1. 悪性新生物
  2. 大分類: 中枢神経系腫瘍
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毛様細胞性星細胞腫

もうようさいぼうせいせいさいぼうしゅ

Pilocytic astrocytoma

告示

番号:68

疾病名:毛様細胞性星細胞腫

概念

神経膠腫(グリオーマ)は脳・脊髄の神経膠(グリア)細胞から発生し、WHOの脳腫瘍分類で低悪性度(悪性度Ⅰ・Ⅱ)と高悪性度(悪性度Ⅲ・Ⅳ)に分けられる。グリア細胞のうち星細胞から発生するグリオーマが星細胞腫であり、毛様細胞性星細胞腫はそのうち最も悪性度は低く、WHO分類グレードⅠに相当する。比較的境界明瞭で、増大は緩徐、しばしば嚢胞を伴って、小児や若年成人に発生する。腫瘍細胞は卵円形の核を有して長く伸び、毛に似た外観を呈する。

疫学

全グリオーマの5-6%を占め、年間10万人あたり0.37人の発症とされる。小児におけるグリオーマでは最も多く、3分の2が小脳に発生する。男女差ははっきりしないが、20歳以下に発生する例が多い。全中枢神経腫瘍中、0-14歳では約21%、15-19歳では約16%を占めるとされる。

病因

グリオーマの大半は病因不明であるが、電離放射線への曝露(主に放射線治療)により発症率が増加することは明らかになっている。また、神経線維腫症Ⅰ型患者に毛様細胞性星細胞腫が発生しやすいことが知られている。

発生部位

視神経、視神経交叉、視床下部、視床、大脳基底核、大脳半球、小脳(小脳星細胞腫)、脳幹、脊髄に生じうるが、小脳での発生が最多である。テント上で最も多いのは、視床下部・視神経路で、視床・大脳基底核がそれに続く。脊髄での発生は多くはないが、脊髄腫瘍の約11%を占める。視神経路や視床下部に発生する低悪性度グリオーマはその臨床的特徴から視神経膠腫として区別して論じられることがあるが、その多くは毛様細胞性星細胞腫である。 腫瘍は境界が明瞭で、周囲の脳組織には浸潤しない傾向にあるが、視神経膠腫は例外で、視神経路に留まらず、前頭葉、視床下部、視床などに広範に浸潤し、後頭葉の視覚野まで広がることもある。小脳に発生した場合、小脳脚を経て脳幹へ進展することがある。

症状

頭蓋内圧亢進などによる非特異的症状として、頭痛、嘔気・嘔吐、発達遅延、行動変容などが生じる。行動変容としては、性格の変化、怒りっぽくなる、精神運動機能の変化、無感情、学校成績の低下などを含み、腫瘍の緩徐な増大と関連して、診断の何年も前から生じることもある。乳児においては、頭蓋縫合線の開大や緩徐な頭囲拡大を生じ、頭蓋内圧亢進症状を示さないことがある。腫瘍が存在する部位の巣症状としては、麻痺、感覚障害、発語障害、短期記憶障害、てんかんなどを生じる。出血を生じることは少ない。小脳に発生した場合、小脳失調のほかに、中脳水道や第4脳室を閉塞して水頭症を生じることがある。視神経膠腫では、視覚障害、視神経萎縮、眼球突出を生じるが、乳幼児では斜視、眼球突出、眼振、発達の遅れが主訴となることが多い。視床下部病変があると思春期早発を含めた内分泌障害や間脳症候群を生じ、第3脳室まで進展すると水頭症を生じる。視床を浸潤すると、反対側の片麻痺を生じうる。脳幹部病変では、水頭症や脳幹機能障害を来たす。

