1. 悪性新生物
  2. 大分類: 中枢神経系腫瘍
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異型奇形腫瘍/ラブドイド腫瘍(非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍)

いけいきけいしゅよう/らぶどいどしゅよう (ひていけいきけいしゅようらぶどいどしゅよう)

Atypical teratoid, rhabdoid tumour

告示

番号:49

疾病名:異型奇形腫瘍/ラブドイド腫瘍

概念・定義

非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍(AT/RT)は中枢神経系に発生する極めて悪性度の高い腫瘍である。1987年に中枢神経系の悪性ラブドイド腫瘍として初めて報告され、1993年に疾患概念が確立、2000年から正式にWHO分類に取り入れられた新しい腫瘍である。WHO分類ではGrade IVの胎児性腫瘍に分類されており、従来は髄芽腫や上衣腫、脈絡叢癌などとして診断・治療されていたと考えられる。免疫組織染色で腫瘍細胞がINI-1陰性となるのが特徴である。

疫学

症は小児脳腫瘍の5%未満を占めるまれな脳腫瘍と考えられていたが、診断率の向上により近年の海外の疫学調査の結果では6~10%を占めると報告されている。約70%は3歳未満の年少児に発症し、特に2歳未満の小児悪性脳腫瘍の中では最も頻度が高い[1]。新生児期の発症もまれではない。国内での正確な疫学情報はないが、海外と同程度の発症率が推測されている。

病因

AT/RTの分子遺伝学的特徴として22q11.2上に存在するINI-1 (hSNF5SMARCB1)遺伝子の両アレルでの不活化(欠失または変異)をほぼ全例で認める。INI-1はATP依存性SWI-SNF chromatin remodeling complexの構成因子であり、細胞の増殖や分化に関与する種々の遺伝子の発現を制御し癌抑制遺伝子として働く[2]。INI-1の不活化は中枢神経系以外の悪性ラブドイド腫瘍でも報告されており、体細胞突然変異の症例では中枢神経系以外の悪性ラブドイド腫瘍の合併も報告されている。ごく一部の症例ではSWI/SNF chromatin remodeling complexの別の構成因子であるSMARCA4 / BRG1の突然変異が報告されている。

症状

AT/RTは中枢神経系のあらゆる部位に発症するが、約半数は後頭蓋窩に発生する。腫瘍に関連する症状は腫瘍の部位によって異なるが、後頭蓋窩に発生した場合には頭痛、嘔吐、意識障害などの水頭症症状で発症し、時に小脳失調を呈する事もある。大脳や脊髄に発症した場合には発症部位に応じた神経症状が見られる。腫瘍内出血による急激な症状の増悪により発症する症例も少なくない[3]。

診断

AT/RTは出血や嚢胞を合併しやすいという特徴をもつが、MRIを始めとする画像検査で髄芽腫やPNETを十分に鑑別することはできない。初発時から30~40%と高率に髄液播種を認めるため、脊髄のMRIも同時に行うべきである。体細胞突然変異が疑われる症例では中枢神経外の悪性ラブドイド腫瘍のスクリーニングも必要である。確定診断は組織診にて行うが、他の悪性脳腫瘍との鑑別が困難な症例が多いため、本症が疑われる場合には一般的な染色に加えてINI-1の免疫組織染色を初期から行う事が推奨される。

治療

本症の治療法は確立していないが、手術、化学療法、放射線治療などを組み合わせた集学的治療を行うのが一般的である[4], [5]。新生児や早期乳児に好発すること、易出血性であり術後の合併症が起こりやすい事など、腫瘍の進行が極めて早く治療の遅滞により早期に再増悪する事も少なくない事など治療が困難となる要因の多い疾患であるため、集学的治療を行うにおいては治療経験の豊富な施設での治療が望ましい。 以下に集学的治療の各要素について概説する。 手術:全摘出を目指した手術が行われるのが一般的である[6]が、合併症リスクが高い場合には他の治療の開始を遅延させないために生検に留めてもよい。2nd look surgeryに関するエビデンスはない。 化学療法:化学療法の有効性は明らかであるが、有効なレジメンは確立していない。従来は白金製剤やアルキル化剤を中心とした髄芽腫型のレジメンが用いられていたが、近年はアントラサイクリンやエピポドフィロトキシンを含む肉腫型のレジメンの有効性が報告されている[5]。 髄注化学療法:メタ解析で髄液播種を抑制し予後を改善する効果があることが報告されており、本症において極めて重要な治療である。薬剤としてはメソトレキセートを用いるのが一般的である[7]。 放射線治療:有効性を示した報告が多くあり[8]、一般的に腫瘍床に対しては50Gy以上の十分な線量の照射が行われる。適切な照射範囲や照射時期については定まっていないが、年長児においては24~36Gyの全脳全脊髄照射が追加されることが多い。乳幼児に好発するため、晩期障害の軽減のため遅延局所照射や陽子線治療も試みられている。 大量化学療法:有効性に関しては十分に確立しているとは言いがたいが、本症の予後の悪さから広く行われている[9]。有効なレジメンに関するエビデンスはない。

