概念・定義
骨肉腫(osteosarcoma)は,組織学的に腫瘍性の類骨・骨を形成する悪性腫瘍と定義される.通常型骨肉腫が最も一般的であるが,頻度の低い亜型として血管拡張型骨肉腫,小細胞型骨肉腫,低悪性度中心性骨肉腫,放射線照射後やPaget病に続発する二次性骨肉腫がある.通常型骨肉腫は組織学的にosteoblastic type,chondroblastic type,fibroblastic typeに分類される.
疫学
本邦における骨肉腫の発生頻度は人口100万人あたり1~1.5人程度である.原発性悪性骨腫瘍の中で最も発生頻度が高く,平成22年度の全国骨腫瘍登録一覧表では登録数は168例である.これは原発性悪性骨腫瘍全体の32%を占める.
骨肉腫の罹患は10~20歳代で多く(60%),若年者に好発するが,40歳以上も30%を占める.40歳以上での発症例の中には小児期における放射線治療やPaget病による二次性骨肉腫と考えられるものもある.男女比は1.5 : 1とやや男性に多い.
好発部位は長管骨の骨幹端であり,大腿骨遠位,脛骨近位,上腕骨近位の順に多い.脊椎や骨盤に発生することもあるが,その場合は中高年者に発症することが多い.
病因
病因は不明であり,具体的な原因遺伝子も特定されていない.近年,Rb遺伝子やp53遺伝子を含む染色体上にヘテロ接合性の消失(loss of heterozygosity)が認められることが明らかになっている.また,網膜芽細胞腫の二次癌の多くが骨肉腫であることや家族性にがんを多発する遺伝症候群であるLi-Fraumeni症候群で骨肉腫を高率に発症することが知られている.
症状
数ヶ月から半年間持続する局所の疼痛や腫脹で発症する.好発部位は大腿骨遠位,脛骨近位,上腕骨近位であり,典型的には膝や肩周囲の疼痛や腫脹を主訴に受診に至ることが多い.頻度は低いが,病的骨折で発症することもある.診断時に10~20%の症例で肺転移を有するが,病変としては小さいものが多く,無症状であることが多い.
血液検査ではしばしばアルカリフォスファターゼ(ALP)の上昇を認める.ALPは術前化学療法に対する反応や治療終了後の経過観察における再発や転移の指標としても用いられる.
治療
現在の骨肉腫に対する標準治療は手術による局所制御と術前・術後化学療法による微小転移の制御を組み合わせた集学的治療である.
骨肉腫に対する手術は広範切除術が行われ,化学療法と組み合わせることにより切断とほぼ同等の局所根治性が得られる.
1970年以前は骨肉腫に対する治療は患肢切断による手術療法のみが行われていたが,手術により完全に局所制御が行われているにも関わらず,多くの患者は術後1年以内に肺転移を来し,5年生存率は5~10%と極めて不良であった.1970年代になると再発・進行例の骨肉腫に対する化学療法の有効性が次々と報告され,初回治療の骨肉腫に対しても手術と化学療法を組み合わせた治療が行われるようになった.さらに1980年代になると患肢温存手術が普及し,そのためのカスタムメイド人工関節作成に時間がかかったことから,術前化学療法が導入された.Rosenらは,四肢発生骨肉腫に対して術前化学療法を行い,切除標本の壊死率により術前化学療法の効果判定を行い,その結果に基づいて術後化学療法を変更するT-10プロトコールを発表した.また,この時期には術後補助化学療法に関するランダム化比較試験も行われ,骨肉腫に対する術後化学療法の有効性が確認された.その後,モジュラー型人工関節の開発により,手術までの期間が短縮され,術前化学療法の是非が議論されるに至った.術前化学療法の有用性を検証した第III相臨床試験POG-8651では5年無増悪生存率は術後化学療法のみの群が69%,術前化学療法を行った群が61%と有意差は認めなかった.現在に至るまで術前化学療法が予後を改善する明確な根拠はないが,術前化学療法を行うことで縮小手術が行える可能性があること,POG-8651以降の臨床試験がすべて術前化学療法を用いていることから,術前化学療法は骨肉腫における標準治療として広く認識されるようになった.
骨肉腫に対するキードラッグはメトトレキサート大量療法(HD-MTX),ドキソルビシン(DOX),シスプラチン(CDDP)と考えられている(MAP療法).米国における臨床試験であるCOG-133や2005年より開始されている,欧米の国際共同研究The European and American Osteosarcoma Study Group I Trial(EURAMOS I)でも標準治療群の術前・術後化学療法はMAP療法である.さらなる治療成績向上を目指して各国で臨床試験が行われている.
本邦でも骨肉腫に対する標準治療確立のため,共通のプロトコールによる多施設共同研究が実施されてきた.1990年代には骨肉腫に対する化学療法の多施設共同研究NECO-93J,95J(Neoadjuvant Chemotherapy for Osteosarcoma 93, 95 Japan)が実施され,5年累積生存率83%,5年無病生存率76%と良好な成績が得られている.同研究ではMAP療法による術前化学療法の効果が不十分な症例に対し,術後にイホスファミド(IFO)を加えた化学療法を行うことにより,予後が改善する可能性が示唆された.
術前化学療法導入後,切除検体の病理組織学的な効果が確認できることになり,効果の高い患者(good responder)は低い患者(standard responderまたはpoor responder)よりも予後が良好であることが示されている.good responderは比較的予後がよいことから,現在はstandard responderの治療成績をいかにしてあげるかが課題となっている.そこで,standard responderにおいて術後化学療法におけるIFOの有用性を検証するために,本邦では第III相ランダム化比較試験(JCOG0905)が2010年より開始されており,現在進行中である.この試験は転移のない切除可能な高悪性度骨肉腫に術前化学療法としてMAP療法を行い,standard responderに対する術後化学療法としてIFOの併用が非併用に対して優れているかをランダム比較により評価するものである.
予後
前述のごとく,化学療法の導入により,初診時に遠隔転移のない症例の治療成績は飛躍的に改善したが,初診時に遠隔転移のある症例や治療後に再発・転移を来した症例は依然として予後不良である.
初診時に遠隔転移を有する症例では化学療法と手術により長期生存が得られる可能性は20%程度である.転移病変が完全に外科的切除可能である場合の10年生存率は40%と報告されており,転移病変の切除可能例に対しては,積極的な外科的治療を考慮すべきである.
治療終了後の転移・再発例に化学療法や外科的切除を行った場合の5年生存率は20%程度である.現在では再発例にはIFO,VP-16が主に用いられており,奏効率は15%との報告がある.
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2014年10月1日
- 文責
- :日本小児血液・がん学会