診断

1) 画像 嚢胞形成が毛様細胞性星細胞腫の特徴で、小脳、脊髄、大脳半球での発生例でよくみられるが、その形態は充実性であったり、壁に結節を伴っていたり、多発性であったり、小さく腫瘍内にあったりする。小脳に発生する毛様細胞性星細胞腫は、典型的には壁在結節を伴った大きな嚢胞として認める。嚢胞は、CTでは脳実質と比べて低吸収だが、蛋白の含有が多いことを反映して、髄液と比べて高吸収となる一方、MRIでは脳実質よりT1強調像で低強調、T2強調像で高強調となる。壁在結節は、脳実質と比してCTで低または等吸収で、MRIのT1強調像で高強調となる。また、結節はCTにおいてもMRIにおいても均一に造影されるが、嚢胞は造影されない。嚢胞壁は造影されることがある。テント上の毛様細胞性星細胞腫はMRIのT2強調像で境界明瞭で、ガドリニウムで造影され、嚢胞を伴うこともある。視神経膠腫はMRI画像で通常明瞭に描出される。神経線維腫症Ⅰ型を伴う患者では、視神経路の病変に加え、しばしばT2強調画像で非特異的な白質異常がみられる。神経線維腫症Ⅰ型を伴わない患者では、病変は局在する傾向がある。しばしば嚢胞を伴うが、腫瘍そのものはガドリニウムで均一に造影される。FLAIRシーケンスでは腫瘍の浸潤成分が視神経領域に広がっているのがわかる。 2) 病理 切除または生検組織にて病理診断される。視神経膠腫では、神経線維腫症Ⅰ型の有無にかかわらず、MRI画像所見が典型的であれば生検は必要ではない。神経線維腫症Ⅰ型を伴わずMRI画像所見が典型的でないものでは、生検が必要となることがある。

治療

一次治療は外科的切除である。腫瘍の切除が不十分な患者に対する治療選択肢としては経過観察、放射線治療、再切除、化学療法があり、個々の患者ごとに決定されるが、化学療法としてはcarboplatinとvincristineの併用療法などが有効とされる。認知能を最大限発達させるために、低年齢患者の放射線治療は可能な限り遅らせる必要がある。 視神経膠腫は周囲への浸潤を伴うことが多いので、広範に切除することは難しいことが多い。全摘出術が適応となるのは、片側の視神経だけの病変で外観上問題のある進行性眼球突出あるいは視力消失がある場合、または有意なmass effectや水頭症がある場合である。また、時に部分切除で神経症状を伴うmass effectがなくなる場合や追加治療を遅らせることができる場合がある。神経線維腫症Ⅰ型患者においては、視神経路に広範な病変があっても長期間視力が保たれることがあるので、外科手術を行う前に鑑別することは必須である。放射線治療を行う場合は、三次元原体照射、強度変調放射線治療が望ましいが、視神経・視床下部原発の場合は、放射線治療により、重大な知的および内分泌系障害および脳血管障害を来すことがある。また、部位によらず、腫瘍の悪性転化のリスクも増大する可能性がある。化学療法としては他の低悪性度グリオーマと同様のレジメンが有効とされる。

予後

全切除された場合の予後は極めて良好で、5年あるいは10年の無増悪生存が80-100%と報告され、長期に観察された例では30年間の無増悪も珍しくない。化学療法や放射線治療を行ったものも含む低悪性度グリオーマ全体での3年無増悪生存率は61-75%、10年生存率は70-90%と報告され、毛様細胞性星細胞腫でも同程度とされている。視神経膠腫では、腫瘍が全摘された患者の予後は15年全生存が90%以上と良好で、化学療法や放射線治療を行った患者でも5年全生存が約90%であるが、3歳以下の患者は予後が悪い傾向がある。

参考文献

1. Scheithauer BW, Hawkins C, Tihan T, VandenBerg SR, Burger PC: Pilocytic astrocytoma. WHO Classification of Tumours of the Central Nervous System, Louis DN, Ohgaki H, Wiestler OD, Cavenee WK (eds). Renouf Publishing, Ottawa, 2007, pp14-21. 2. Gan G, Haas-Kogan D: Low-Grade Gliomas. Pediatric CNS Tumors, Gupta N, Banerjee A, Haas-Kogan D (eds) 2nd Edition. Springer-Verlag, Berlin, 2010, pp. 1-35. 3. Blaney SM, Haas-Kogan D, Poussaint TY, Santi M, Gilbertson R, Parsons DW, Pollack I: Glomas, ependymomas, and other nonembryonal tumors of the central nervous system. Principles and Practice of Pediatric Oncology, Pizzo PA, Poplack DG (eds) 6th Edition. Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2011, pp740-748.
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児血液・がん学会、日本小児神経外科学会

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