概念・定義
IgA腎症は,慢性糸球体腎炎のうち,主に免疫グロブリンIgAが免疫複合体を形成し、腎糸球体メサンギウム領域に沈着し,メサンギウム細胞の増殖とメサンギウム基質の増生・拡大を認める疾患である。
疫学
IgA腎症は,我が国で最も多く認められる慢性糸球体腎炎であり,成人では慢性糸球体腎炎の30%以上,小児でも20%以上を占める1)。日本以外には,アジア太平洋地域の諸国とフランスその他の南欧諸国でも本症が多発し,北欧や北米では比較的少ないことが知られている2)。発見時の年齢は成人では20歳代,小児では10歳代が多いが患者層はすべての年齢にわたっている3)。
1993年に至って本症の20年予後が日本とフランスから相次いで発表され、その結果は従来想定されていたよりも不良であって、 両国ともに腎生検後20年間の予後として38%前後が末期腎不全に陥ると報告された。長期予後の正確な数字を決定するためには今後も各国からの追跡調査結 果の集積が必要であるが、日本においては本症の症例数が極めて多いことと、長期予後が比較的不良であることが明らかになってきたために、今後は全国的な共通基準のもとに症例の診断、予後判断及び治療を行うことが重要であると認識されるようになった。
症状
急性上気道感染症・消化管感染症や過労時に,褐色調(ワインレッド色)の肉眼的血尿が見られる。しかし実際は,特にわが国では学校健診や職場健診における検尿で無症候性に顕微鏡的血尿を指摘されて偶然に発見されることが最も多い(約70%)。小児期IgA腎症の約10%の症例は血尿・蛋白尿に高血圧・腎機能低下を伴う急性腎炎症候群,高度蛋白尿とその結果起こる低蛋白血症を伴うネフローゼ症候群で急性発症する。
病態の進行の程度は個人によりさまざまであるが,小児,成人ともに無治療では数年から数十年で20~40%が末期腎不全へと進行すると言われている。
病因・病態
IgA腎症の発症機序はいまだに不明な点が多いが,IgAを主体とする免疫グロブリンが糸球体メサンギウムに特異的に沈着した結果生じるメサンギウム細胞の増殖やメサンギウム基質の増生を特徴とするメサンギウム増殖性糸球体腎炎である。
IgA腎症の患者には何らかの遺伝学的素因が存在し,抗原曝露に対してIgAの過剰産生が起こり,IgA分子の異常も加わって高分子IgA免疫複合体が形成される。この免疫複合体が糸球体メサンギウム領域に沈着し,メサンギウム増殖を起こし,IgA腎症を引き起こすものと考えられている。
食物やウイルス,細菌などを抗原とする免疫複合体の糸球体内沈着によって引き起こされるとする説がある。すなわち,免疫反応を惹起させる何らかの原因抗原の存在が想定されているが,いまだに同定されていない。
扁桃をはじめとする病巣粘膜で抗原を認識したリンパ球がIgA抗体を産生すると考えられおり,扁桃における免疫応答の異常や,産生されるIgAサブクラス1の抗体ヒンジ領域の糖鎖異常が関与しているという報告もある4, 5)。また、IgA腎症の一部では明らかな家族内発症が見られることから,遺伝因子の関与も考えられており,レニン・アンギオテンシン系遺伝子やIgAクラススイッチ制御遺伝子の多型などが注目されている6, 7)。
診断
IgA腎症の診断には腎生検が不可欠であり,蛍光抗体染色にてメサンギウム領域へのIgAの沈着が必須項目となる。ただし,腎生検の適応は慎重に行うべきであり,血尿を呈する多くの腎,尿路系疾患が鑑別診断としてあげられる。
2009年に発表された「CKD治療ガイドライン」では,腎生検の適応として,血尿と尿蛋白/クレアチニン比0.2以上の蛋白尿がともに持続する症例,あるいは腎機能障害やネフローゼ様の高度蛋白尿を伴う急速進行例などがあげられている8)。予後良好な家族性良性血尿や,結石,ナットクラッカー現象などの非糸球体'性疾患を除外する必要があり,顕微鏡的血尿単独例や肉眼的血尿を繰り返す例であっても,間欠期の尿所見に異常が認められなければ腎生検の適応とはならない。また,紫斑病性腎炎など組織学的な鑑別が困難な疾患もあり,臨床所見や病歴を合わせて診断することが重要である。
非糸球体性疾患の鑑別には,尿沈漬赤血球の変形率や円柱の有無が参考になる。肉眼的血尿を呈する活動'性のIgA腎症では,赤血球円柱や穎粒円柱がみられる場合が 多い。また,尿中の糸球体上皮細胞(podocyte)の存在も糸球体疾患の存在を示唆する有用な所見であり,活動性の強い糸球体腎炎では尿中への著明な脱落が認められる。
血液検査所見として,血清IgA値は本症成人例の約半数で400mg/dL以上の高値を呈するが,小児例では高値となる症例は比較的少ない。また,年齢によるIgAの基準値が異なることに考慮が必要である。
病理所見:典型的な病理所見としてメサンギウム増殖性糸球体腎炎像を呈し,光顕PAS染色所見で,メサンギウム領域の細胞増殖および基質の増生を認めるが,小児ではメサンギウム細胞増殖が優位な場合が多い。また,活動性の強い病変では半月体形成や,急性糸球体腎炎に類似した管内増殖'性変化を伴うことが多い。電顕所見ではメサンギウム基質への免疫複合体沈着(paramesangial deposit)を認める。蛍光抗体染色で糸球体メサンギウム領域にIgAの顎粒状沈着が認められる。IgGやC3の沈着を伴う場合が多い。
腎生検標本による組織学的重症度分類により予後判定を行う試みが古くから行われており,2009年に発表ざれたOxford分類9)および2011年にわが国でも日本腎臓学会から新しい組織学的重症度分類が発表されている10)。とくにOxford分類は作成段階で比較的多くの小児例も含めて検討されており,小児例の重症度判定に応用できることが報告されている11)。
治療
