1. 慢性消化器疾患
  2. 大分類: 先天性食道閉鎖症
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先天性食道閉鎖症

せんてんせいしょくどうへいさしょう

Congenital esophageal atresia/tracheoesophageal fistula

告示

番号:20

疾病名:先天性食道閉鎖症

疾患概念

先天性食道閉鎖症(以下本症)は、先天的に食道が盲端に終わり閉鎖している疾患である。多くは気管食道瘻を伴ない、また一部は食道が閉鎖せずに気管食道瘻のみを有するものも存在する。

疫学

本邦での発生頻度は5000出生に1例程度とされ、年間200人程度発生する。

病因

食道の発生では、胎生5-7週に前腸にtracheo-esophageal septumが形成されて気管と食道が分離する。本症はこの気管と食道の分離過程の発生異常により生じるとされている。

病理・病態

食道閉鎖症の分類では、気管食道瘻の有無と位置をもとにしたGross分類(図1)が一般的である。

表

図1 : Gross分類

臨床症状

食道の閉鎖により、出生直後から口腔や鼻腔より唾液が泡沫状に流出する。哺乳は不能で、哺乳した場合は嚥下不可能なためすぐに吐き出す。唾液の誤嚥や気管食道瘻を介した胃液の気管内逆流により、肺炎・呼吸不全を呈する。

食道の閉鎖を伴なわないGross分類E型では、哺乳時のむせ込みや繰り返す肺炎などを契機に発見される。

検査所見

X線不透過性のカテーテルを鼻腔または口腔から食道内に挿入しX線撮影をすると食道盲端でカテーテルが反転する像(coil-up sign)が描出される。胃泡・消化管ガスの有無により、下部食道の気管食道瘻の有無が鑑別できる。

心疾患、直腸肛門、腎・尿路、椎体などの合併疾患が多く、それぞれに応じた精査が必要である。

診断

診断の際の留意点/鑑別診断

食道の閉鎖部位や気管食道瘻の存在確認のために、一部の施設で食道造影やCT検査などが実施されることもあるが、誤嚥・呼吸状態の悪化のリスクがあるため実施されないことも多く、これらの検査の適応には慎重な判断が必要である。

食道の閉鎖を伴わないGross分類E型が疑われた場合には、上部消化管造影、上部消化管内視鏡、気管支ファイバーなどで気管食道瘻の存在を証明する。

合併症

術前の合併症としては、肺炎・呼吸不全や合併する心疾患・染色体異常に伴うものがある。

周術期の合併症には、無気肺・肺炎・気胸などの肺合併症、縫合不全、気管軟化症などがある。

長期合併症としては、吻合部狭窄、気管食道瘻の再開通、胃食道逆流症、気管支軟化症、胸郭変形、経口摂取困難などがある。

治療

根治的治療として、食道閉鎖症根治術(気管食道瘻閉鎖・食道食道吻合)が実施される。近年では胸腔鏡手術を行う施設もある。術前の誤嚥の回避、麻酔管理の安定化のために胃瘻造設が先行されることもある。

心疾患や低出生体重児、long gap例などのハイリスク例では胃瘻造設術、気管食道瘻閉鎖/腹部食道バンディング術などの姑息術を施行後に、成長を待って根治術が実施されることもある。Long gap例では、種々の*食道延長術が実施される。

※ 令和6年7月現在、診療報酬点数表収載の術式ではない。

予後

手術により食道の連続性が確立された後にも、機能的・器質的問題により経口摂取困難や成長障害、気道症状などを呈する患児は多い。特に、吻合部狭窄や胃食道逆流症に伴う嘔吐や摂食障害、気管軟化症や喘息、胃食道逆流症に伴う呼吸器症状、側弯などが生じると長期間にわたり患児のQOLが低下し医療的介入を要する。

患者会

全国規模の患者会は存在しない。

研究班

全国規模の研究班、研究会組織はない。

成人期以降の注意点

本症術後の成人期以降の経過についてはまとまった研究はないが、思春期以降も吻合部狭窄、胃食道逆流症、気管軟化症、側弯などの合併症が持続しQOL低下が低下する患者は存在する。また成人期以降は難治性の胃食道逆流症に伴う逆流性食道炎と食道癌発生への対応が求められる。

参考文献

  1. 先天性食道閉鎖症 標準小児外科学 第8版(2022年) 医学書院 p147-151
  2. Congenital Anomalies of the Esophagus, Pediatric Surgery, 7th ed (2012). Elsevier, p893-918
  3. 臼井 規朗ら わが国の新生児外科の現状 2018年新生児外科全国集計 日小外会誌 56巻7号 Page1167-1182, 2020
:第1版
更新日
:2025年4月1日
文責
:日本小児外科学会