存性H+分泌障害などの機序により,H+の分泌障害が生じる。このようなH+の排泄障害がdRTAの原因であり,表1に示す様々な疾患で生じる。著明なアシドーシスの存在下でも尿pHが5.5~6.5以下になることはない。  尿中H+分泌障害のためアシドーシスが亢進しても,ある程度HCO3-は尿中へ失われ,血漿HCO3-はさらに低下する。尿中のHCO3-はNa,Kなどの陽イオンの分泌を促し,Na喪失による体液量の減少により,二次性アルドステロン症(血漿レニン活性上昇,血漿アルドステロン濃度上昇),低K血症を引き起こす。また,高い尿pHとアシドーシスによるCa再吸収抑制による高Ca尿症,尿路結石阻害物質である尿中クエン酸の排泄低下により,骨軟化症,尿路結石などの頻度が高い。低Ca血症のため,二次性副甲状腺機能亢進症を来す。

表1  I型RTAの原因

表1  I型RTAの原因 2. 近位尿細管性アシドーシス(proximal RTA:pRTA,II型RTA)
 近位尿細管でのHCO3-再吸収障害がその本態である。その障害部位としてはNa+/H+交換輸送体異常,Hポンプの異常,Na/HCO3-共輸送体異常,炭酸脱水酵素異常,および輸送体のエネルギー源となるNa-K-ATPaseの異常により生じる。原因疾患を表2に示す。  臨床的には炭酸脱水素酵素(carbonic anhydrase II: CAII)の遺伝子異常(1),Na+/ HCO3-共輸送体(Na+/ HCO3- cotransporter type 1: NBC-1)をコードする遺伝子SLC4A4の異常が報告されている(2)。CAIIの異常では知能障害,砕骨細胞の酸分泌障害による骨吸収障害の結果としての大理石骨病,RTAを呈し,常染色体劣性遺伝である。NBC-1は眼内にも発現しており,SLC4A4異常で白内障,緑内障を伴う常染色体劣性遺伝のpRTAを呈する。常染色体優性遺伝のpRTAの原因遺伝子は同定されていないが,眼症状を伴わないことなどから,Na+/H+交換輸送体(Na+/H+ exchanger type 3: NHE3)の異常による可能性が示唆されている。  近位型RTAでは,尿酸性化障害だけでなく汎アミノ酸尿,糖尿,リン酸尿など近位尿細管再吸収全般の障害を伴ったFanconi症候群の形をとることが多い。 近位型RTAでは,近位尿細管のHCO3-再吸収障害のため,遠位尿細管に到達するHCO3-は増大するが,遠位尿細管におけるH+分泌能は小さいため,HCO3-が尿中へ漏出し,代謝性アシドーシスを呈する。アシドーシスが進行すると,糸球体から濾過されるHCO3-が滅少するため,近位尿細管へのHCO3-負荷が減少し,障害された近位尿細管でも対応できるようになることから,尿中へのHCO3-喪失はなくなる。このため,血中HCO3-濃度は一定の値を下回ることはない。遠位尿細管での尿酸性化能は正常であるため,アシドーシスが存在した状態では尿pHは5.5以下にHCO3-低下する。 近位尿細管でのNa+,HCO3-再吸収が障害されると遠位尿細管への負荷量が増大するため,遠位尿細管におけるNa再吸収,K分泌が尤進し,低K血症を来す。アシドーシス補正により低K血症も増強されるため,治療にはK補給も必要である。

表2  II型RTAの原因

表2  II型RTAの原因 3.  hybrid RTA (III型RTA)
I型とII型の両方の要素をもったRTAで,I型RTAでHCO3-の尿中喪失を伴うものを指していたが,乳幼児に多くみられるI型RTAの重症型とされ,現在ではこの病型は用いられていない。
4.  高K血性dRTA(hyper K dRTA,IV型RTA)
 IV型RTAは遠位尿細管におけるアルドステロン作用の低下がその本態である。遠位型(I型)RTAと異なり,高K血症が特徴である。  アルドステロン作用の低下は,アルドステロンの絶対的欠乏(低アルドステロン血症),尿細管のアルドステロン反応性低下の二つのタイプがある(表3)。  アルドステロンは集合尿細管固有細胞の管腔側Naチャネル,血管側Na-K-ATPaseの活性を増加させることによりNa再吸収とK分泌を充進させる。また,α介在細胞のH+-ATPaseの活性を増加させ,H+分泌を促進する。アルドステロン作用が欠乏するとこれら輸送系が障害され,K+とH+の排泄が障害される。高い尿pHは滴定酸よりもアンモニウム排泄をより阻害し,代謝性アジドーシスとなる。さらにアシドーシスでは,細胞内よりKが細胞外液に出るため高K血症が増強される。高K血症は近位尿細管でのアンモニウム産生を抑制し,Henle係蹄の太い上行脚,集合尿細管でのアンモニウム輸送を障害するため,さらにアシドーシスが増悪する。 遠位尿細管における滴定酸およびアンモニウム排泄はHCO3-再吸収量に比し,きわめて少ないため,腎機能障害が背景にないとアシドーシスにはならない。  IV型RTAでは,アシドーシス存在下でも尿pHは低下しない。低レニン性低アルドステロン症を呈することが多いが,尿細管反応性低下例では血漿レニン活性,血漿アルドステロン活性とも正常なことがある。