成人では組織学的重症度や病期により治療手段は変化する。小児IgA腎症は学校検尿などにより比較的早期に発見され,病理所見上はメサンギウム基質の増生は少なく,メサンギウム細胞増殖が有意である。日本小児腎臓病学会の示す小児IgA腎症治療ガイドラインでは,基質が増加し硬化性病変を形成する前の早期に治療を開始すべきとしており,病理所見上の重症度によって異なる治療を提示している12)。
軽症例では,柴苓湯やACE阻害薬による治療を,中等症以上の症例に対しては副腎皮質ステロイド薬を主体として,抗血小板薬(ジピリダモール,塩酸ジラゼプ),抗凝固薬(ワーファリン),免疫抑制薬(ミゾリビン,アザチオプリン)を組み合わせた多剤併用療法(カクテル療法)が行われる。
一方,成人例に多くみられる糸球体硬化や尿細管間質線維化など慢性病変の進行した例では,ACE阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)を主体とした治療が行われる。
また,急性上気道炎,とくに扁桃腺炎の反復によりIgA腎症が惹起されるという考えに基づき,扁桃腺摘出+ステロイドパルス療法が成人例を中心に,国内の一部施設で積極的に行われている。しかし,有効性を客観的に示す学術論文がないため国際的評価は定まっていない。
予後
小児例,成人例とも無治療では20年の経過で20~40%前後が末期腎不全へと進展すると報告されている。しかし,特に本邦では,小児IgA腎症治療研究会が行ったランダム化比較試験から,上述の多剤併用療法が確立しており,予後が改善されている13)。
参考文献
- 小山哲夫, 他. IgA腎症の予後判定因子の背景一成人部門. 厚生省特定疾患進行性腎障害調査研究班. 平成四年度研究業績集, p21-30, 1994
- Schena FP. A retrospective analysis of the natural history of primary IgA nephropathy worldwide. Am J Med 89:209-15, 1990
- 富野康日己, 厚生労働省特定疾患進行性腎障害に関する調査研究班IgA腎症分科会:厚生労働省特定疾患進行性腎障害に関する調査研究班報告IgA腎症診療指針一第2版一. 日腎会誌44:487-493, 2002
- Horie A, Hiki Y, Odani H, et al. IgA1 molecules produced by tonsillar lymphocytes are under-O-glycosylated in IgA nephropathy. Am J Kidney Dis 42:486-96, 2003
- Hiki Y, Odani H, Takahashi M, et al. Mass spectrometry proves under-O-glycosylation of glomerular IgA1 in IgA nephropathy. Kidney Int 59:1077-85, 2001
- Hunley TE, Julian BA, Phillips JA 3rd, et al. Angiotensin converting enzyme gene polymorphism: potential silencer motif and impact on progression in IgA nephropathy. Kidney Int 49:571-7, 1996
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- 小児CKDの診断.日本腎臓学会 編.CKD診療ガイドライン2009. 東京医学社, 東京, p172-192, 2009
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- IgA腎症分科会. IgA 腎症診療指針(第3版). 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業 進行性腎障害に関する調査研究班報告.日腎会誌53:123-135, 2011
- Working Group of the International IgA Nephropathy Network and the Renal Pathology Society. The Oxford IgA nephropathy clinicopathological classification is valid for children as well as adults. Kidney Int 77:921-7, 2010
- 吉川徳茂, 五十嵐 隆, 石倉健司, 他, 日本小児腎臓病学会学術委員会小委員会「小児IgA腎症治療ガイドライン作成委員会」小児IgA腎症治療ガイドライン1.0版.日児誌111 1466-1472, 2007
- Kamei K, Nakanishi K, Ito S, et al; Japanese Pediatric IgA Nephropathy Treatment Study Group. Long-term results of a randomized controlled trial in childhood IgA nephropathy. Clin J Am Soc Nephrol 6:1301-7, 2011
- 日本腎臓学会 編.CKD診療ガイドライン2013. 東京医学社, 東京, 2013
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2014年10月1日
- 文責
- :日本小児腎臓病学会
