疾患概念
原始胚細胞(原始生殖細胞, primordial germ cell)が胎生期に出現し、成熟した胚細胞(配偶子)になるまでの時期に発生した腫瘍の総称で、多くの種類の腫瘍を含み、胚細胞腫瘍群と称されるべきものである。性腺以外からも発生し、仙尾部、縦隔、後腹膜、頭蓋内からの発生頻度が高い。性腺以外から発生した腫瘍は迷入遺残した原始胚細胞が母地であると理解されている。また原始胚細胞が成熟した配偶子へ発達するには生殖隆起由来の間質系細胞(sex cord/stromal cells)が必須とされている。
組織学的分類は以下のようになっている。未分化胚細胞腫/胚細胞腫/セミノーマの一群は病理学的には同じであるが発生部位により診断名が異なる。その他、胎児性癌、多胎芽癌、卵黄嚢腫瘍、絨毛癌、奇形腫(成熟型、未熟型)らが単一組織型であり、それらが2種類以上の組み合わせからなる複合組織型を混合性胚細胞腫瘍と称する。胚細胞関連腫瘍としては性索間質性腫瘍(顆粒膜細胞腫、莢膜細胞腫、ライディク細胞腫、セルトリ細胞腫、混合型または分類不能型)がある。
良性の成熟型奇形腫や一部の性索間質性腫瘍から、未熟成分の多少や発症年齢により悪性度の異なる未熟奇形腫や、悪性の腫瘍まで組織型によりさまざまな生物学的特徴を示す。
疫学
本腫瘍群は新生児期から成人に至るまで幅広く発生する。中でも新生児・小児期の本腫瘍は生殖器のみならず、ほぼ全身から発生し、発生部位により腫瘍の種類、生物学的特徴が異なる。我が国での発生頻度を示すデータとしては小児がん学会全数把握事業による2011年登録数では全小児がん1,802例中、中枢神経外胚細胞腫瘍(成熟奇形腫、未熟奇形腫を含める)の登録数は118例(6.5%)となっている。米国の統計では小児がんの3%と報告されている。15歳以上の若年成人に発生のピークがあり、小児発生例は稀である。
症状
発生部位に応じた症状を呈するが、多くは腫瘤触知やその圧迫症状、また腫瘍破裂による症状などである。即ち腹部腫瘤や膨隆、精巣腫大、仙尾部腫瘤、腹痛、疝痛などが多く、縦隔腫瘍の場合には胸痛、気道圧迫症状などを呈することがある。また卵巣腫瘍の場合には茎捻転による症状もある。性索間質性腫瘍ではエストロゲン、あるいはアンドロゲン活性などによる思春期早発症の症状を呈する。
診断方法
胚細胞腫瘍は仙尾部、後腹膜、性腺、縦隔の正中部位に発生することが特徴である。組織学的に分類される多くの種類の腫瘍を含むため、診断には最終的に病理診断が必要である。血清学的には特異的に腫瘍マーカーの上昇を認めるものがあり、卵黄嚢腫瘍ではαフェトプロテイン(AFP)が、また絨毛癌や胎児性癌ではβhCGの上昇が認められることが診断根拠のひとつとなる。また性索間質性腫瘍ではエストロゲン、アンドロゲン活性の上昇を示す組織型がある。画像診断では胸腹部単純X線写真、超音波検査、CT、MRIなどが診断に用いられる。
治療
発生部位、年齢、組織型が多岐にわたるため、これらを考慮した治療法を選択しなければならない。さらに進行度やリスク分類に応じて行うべき外科的治療や化学療法のあり方が異なる。
若年成人例の方が、小児例と比較すると予後が不良であるため、前者では成人の治療ガイドラインに準拠して治療を行う。小児例においては米国のChildren’s Oncology Group(COG)が提唱している予後分類に基づいた治療を行うことが推奨されている。
病期に関しては卵巣を除く胚細胞腫瘍ではBrodeurらの提唱している病期I~IVの分類が汎用されており、また卵巣胚細胞腫瘍には国際参加婦人科連合(FIGO)分類が最もよく用いられる。これらの病期をもとにCOGではリスク分類をしており、病期Iの性腺腫瘍は低リスク、病期II、IIIの性腺腫瘍、病期IVの精巣腫瘍、病期I、IIの性腺外腫瘍は中間リスク、病期IVの卵巣腫瘍と病期III、IVの性腺外腫瘍は高リスクと分類する。
病期Iの精巣胚細胞腫瘍のみが高位除睾術のみで化学療法、放射線療法とも行わず、術後は慎重に経過観察するのが一般的である。卵巣原発や性腺外の腫瘍や病期II以上の症例に対しては一期的切除が可能であれば行い、術後化学療法を行う。一期的切除が困難であれば生検にとどめ、術前化学療法を行い、腫瘍の縮小が得られたあとに残存腫瘍を摘出する。仙尾部の胚細胞腫瘍では尾骨の切除は必須である。化学療法としてはシスプラチン、エトポシド、ブレオマイシンの3剤によるPEB療法やカルボプラチン、エトポシド、ブレオマイシンの3剤によるJEB療法などが推奨されている。
造血幹細胞移植を併用する大量化学療法は難治例に対しての有効性を期待されるが、その位置づけや標準的使用方法については今後も検討を有する。
また胚細胞腫瘍は放射線治療に対して感受性が高いが、合併症をもたらしうること、化学療法の有効性が高いことから標準治療には組み入れられていない。
予後
予後は総じて良好であり、残存腫瘍が全摘出できた場合の5年生存率は縦隔発生例を除けば90%を超える。多くの場合診断時の腫瘍は巨大であるが、化学療法によく反応して縮小し、全摘出が可能となる。部位別では性腺発生例が最も予後良好である。また若年成人例の方が小児例と比較すると予後が不良である。高リスクのうち12歳以上の縦隔腫瘍は予後が不良である。仙尾部奇形腫では排尿、排便など機能的予後に問題を残す場合がある。
参考文献
1. 日本病理学会小児腫瘍組織分類委員会編. 小児腫瘍分類図譜第5篇 小児胚細胞腫瘍群腫瘍, 第1版, 東京, 金原出版, 1999
2. Miller RW, young JL Jr, Novakovic B. Childhood cancer. Cancer 75(1 Suppl): 395-405, 1995
3. Brodeur GM, Howarth CB, Pratt CB, et al. Malignant germ cell tumors in 57 children and adolescents. Cancer 48: 1890-1898, 1981
4. Cannistra SA. Cancer of the ovary. N Engl J Med 329: 1550-1559, 1993
5. Marina N, London WB, Frazier AL, et al. Prognostic factors in children with extragonadal malignant germ cell tumors: a pediatric intergroup study. J Clin Oncol 24: 2544-2548, 2006
6. 小児がん学会全数把握事業・小児血液学会血液疾患疫学調査研究
2009年から2011年診断例の2012年度集計
日本小児血液・がん学会雑誌 50(3): 462-478, 2013
7. 小児がん診療ガイドライン 2011年版 pp139-159
日本小児がん学会編 東京, 金原出版, 2011
8. 小児がんの診断と治療 pp315-324
東京, 診断と治療社, 2007
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2014年10月1日
- 文責
- :日本小児血液・がん学会