予後

 多くが診断後半年以内に再増悪し、生存期間の中央値は13ヵ月前後と予後は極めて不良である。乳幼児の髄芽腫に準じた治療では2年のEvent free survival(EFS)は14%、2年のOverall survivalは29%と報告されている[10]。しかし、近年は集学的治療の進歩により予後の改善が報告されており、今後治療成績の向上が期待される。

文献

[1] A. Woehrer, I. Slavc, T. Waldhoer, H. Heinzl, N. Zielonke, T. Czech, M. Benesch, J. a Hainfellner, and C. Haberler, “Incidence of atypical teratoid/rhabdoid tumors in children: a population-based study by the Austrian Brain Tumor Registry, 1996-2006.,” Cancer, vol. 116, no. 24, pp. 5725–32, Dec. 2010. [2] J. A. Biegel, G. Kalpana, E. S. Knudsen, R. J. Packer, C. W. M. Roberts, C. J. Thiele, B. Weissman, and M. Smith, “The role of INI1 and the SWI/SNF complex in the development of rhabdoid tumors: meeting summary from the workshop on childhood atypical teratoid/rhabdoid tumors.,” Cancer Res., vol. 62, no. 1, pp. 323–8, Jan. 2002. [3] R. J. Packer, J. A. Biegel, S. Blaney, J. Finlay, J. R. Geyer, R. Heideman, J. Hilden, A. J. Janss, L. Kun, G. Vezina, L. B. Rorke, and M. Smith, “Atypical teratoid/rhabdoid tumor of the central nervous system: report on workshop.,” J. Pediatr. Hematol. Oncol., vol. 24, no. 5, pp. 337–42. [4] T. M. Tekautz, C. E. Fuller, S. Blaney, M. Fouladi, A. Broniscer, T. E. Merchant, M. Krasin, J. Dalton, G. Hale, L. E. Kun, D. Wallace, R. J. Gilbertson, and A. Gajjar, “Atypical teratoid/rhabdoid tumors (ATRT): improved survival in children 3 years of age and older with radiation therapy and high-dose alkylator-based chemotherapy.,” J. Clin. Oncol., vol. 23, no. 7, pp. 1491–9, Mar. 2005. [5] S. N. Chi, M. A. Zimmerman, X. Yao, K. J. Cohen, P. Burger, J. a Biegel, L. B. Rorke-Adams, M. J. Fisher, A. Janss, C. Mazewski, S. Goldman, P. E. Manley, D. C. Bowers, A. Bendel, J. Rubin, C. D. Turner, K. J. Marcus, L. Goumnerova, N. J. Ullrich, and M. W. Kieran, “Intensive multimodality treatment for children with newly diagnosed CNS atypical teratoid rhabdoid tumor.,” J. Clin. Oncol., vol. 27, no. 3, pp. 385–9, Jan. 2009. [6] J. M. Hilden, S. Meerbaum, P. Burger, J. Finlay, A. Janss, B. W. Scheithauer, A. W. Walter, L. B. Rorke, and J. a Biegel, “Central nervous system atypical teratoid/rhabdoid tumor: results of therapy in children enrolled in a registry.,” J. Clin. Oncol., vol. 22, no. 14, pp. 2877–84, Jul. 2004. [7] U. H. Athale, J. Duckworth, I. Odame, and R. Barr, “Childhood atypical teratoid rhabdoid tumor of the central nervous system: a meta-analysis of observational studies.,” J. Pediatr. Hematol. Oncol., vol. 31, no. 9, pp. 651–63, Sep. 2009. [8] D. L. Buscariollo, H. S. Park, K. B. Roberts, and J. B. Yu, “Survival outcomes in atypical teratoid rhabdoid tumor for patients undergoing radiotherapy in a Surveillance, Epidemiology, and End Results analysis.,” Cancer, vol. 118, no. 17, pp. 4212–9, Sep. 2012. [9] L. Lafay-Cousin, C. Hawkins, A. S. Carret, D. Johnston, S. Zelcer, B. Wilson, N. Jabado, K. Scheinemann, D. Eisenstat, C. Fryer, A. Fleming, C. Mpofu, V. Larouche, D. Strother, E. Bouffet, and A. Huang, “Central nervous system atypical teratoid rhabdoid tumours: the Canadian Paediatric Brain Tumour Consortium experience.,” Eur. J. Cancer, vol. 48, no. 3, pp. 353–9, Feb. 2012. [10] J. R. Geyer, R. Sposto, M. Jennings, J. M. Boyett, R. a Axtell, D. Breiger, E. Broxson, B. Donahue, J. L. Finlay, J. W. Goldwein, L. a Heier, D. Johnson, C. Mazewski, D. C. Miller, R. Packer, D. Puccetti, J. Radcliffe, M. L. Tao, and T. Shiminski-Maher, “Multiagent chemotherapy and deferred radiotherapy in infants with malignant brain tumors: a report from the Children’s Cancer Group.,” J. Clin. Oncol., vol. 23, no. 30, pp. 7621–31, Oct. 2005.
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児血液・がん学会、日本小児神経外科学会