診断方法
A.主要症状・所見
- 意識障害(小児の肝性昏睡分類で示す)(注1)
- 黄疸、褐色尿、結膜黄染、白色便
- 出血傾向(皮膚、口腔、消化管、中枢神経系)
- 肝の経時的萎縮、腹部膨満、乏尿、多呼吸
ただし治療介入によりこれらの症状は軽減または消失することがある。
B.検査所見
- 血液検査
- 凝固機能検査 %プロトロンビン活性値<40%あるいはPT INR>1.5
- 生化学検査・ウイルス検査 AST・ALT値の上昇または枯渇後の低下、血清ビリルビン値上昇、コリンエステラーゼ低下、アルブミン低下、血糖値の異常、アンモニア値の上昇、フェリチン値の上昇、HBV-DNA陽性、IgM-HA抗体陽性、抗核抗体陽性、IgA-HE抗体(定性)陽性、HEV-RNA陽性、EBV-DNA陽性、HSV-DNA陽性
- 画像検査(超音波、CT、MR)以下のいずれかをみる。
- 腹部 肝萎縮または肝腫大、鋸歯状又は逆行する門脈血流、肝実質の不均一、門脈周囲の高エコー(starry sky appearance)または低CT値、肝表面の不整、腹水、胸水。
- 頭部 脳溝・脳室の狭小化、皮髄境界の不明瞭化、動脈血流の低下、脳ヘルニア
- 生理検査
脳波異常
ただし治療介入によりこれらの症状は軽減または消失することがある。
C. 治療介入
- ビタミンK投与
- 血液浄化療法(持続濾過透析、血漿交換を含む)
- 肝臓移植
- 免疫抑制療法
D. 申請対象から除外される告示疾患(注2)
- 先天代謝異常症(注3)
- 新生児ヘモクロマトーシス
- 血球貪食性リンパ組織球症
- ランゲルハンス細胞組織球症
- 進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(注4)
- 告示疾患「肝硬変症」(注5)
- 原発性免疫不全症(注6)
- すでに診断されていた小児慢性特定疾患
E. 診断
- 正常肝ないし肝予備能が正常と考えられる肝に肝障害が生じ,初発症状出現から8 週以内に,高度の肝機能障害に基づいてプロトロンビン時間が40% 以下ないしはINR 値1.5 以上を示す。
- 小児肝性昏睡II度以上を呈する。
- 救命のために c.2または3または4の治療介入を要した。
- プロトロンビン時間が40% 以下ないしはINR 値1.5 以上で,初発症状出現から8 週以降24 週以内に小児肝性昏睡II 度以上の脳症を呈する。
1. と 2. をみたすものを急性肝不全(昏睡型)とする。
1.もしくは2.のいずれかをみたし、かつ、3をみたすものは急性肝不全(昏睡型)と同様に扱う。
4.のみをみたすものを「遅発性肝不全」と診断し,類縁疾患として急性肝不全(昏睡型)と同様に扱う。
- 註1.
- 小児の肝性昏睡分類(1989年第5回小児肝臓ワークショップ)
I度 :声を出して笑わない(乳児)、いつもより元気がない(年長児)
II度:あやしても笑わない(乳児)、母親と視線が合わない(乳児)、傾眠傾向でおとなしい(年長児)、見当識障害がある(年長児)。
III度:大きな声で呼ぶとかろうじて開眼する。
IV度:痛み刺激でも覚醒しないが、顔をしかめたり、払いのけようとする。
V度:痛み刺激にまったく反応しない。 - 註2.
- 治療介入しなければ死亡しうること、除外診断完了までに長時間を要すること、稀少疾患の診断が常時完全に可能とは限らないことを考慮する。
- 註3.
- 先天代謝異常症は以下の頻度が高い。
オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症
カルバミルリン酸合成酵素欠損症
その他の尿素サイクル異常症
シトルリン血症
シトリン欠損症
チロジン血症1-3型
メチルマロン酸血症
プロピオン酸血症
イソ吉草酸血症
先天性胆汁酸代謝異常症
脂肪酸代謝異常症
ミトコンドリア病
ウィルソン病 - 註4.
- 進行性家族性肝内胆汁うっ滞症 type 2 でALF様の病態をとる例が目立つ。
- 註5.
- B型肝炎ウイルス変異株の関与例でALF様のacute-on-chronic liver failureがある。
- 註6.
- IPEX症候群は告示疾患「自己免疫性腸症」に含まれている。
参考文献
厚労科研「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」
平成19年度 総括・分担研究報告書 2008, p.110-112
平成19年度 総括・分担研究報告書 2008, p.110-112
当該事業における対象基準
血液浄化療法、免疫抑制療法又は肝移植を行った場合
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2014年10月6日
- 文責
- :日本小児栄養消化器肝臓学会