診断の手引き

  1. 神経・筋疾患
  2. 大分類: 変形性筋ジストニー
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瀬川病

せがわびょう

Segeawa syndrome; Dopamine-responsive dystonia; DRD; Hereditary progressive dystonia with diurnal variation; HPD

告示

番号:95

疾病名:瀬川病

診断基準

A.症状

発症年齢は10歳未満で男女比は1:4で女児に多く、夕刻に症状が悪化する日内変動があり、 症状は一側の下肢から始まり同側の上肢に広がり対側の下肢そして上肢というようなN字がたの進行性の ジストニアが特徴である。
神経症状に基づく臨床診断が重要で、姿勢ジストニア型と動作ジストニア型の2型に分けられる。

  1. 姿勢ジストニア型は、多くは6歳頃、一側下肢内反尖足で発症、15歳頃までに全肢にひろがり、20歳頃まで筋強剛が進行するが、その後、進行は緩やかになり、30歳以後は定常状態となる。10歳頃から姿勢振戦が認められる。
  2. 動作ジストニア型は、①に加え、8歳以後、上肢のジストニア運動、頸部後屈、眼球回転発作(oculogyric crisis:OGC)が発現、思春期以後、主に成人年齢で斜頸、書痙を併発する。この病型には運動誘発性ジストニア、むずむず足症候群を呈する症例もある。さらに、成人年齢で斜頸、書痙、または、パーキンソン病様症状で発症する症例がある。しかし、これは真性のパーキンソン病とは異なり、大脳基底核ガンマアミノ酪酸(GABA)系出力系の活性低下に起因する高活性型病態を有する。さらに、これらの症例にはすでに発達過程の終わった線条体へ投射するニューロン終末部ドパミン低下に起因する全身性ジストニア姿勢はみられない。

上記のような症状から瀬川病が疑われた場合、L-ドーパを投与しジストニアの改善があればBの検査に進み 生化学的診断を行う。L-ドーパで著効を示さない症例でも遺伝子異常が見つかることもあるため, 臨床症状が続く場合にはBの生化学的診断、あるいはCの遺伝学的検査等も考慮する。

B.検査所見

  • 一般検査所見及び脳の画像所見では特に異常を認めない。
  • 脳のプテリジン代謝の異常により神経伝達物質であるモノアミン産生の低下していることを生化学的検査で明らかにするため、髄液中のプテリジンおよびモノアミン(ドーパ、ドーパミン、セロトニン)の代謝産物を測定する。
    1. 髄液ホモバニリン酸(HVA)・5-ヒドロキシ酢酸(5HIAA)分析で、姿勢ジストニア型ではHVAの低値を認めるが5HIAAは正常範囲である。動作ジストニア型ではHVAだけでなく5HIAAの低下を認めることが多い。
    2. 髄液プテリジン分析では、ネオプテリンとビオプテリンの両方が低値であるが、N/B比は正常である。
  • 臨床症状の発現から数ヶ月から数年遅れて髄液中の生化学的異常が出現することがあるため症状が続いているにもかかわらず、生化学的な異常が見つからない場合は一定の期間をおいて再検査するか、Cの遺伝学的検査に進むことが重要である。

C.遺伝学的検査等

  • Aの症状とBの検査で異常を認めた場合、遺伝学的検査により診断を確定する。
  • 遺伝子解析:GCH1遺伝子解析を行うが、ダイレクトシークエンス法で異常が見つからない場合でも臨床的に瀬川病が強く疑われる場合、 あるいはプテリジン分析で異常な低値を認める場合はMLPA(Multiplex Ligation-dependent Probe Amplification)法により 大きな欠失の検索を行う。
  • 瀬川病と臨床診断された患者の約1割程度でGCH1の遺伝子変異が見つかっていない。

D.鑑別診断

  1. BH4欠損症(劣性遺伝形式をとるGTPCH欠損症)を鑑別するために血中フェニルアラニン値を測定し高フェニルアラニン血症の有無を鑑別する。
  2. 芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)欠損症やチロシン水酸化酵素欠損症(TH)を鑑別するためにプテリジン分析を行い、ビオプテリン代謝の異常について鑑別する。
  3. 若年性パーキンソン病を鑑別するために GCH1遺伝子解析を行い、遺伝子変異の有無を鑑別する。

E-1.確実例

Aの症状で日内変動を認める小児期発症のドーパ反応性ジストニアで、Bの検査所見でモノアミン代謝産物とプテリジン分析に異常があり、 Cの遺伝学的検査で片方のアリルにGCH1遺伝子の変異を認めれば確実例である。

E-2.疑い例

  • Aの症状で日内変動を認める小児期発症のドーパ反応性ジストニアであれば、Bの検査所見、 Cの遺伝学的検査のどちらかに異常をみとめれば疑い例と考えられる。
  • Aの症状があり、初期のBの検査所見で異常が認められず、Cの遺伝子変異が認められた疑い例で、 数ヶ月から数年の経過で髄液中のBの検査所見に異常を認め確定した症例がある。
  • Aの症状があり、 Bの検査所見で異常を認めたが、Cの遺伝学的検査(ダイレクトシークエンス法) で変異を認められなかった疑い例で、その後MLPA法で大きな欠失を認め確定した症例がある。

当該事業における対象基準

状態の程度

運動障害、知的障害、意識障害、自閉傾向、行動障害(自傷行為又は多動)、けいれん発作、皮膚所見(疾病に特徴的で、治療を要するものをいう。)、呼吸異常、体温調節異常、温痛覚低下、骨折又は脱臼のうち一つ以上の症状が続く場合

:バージョン1.0
更新日
:2017年3月17日
文責
:日本先天代謝異常学会