診断の手引き

  1. 神経・筋疾患
  2. 大分類: ATR-X症候群
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ATR-X症候群

えーてぃーあーるえっくすしょうこうぐん

ATR-X syndrome, X-linked a-thalassemia/intellectual disability syndrome

告示

番号:8

疾病名:ATR-X症候群

状態の程度

運動障害、知的障害、意識障害、自閉傾向、行動障害(自傷行為又は多動)、けいれん発作、皮膚所見(疾病に特徴的で、治療を要するものをいう。)、呼吸異常、体温調節異常、温痛覚低下、骨折又は脱臼のうち一つ以上の症状が続く場合

診断基準

A 症状

【概要】(1)精神運動発達の遅れ、(2)特徴的顔貌、(3)外性器異常、(4)骨格異常、(5)特徴的な行動・姿勢の異常:自分の口に手を入れて嘔吐を誘発、斜め上を見上げ、手のひらを上に向け、顎を突き上げる、あるいは首をしめる仕草を好む、(6)自閉症的な症状:視線を合わせにくい、常同運動、(7)消化器系の異常:胃食道逆流、空気嚥下症、イレウス、便秘、(8)検査所見:αサラセミア(末梢血液のBrilliant Cresyl Blue染色によるゴルフボール様に染色される封入体を含む赤血球の存在)

a.必発症状・所見(>90%)
1.男性
2.重度精神運動発達遅滞
3.特徴的顔貌
  顔面中心部の低形成(鼻孔が上向き、厚い下口唇、鼻根部が平低、三角口、すき間の空いた門歯)、小頭、耳介低位

b.高頻度に認める症状・所見(50%以上)
新生児期
  哺乳障害(経管栄養を必要とする)、筋緊張低下
外性器の異常
  小精巣、停留精巣、小陰茎、女性外性器様
消化器系の異常
  空気嚥下症、嘔吐、胃食道逆流、便秘、イレウス、流涎過多
骨格の異常
  先細りの指、第5指短指症、指関節の屈曲拘縮
発育 低身長
姿勢・運動の異常
  手を口に突っ込み嘔吐を誘発
  突然の笑い発作、感情の高ぶり
  自閉症様:視線を合わそうとしない
  常同運動:指をこする(pill-rolling)、
  姿勢:斜め上を見上げる、顎を手のひらを返して突き上げる、あるいは首をしめるような仕草
  自傷行為

c.しばしば認める症状・所見(50%以下)
中枢神経 てんかん
心臓 心奇形
腎臓 奇形、低形成など
眼科 白内障、斜視
その他 原因不明の脳症様症状
  全く食事を受け付けなくなる発作を周期的に繰り返す
  無呼吸、チアノーゼ発作
  膝をまげた小刻み歩行、脊柱を前彎した独特の歩き方(歩行獲得例),             
  側湾症、睡眠障害


B 検査所見

1. 末梢血液検査:特徴的な所見はありません。αサラセミアとして、必ずしも異常所見を呈するわけではありません。
2. 血液生化学的検査:特徴的な所見はありません。
3. 尿所見:特徴的な所見はありません。
4. 頭MRI:特徴的な所見はありません。脳の構造異常(脳萎縮、脳梁欠損症)、白質の信号異常、髄鞘化遅延、白質脳症、進行性の脳萎縮が報告されています。(Wada T, et al. AJNR, 2009)
5. 染色体検査:正常男性核型(46,XY)を示します。


C 遺伝学的検査等

1. ATRX遺伝子検査:ATRX遺伝子変異が確定された場合のみ確定診断されます
2. 末梢血液のBrilliant Cresyl Blue(BCB)染色:HbHを検出する検査です。αサラセミアを検出する最も感度のいい方法ですが、患者さんの2割では検出されません。検出されなくても、本症候群を否定できません。


D 鑑別診断

重度知的障害を示す疾患はすべて鑑別診断の対象になります。
1.染色体異常症(微細構造異常を含む。)
2.先天性代謝疾患(アミノ酸、有機酸、乳酸・ピルビン酸、血液ガス、生化学検査などの検査を行い著しい異常所見を認めないことを確認。)
3.重度運動精神遅滞や自閉症を呈する全ての疾患
 脆弱X症候群
 アンジェルマン症候群
 コフィン・ローリー症候群
 スミス・レムリ・オピッツ(Smith-Lemli-Opitz)症候群
 FG症候群
 ATR-16症候群


E-1 確実例

Aの必発所見・症状
 1.男性
 2.重度精神運動発達遅滞
 3.特徴的顔貌
を満たし、かつ、
CのATRX遺伝子変化が検出された場合。


E-2 疑い例

Aの必発所見・症状
 1.男性
 2.重度精神運動発達遅滞
 3.特徴的顔貌
を満たし、かつ、
CのBCB染色でHbHが検出された症例。

または、
Aの必発所見・症状
 1.男性
 2.重度精神運動発達遅滞
 3.特徴的顔貌
を満たし、
Dの鑑別診断が否定された場合。

または、症状は非典型的であるが、
CのATRX遺伝子変化が検出された場合。

参考文献

  • Gibbons RJ, Wada T, Fisher CA. ATRX, X-linked -Thalassemia Mental Retardation. In Erickson RP & Wynshaw-Boris AJ (ed.) Epstein’s Inborn Errors of Development. 3rd ed. New York, Oxford University Press, 2016. p957-964.
  • 和田敬仁, 中村美保子, 松下友子, 山田美智子、山下純正、岩本弘子、升野光雄、今泉清、黒木良和. X-linked α-thalassemia/mental retardation syndrome (ATR-X)の3症例.脳と発達1998;30:283-289.
  • Wada T, Kubota T, Fukushima Y, Saitoh S. Molecular genetic study of Japanese patients with X-linked alpha-thalassemia/mental retardation syndrome (ATR-X). Am J Med Genet 2000; 94: 242-248.
  • Gibbons RJ, Wada T, Christopher AF, Malik N, Mitson MJ, Steensma DP, Fryer A, Goudie DR, Krantz ID, Traeger-Synodinos J. Mutations in the Chromatin-Associated Protein ATRX. Human Mutation 2008; 29:786-802.
  • 和田敬仁.ATR-X(X連鎖αサラセミア・精神遅滞)症候群の分子遺伝学 エピジェネティクスの破綻により発症するクロマチン病.医学のあゆみ 2011;239:645-652.
  • Wada T, Ban H, Matsufuji M, Okamoto N, Enomoto K, Kurosawa K, Aida N. Neuroradiologic features in X-linked α-thalassemia/mental retardation syndrome. AJNR Am J Neuroradiol. 34; 2034-8, 2013
  • 海老島優子, 三崎貴子, 大和謙二, 奥野毅彦, 和田敬仁, 末廣 豊喉頭軟化症による無呼吸発作を繰り返したX連鎖αサラセミア・精神遅滞(ATR-X)症候群の1症例.脳と発達45;44-48、2013
:バージョン1.0
承認日
文責
:日本小児神経学会