定義
脈絡叢上皮に類似した細胞が乳頭状構造を作る脳室内腫瘍である。脈絡叢乳頭腫は生物学的に良性でWHO グレードIである。異型脈絡叢乳頭腫は核分裂活性が亢進した脈絡叢腫瘍でありWHOグレードIIで、脈絡叢癌は明らかな退形成所見を示す脈絡叢腫瘍でWHOグレードIIIと悪性度が増す。
疫学
日本脳神経外科学会による日本脳腫瘍統計で年齢別の発生頻度を見ると、脈絡叢乳頭腫は1歳までに20.5%が発生し、乳児期に多い腫瘍である。1歳から5歳までは15.1%、5歳から15歳は9.4%、15歳から29歳までは15.8%が発生する。異型脈絡叢乳頭腫は脈絡叢乳頭腫とほぼ同数発生するが、脈絡叢癌はこれらの約1/5と少なく、両者の発生時期は同様に年少児期に発生しやすい。
症状
脳室内に発生して水頭症をきたしやすく、1歳までの乳児期に発生すれば、頭蓋内圧亢進の症状として、頭囲の異常増大、繰り返す嘔吐、活動性の低下などがあり、年長児では頭痛などを訴える。脳の局所症状を呈することは少ない。
診断
側脳室、第三脳室は小児例(平均1.5歳)が多く、第4脳室は年長者(平均22.5歳)に多い。脳室内に多房性もしくはカリフラワー状の腫瘍陰影を認め、強く造影効果を受け、一部石灰化を伴う。水頭症を伴うことが非常に多い。脈絡膜動脈が栄養血管になるので、大きな腫瘍では脈絡膜動脈の拡張を認めることが多い。摘出した標本の病理組織学的検査で確定診断する。
治療、予後
脈絡叢乳頭腫、異型脈絡叢乳頭腫、脈絡叢癌ではいずれも腫瘍の摘出が第一選択である。全摘出後に水頭症が残存すれば髄液シャントが必要となる。脈絡叢乳頭腫は脳室内に孤立性に発生するので全摘出率は91%と高く、全摘出後の10年生存率は85%で、亜全摘出、部分摘出に留まった例では56%に低下する。異型脈絡叢乳頭腫、脈絡叢癌では全摘出できても術後の化学療法が薦められ、化学療法無効例や3歳以上であれば、放射線治療の併用を薦める考えがある。脈絡叢癌では易出血性なために全摘出率は50%と低い。また、脈絡叢癌は広範な局所浸潤、脳内あるいは髄腔内播種あるいは他臓器転移が認められる例があり、全摘出できても5年生存率は58.1%である。脈絡叢癌に対する放射線治療の有効性が示唆されているが、2歳までの年少児の例には放射線障害を考慮し、放射線治療を行うよりは化学療法を優先して行うことが多い。非全摘出例の2年生存率は、放射線治療のみで31.8%、化学療法のみで44.5%で、化学療法と放射線治療を併用して63.0%とする報告がある。
文献
1)Committee of brain tumor registry of Japan(日本脳神経外科学会による日本脳腫瘍統計): Report of brain tumor registry of Japan (1969-1996) 11th edition, Neurologia medico-chirurgia: 43 (Supplement), 2003.
2)太田富雄 総編集、川原信隆、西川 亮、野崎和彦、吉峰俊樹 編集:脳神経外科学 改訂11版、金芳堂、京都、2012.
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2014年10月1日
- 文責
- :日本小児血液・がん学会、日本小児神経外科学会