概念・定義
甲状腺部に発生する上皮性悪性腫瘍で、様々な組織型を含んでいる。
疫学
全悪性腫瘍の1.3%を占めるとされ、男女比は1:3である。また、小児がん学会全数把握事業の集計結果によると、2009年では全小児がん2095例中3例、2010年では2065例中3例、2011年では1802例中6例と極めて稀である。
病因
19歳以下の大量放射線被曝は明らかな危険因子とされる。また、髄様癌のうち約40%が多発内分泌腫瘍症2型に属し、それらは遺伝により発生する。また、髄様癌以外の甲状腺癌では約5%が遺伝性と考えられており、家族性甲状腺癌と呼ばれている。
症状
多くは甲状腺部の結節として認められる。進行例では、嗄声や嚥下障害、嚥下困難、呼吸困難、咳嗽などで気付かれることもある。しかし、多くは無症状で、画像検査などで偶然見つかる場合や解剖時に発見されることもある。
診断
外科的に切除された検体に対する病理診断に基く。
組織型としては、主として乳頭癌、濾胞癌、低分化癌、未分化癌、髄様癌が上げられる。その他と組織型としては、硝子化索状腫瘍、円柱上皮癌、粘液癌、粘表皮癌、扁平上皮癌がある。
治療
甲状腺癌はその組織型によって、方針が異なる。
乳頭癌や濾胞癌などの分化癌では、まず外科的切除を施行する。遠隔転移やリンパ節転移、広汎浸潤を伴う場合うには、追加治療として、アブレーション(放射性ヨード内服による残存甲状腺組織除去)を行う。また、TSH抑制療法を併用することも考慮される。
髄様癌では、外科的切除+廓清を施行する。遺伝性でない場合には片葉切除も考慮される。
未分化癌では、診断時に進行性であることが多いため、外科的切除が難しいことが多い。しかし、腫瘍が限局性の場合には外科的切除が予後改善の最もよい治療法となる。浸潤例で、減量手術や拡大手術が予後の改善につながる根拠はない。また、放射線療法は有効性を示唆する報告が多い。化学療法については、ドキソルビシンの使用例が多く報告されているが、奏効率が低く、現状では有効な薬剤はない。近年、パクリタキセルの有効性についての報告が散見される。
低分化癌については、現時点での治療エビデンスが十分でない。
予後
小児の乳頭癌は診断時に進行した状態にあることが多く、再発も多いが、生命予後は成人と比較すると良好であり、死亡率は低いと報告されている。濾胞癌の報告は極めて少なく、長期予後は良好とする報告がある。
尚、2003年における甲状腺癌の粗罹患率は人口10万人当たり男性3.25、女性9.26で、2007年における粗死亡率は人口10万人当たり男性0.84、女性1.61である。
参考文献
甲状腺癌取扱い規約 (第6版) 金原出版 2005年
日本癌治療学会. がん診療ガイドライン
http://www.jsco-cpg.jp/item/20/index.html
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2014年10月1日
- 文責
- :日本小児血液・がん学会