表3  IV型RTAの原因

表3  IV型RTAの原因

診断・鑑別診断

アニオンギヤップ= Na+-(Cl- + HCO3-) が正常の代謝性アシドーシスで,胃・腸管からの重炭酸イオンの喪失,薬物,酸負荷などが除外されればRTAの診断が確定する。 病型診断は臨床・検査所見から行う(表4)。  最初に,血清K値が高値を示す遠位型(IV型)RTAと,低値を示す近位型(II型)RTA,遠位型(I型)RTAを鑑別する。Transtubular K gradient (TTKG)は皮質集合管でのアルドステロンの反応性を間接的に示すよい指標であり,低K血症にも関わらずTTKG>2であれば腎からの喪失を示し,高K血症にも関わらずTTKG<6であれば腎での反応性低下を示す。  塩化アンモニウム負荷試験(0.1g/kgまたは75mEq/m2経口投与)で血液pHが7.3以下にもかかわらず尿pHが5.5以下にならない場合,dRTAと診断する。すでにpHが7.3未満の代謝性アシドーシスがある場合は本試験を行う必要はない。また高度なアシドーシスがある場合は危険なので,本試験は行わない。  重炭酸負荷試験は近位尿細管における重炭酸イオンの再吸収能を診る検査である。重曹(2~3mEq/kg/日)を数日投与して血中重炭酸イオン濃度を正常化した時点で,FEHCO3-: (UHCO3-×PCRE/UCRE×PHCO3-)×100 (%) を計算する。

表4 尿細管性アシドーシスの病型分類

表4 尿細管性アシドーシスの病型分類

治療

RTAの治療は,アルカリ剤(重曹)補充によるアシドーシスの補正が基本である。II型で大量,IV型で中等量,I型では少量の補充でアシドーシスの補正が可能である。
1. 遠位尿細管性アシドーシス(distal RTA: dRTA,I型RTA)  重曹は高度のアシドーシスが補正されれば,1日の酸産生量と同量を補充する(HCO3-として1~3mEq/kg/日)。アシドーシス補正により,低K血症,高Ca尿症は改善し,骨病変は改善する。 また,尿中クエン酸排泄低下に伴う尿中Ca溶解度低下により腎結石を合併することが多いが,クエン酸投与によって尿中Ca溶解度を増すことができる。したがってI型RTAの治療にはアルカリ剤とクエン酸の配合剤を用いるのが合理的である。  遠位型(I型)RTAはSjögren症候群に合併することが多いが,Sjögren症候群ではK補充が必要となる場合も多い。
2. 近位尿細管性アシドーシス(proximal RTA:pRTA,II型RTA)  アシドーシスの補正に伴い,尿中へのHCO3-漏出も増大するため,I型RTAに比べ大量の重曹補充が必要となる(5~20mEq/kg/日)。特に高度のHCO3-排泄閾値低下(12mM以下)により重曹の大量投与によるアシドーシスの改善が乏しい症例では,サイアザイド系利尿薬の併用し循環血液量減少によるHCO3-排泄閾値上昇を図る。また,重曹の補充に伴いKが細胞内に移行し低K血症を増悪させるため,Kの補充に留意する。  Fanconi症候群を合併した症例では,高Ca尿症による低Ca血症,高P尿症による低P血症を伴い,骨軟化症,尿路結石などの症状を呈する,骨病変にはCaやビタミンDを投与する。
3. 高K血性dRTA(hyper K dRTA,IV型RTA)  IV型RTAは原因により治療方針が異なる(表3)。アルドステロンの絶対的欠乏に基づく病態である場合,外因性ミネラルコルチコイドである酢酸フルドロコルチゾン (0.1~0.4mg/日)が有効であるが,Na貯留・逸水傾向となるため,利尿薬の併用が必要となりやすい。コントロール不良の高血圧,心不全患者での使用は控えるべきである。  IV型RTAでは高K血症が存在し,また腎機能低下を伴っていることが多いため,さらに高度な高K血症に陥りやすい。重曹補充によるアシドーシス是正が高K血症の治療にもなるが,高度の高K血症にはK吸着レジンの投与,K摂取制限など有効である。

参考文献

1) Roth DE, Venta PJ, Tashian RE, Sly WS. Molecular basis of human carbonic anhydrase II deficiency. Proc Natl Acad Sci USA 89:1804-1808, 1992 2) Igarashi T, Inatomi J, Sekine T, et al. Mutations in SLC4A4 cause permanent isolated proximal renal tubular acidosis with ocular abnormalities. Nat Genet 23:264-266, 1999 3) 實吉 拓, 冨田公夫.I型(遠位型)尿細管アシドーシス.腎症候群(第2版)上: pp757-762, 日本臨床社, 大阪, 2012 4) 實吉 拓, 冨田公夫.II型(近位型)尿細管アシドーシス.腎症候群(第2版)上: pp763-765, 日本臨床社, 大阪, 2012 5) 堀 加穂理, 永井孝憲, 野々口博史.III型尿細管アシドーシス.腎症候群(第2版)上: pp766-768, 日本臨床社, 大阪, 2012 6) 實吉 拓, 冨田公夫.IV型(高K血性)尿細管アシドーシス.腎症候群(第2版)上: pp763-765, 日本臨床社, 大阪, 2012 7)五十嵐隆:腎尿細管性アシドーシス.日本内科学会雑誌95(5)
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児腎臓病学会

成長ホルモン療法の助成に関して

腎機能障害が進行し、身長が-2.5SD以下の場合でがつ成長ホルモン治療の対象基準を満たす場合は、小慢による成長ホルモン治療助成の対象となります。
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