概念・定義
副腎皮質に発生する稀な悪性腫瘍である。
疫学
100万人に0.5-2人の罹患率で全腫瘍の0.02%を占めると言われている。小児がん学会全数把握事業の集計結果によると、2009年では全小児がん2095例中5例、2010年では2065例中3例、2011年では1802例中4例と極めて稀である。
症状
約70%の症例で何らかの副腎皮質機能異常を認めるが、特異的な副腎皮質ホルモンが合成されるわけではない。一つの腫瘍細胞でコルチゾール産生に必要な全てのステロイド合成酵素が発現しておらず、生物学的活性の低い前駆体ステロイドホルモンが血中に多く認められる。その中でも尿中17-ケトステロイド(17-KS)の増加を伴う症例が多い。また、腺腫では男性化腫瘍を含めてあまり発現することのないDHEA-STの血中増加を伴うことが多い。さらには、腺腫と比較して、複数のホルモン過剰症状を認める(Cushing症候群+男性化やCushing症候群+女性化など)。
診断
確定診断のためには全摘出された腫瘍の詳細な病理学的検討が必要となる。腫瘍内の組織学的heterogeneityが著明なため、穿刺吸引細胞診や生検、術中迅速では確定診断に至らない。通常、腺腫との鑑別にはWeissのcriteriaを用いる。①核異型度、②核分裂像の亢進(50高倍視野で6個以上)、③異型核分裂像、④好酸性細胞質(好酸性の緻密な細胞質を有する腫瘍細胞が全体の75%以上)、⑤腫瘍の構築が正常副腎に類似するような索状の構造を呈していない(無構造の腫瘍細胞増殖が全体の1/3以上)、⑥凝固壊死、⑦被膜浸潤、⑧sinusoid(毛細血管)への浸潤、⑨静脈浸潤。以上9項目中3項目以上であてはまるものがあれば副腎皮質癌と診断される。また、Ki-67標識率が腺腫では通常2%以下であり、それ以上の場合には注意が必要である。尚、小児例ではWeissのcriteriaによる診断が当てはまらない場合もあり、診断基準に関しては臨床所見を含めて総合的に判断する必要がある。
治療
外科的切除が第一選択になる。根治術が不可能な場合には、mitotane(o,p'-DDD)単独、あるいは、etoposide、cisplatin、doxorubicin併用による治療が試みられているが、その効果については意見が分かれるところである。
予後
5年生存率は16-35%とされているが、不完全切除例では0-9%と極めて予後不良である。
参考文献
泌尿器科・病理 副腎腫瘍取扱い規約 (改訂第2版) 金原出版 2005年
外科病理学(第4版) 向井清、真鍋俊明、深山正久 編集 文光堂 2006年
飯原雅季, 小原孝男. 比較的まれな腫瘍の診断と治療II. 癌と化学療法. 31(3): 342-345, 2004
前田重孝, 柚須恒, 他. 副腎癌術後再発に対するmitotan (o,p’-DDD)単独投与が著明な腫瘍縮小効果を得た1例. 日本化学療法学会雑誌. 50(3): 186-189, 2002
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2014年10月1日
- 文責
- :日本小児血液・がん学会