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ランゲルハンス(Langerhans)細胞組織球症

らんげるはんすさいぼうそしききゅうしょう

Langerhans cell histiocytosis

告示

番号:46

疾病名:ランゲルハンス細胞組織球症

疾患概念

組織球症は、樹状細胞またはマクロファージに由来すると細胞増殖を特徴とする稀な疾患である。2016年にHistiocyte Societyから新たな分類が提唱され、1)Langerhans-related (L-Group)、2)Cutaneous and mucocutaneous (C-Group)、3)Malignant histiocytosis (M-Group)、4)Rosai-Dorfman disease、5)Hemophagocytic lymphohistiocytosis (H-Group)の5分類に大別された。L-Groupに含まれるランゲルハンス細胞組織球症(LCH)は組織球症の中で最も頻度が高く、組織球症は1)LCHと2)非ランゲルハンス細胞組織球症(Non-LCH)に大別されることも多い [1]

疫学

15歳未満の小児におけるLCHの年間発生率は100万人あたり約5〜9人、15歳以上の患者では100万人あたり1人程度とされる。家族性LCHの稀な症例が報告されているが、これまでに遺伝的素因は確認されていない。成人の肺LCHは喫煙と強く相関する。日本小児血液・がん学会 疾患登録2019年診断症例集計によれば、組織球症82名のうちLCHは75名であった。

病因

ほとんどの例のLCH細胞にMAPK経路の遺伝子に発がん性変異を認める。約半数の症例にBRAFp.V600E変異が認められる。BRAF変異はMAPK経路を活性化し腫瘍化に関わる。高リスク症例の一部ではCD34陽性骨髄細胞において検出され、LCHが造血前駆細胞に由来することが示唆されている。BRAF下流にあるキナーゼであるMAP2K1の変異は約20%の症例で同定され、BRAFと相互排他的に発生する。ARAFやMAP3K1を含む他のMAPK経路の変異やPIK3CA、PICK1、PICK3R2などの他のシグナル伝達経路に影響を与える変異も少数報告されている。

病理・病態

病変部には未熟樹状細胞の形質を示す腫瘍性のLCH細胞の他に、リンパ球や好酸球など種々の炎症細胞浸潤を認める。LCH細胞は、アポトーシス耐性であり、リンパ節への遊走が障害されており、病変部にとどまり続け、病変部に高度な炎症が生じ、組織破壊につながる。

臨床症状

MS-RO+ (multi system;多臓器型、risk organ;リスク臓器 肝臓・脾臓・骨髄病変あり)、MS-RO- (多臓器型、リスク臓器なし)、SSm (single system multi sites;単一臓器多発型)、SSs (single system single site;単一臓器孤発型)の4病型に分けられる。小児では、骨(80%)、皮膚(33%)、下垂体(25%)、肝臓、脾臓、造血器または肺(各15%)、リンパ節(5%-10%)あるいは中枢神経系(下垂体を除く、2%-4%)の順で侵されやすい。小児のSS型はほとんどが骨病変であるが、成人では肺単独のSS型もある。

検査所見

特異的な腫瘍マーカはない。炎症反応が陽性となることが多い。リスク臓器浸潤陽性多臓器型では可溶性IL-2受容体が高値となる例が多い。

診断

診断は、生検組織の病理診断により行う。パラフィン切片を用いたHE 染色標本ならびに以下に述べる免疫染色標本を用いて行うことを原則とする。場合により凍結切片における免疫染色所見や電子顕微鏡所見を参考にしてもよい。 病理診断はWHO 分類2008 年版に準拠し以下のように定める [2]
(1)
卵円形の細胞で、核のクロマチンは繊細で、核形状がくびれている、溝がある、折り重なっている等の変形を示すランゲルハンス型組織球が証明できること。
(2)
免疫染色により、上記の組織球でCD1a、あるいはLangerin が陽性になること。
(3)
上記(1)に示すランゲルハンス型組織球が証明できるが、CD1a やLangerin (CD207)の染色性が悪い場合は、S100 染色陽性所見を診断根拠として採用する。
(4)
電子顕微鏡観察では、Birbeck 顆粒が陽性になることが知られているため、陽性所見が得られた場合は診断根拠としてもよい。

診断の際の留意点/鑑別診断

L-Groupのうちindeterminate cell histiocytosis (ICH)は非常に稀であるが、LCHと同様の臨床症状を示し、BRAF変異を有する可能性がある。ETV3-NCOA2転座を特異的に有し、CD207陰性である。Rosai-Dorfman病 (RDD)は、S100陽性組織球はしばしば多核であり、明らかなエンペリポレシス(赤血球、形質細胞およびリンパ球が組織球に飲み込まれている)を伴い、CD1aあるいはCD207の発現は認められない。LCHは、RDD、ホジキン病、急性白血病などの他の血液疾患に関連して報告される。病理診断が重要である。

合併症

LCHの診断時、または診断後10年の間に、中枢性尿崩症を合併することが多い。また、下垂体前葉障害から、成長障害、甲状腺機能低下、性腺機能障害をきたすことがある。さらに、LCH診断後15年の間に、中枢神経変性病変(小脳や基底核に病変が現れ、運動失調症が非可逆的に進行)を合併することがある。頭蓋/顔面骨の病変や再発はこれらの合併症のリスク因子である。また、肺線維症や硬化性胆管炎を合併することがある。

治療

病型、症状毎に無治療経過観察~多剤併用化学療法を選択する。

予後

SS型で自然退縮するものから、播種性で時に生命を脅かすものまで幅広い。 MS-RO+型以外は生命予後良好であるが、MS-RO+型で初期の化学療法に不応例の生命予後は極めて不良である。多臓器型は再発率が高く、再発を繰り返す症例においては晩期合併症が問題になる。

予後不良症例の対応

MS-RO+型で初期の化学療法に不応例には、造血細胞移植を考慮する。

最近のトピックス

難治例に対して、BRAF阻害薬やMEK阻害薬が奏功したという報告がある。

患者会

ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)患者会(http://lch-friends.org/)が活動している。

成人期以降の注意点

成人期以降に発症するものは稀であるが、肺LCHは小児期より多い。小児期発症でも中枢神経変性病変を成人になって合併することがあり、長期的なフォローアップが重要である。

参考文献

  1. Emile JF, Abla O, Fraitag S, Horne A, Haroche J, Donadieu J, et al. Revised classification of histiocytoses and neoplasms of the macrophage-dendritic cell lineages. Blood. 2016;127:2672-81.
  2. Jaffe R, Weiss LM, Facchetti F. Tumours derived from Langerhans cells. In: Swerdlow SH, Campo E, Harris NL, Jaffe ES, Pileri SA, Stein H, Thiele J, Vardiman JW, editors. WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues. Lyon: IARC Press; 2008. pp. 358–360.
  3. Rodriguez-Galindo C, Allen CE. Langerhans cell histiocytosis. Blood. 2020; 135: 1319-1331.
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児血液・がん学会