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タナトフォリック骨異形成症

たなとふぉりっくこついけいせいしょう

Thanatophoric dysplasia

告示

番号:7

疾病名:タナトフォリック骨異形成症

疾患概念

タナトフォリック骨異形成症 (thanatophoric dysplasia)は1967年にMaroteauxらが独立した疾患として報告した。”thanatophoric”とはdeath bearing(致死性)を意味するギリシャ語である。主な特徴は長管骨(特に上腕骨と大腿骨)の著明な短縮である。線維芽細胞増殖因子受容体3(FGFR3)遺伝子の点突然変異が原因で発症する。単純X線検査の所見から大腿骨が彎曲(受話器様変形)し、頭蓋骨の変形のない(あっても良い)1型と、大腿骨の彎曲は少なく、頭蓋骨がクローバー葉様に変形する2型に分類される。いずれにおいても肋骨の短縮による胸郭低形成で、ベル状胸郭となり、重度の呼吸障害を来す。また巨大頭蓋と前頭部突出を示し、顔面は比較的低形成である。

疫学

出生2~9万人に1人程度と推定される。

病因

疾患の原因はFGFR3遺伝子の点突然変異による。1型では複数の遺伝子変異の集中部位が報告され、アミノ酸の置換(Arg248Cys、Ser249Cys、Gly370Cys、Ser371Cys、Tyr373Cys)や、終止コドンのアミノ酸への置換(stop807Gly、stop807Arg、stop807Cys)などを引き起こす。日本人ではArg248Cysが1型の約60~70%にみられ最も多く、次いでTry373Cysが20~30%に見られる。それ以外の変異や既知の変異が検出されないものが、~10%程度存在する。2型については全例でLys650Glu変異が検出されている。

病理・病態

FGFR3のシグナルは軟骨細胞の増殖に対し抑制的に作用する。遺伝子変異による変異型FGFR3は受容体シグナルが恒常的に活性化される機能獲得型変異で、軟骨細胞の分化が促進され内軟骨性骨化の異常を来し、長管骨の成長障害・伸長抑制、相対的巨大頭蓋・頭蓋底の低形成などを生じる。

臨床症状

1)
児は著明な四肢長管骨の短縮を認め、これは特に近位肢節に著しい。著明な四肢の短縮は、特に近位肢節(大腿骨や上腕骨)にみられ、低身長となる。体幹の短縮は出生時には軽度又はほぼ正常であるが、長期生存例では次第に著明になる。骨の短縮に対して、軟部組織は正常に発育するため、四肢で長軸と直角方向に皮膚の皺襞が生じる。
2)
著明な胸郭低形成により呼吸障害や腹部膨隆を示す。胎児期には嚥下困難による羊水過多がほぼ必発で、しばしば胎児水腫を呈する。多くは出生直後から呼吸管理が必要で、呼吸管理を行わない場合は、呼吸不全により新生児死亡に至ることが多い。
3)
頭蓋骨は巨頭を示し、前頭部突出と鼻根部の陥凹が顕著である。巨大頭蓋は頭蓋冠の巨大化によるもので、顔面中央部は比較的低形成となり、前頭部突出や鼻根部陥凹(鞍鼻)と中央部の平坦な顔貌を示す。なお、相対的巨大頭蓋(relative macrocephaly)とは実際には頭蓋の大きさは標準値と変わらないか軽度の拡大であるが、胸郭低形成、四肢の長管骨の著明な短縮と椎体の扁平化により生じた低身長など、四肢体幹が小さくなるため、頭蓋が相対的に大きく見えることを意味する。
4)
その他の症状としては筋緊張の低下、大泉門開大、眼球突出などがある。短管骨も短縮するので短指趾症となり、三尖手(trident hand)を示すこともある。また、加齢により皮膚の黒色表皮腫が出現することが多い。また腹部膨満と相対的な皮膚過剰による四肢皮膚の皺壁などが特徴である。

検査所見

単純X線検査では、顔面と頭蓋底の低形成、大きな頭蓋冠と側頭部の膨隆、前頭部突出が特徴である。肋骨の短縮により胸郭は著しく低形成で、ベル型となる。肋骨も含め長管骨は著しく弯曲しており、特に大腿骨は、正面像で電話の受話器様の変形を示す特徴的な所見である。また長管骨の骨幹端は拡大し、いわゆる杯状変形や棘状変形という所見をみる。脊椎は扁平化し、正面像では逆U字型やH字型を呈するが、椎間腔は保たれる。鎖骨は高位で、肩甲骨は低形成である。骨盤は腸骨翼の垂直方向の低形成により方形化を示し、臼蓋は水平化、坐骨切痕の短縮がみられる。

なお、2型では頭蓋の変形がより著明でいわゆるクローバー葉様頭蓋を示す。これは 1型よりも側頭部がより顕著に膨隆していることによる所見である。また大腿骨の短縮の程度は1型よりは軽度で、弯曲は認めないか軽度である。ただし 1型でもクローバー葉様変形を認めることもあり、明確に区別できないケースもある。

診断

『診断の手引き』参照

診断の際の留意点/鑑別診断

臨床症状と単純X線検査から診断できるが、明確でない場合は遺伝子検査を行う。鑑別診断としては、軟骨無発生症、軟骨低発生症、また骨形成不全症や低ホスファターゼ症の重症型との鑑別が必要である。

合併症

胸郭低形成による呼吸不全。

治療

根治的な治療はなく、対症療法を行う。出生後は呼吸不全のため、呼吸管理を行わない限り、早期に死亡することが多い。呼吸管理を行った場合には、長期生存した例が報告されているが、重度の呼吸障害と発達障害があり、積極的な治療に関しては、個別の状況で判断する。

管理・ケア

呼吸管理が重要で、緩和的なケアが中心となる。

食事・栄養

ほぼ自己摂取は不可能で、経管栄養が原則となる。

予後

出生後すぐに死亡する(周産期死亡)ことが多いが、呼吸管理を適切に行えば、長期生存することも可能である。

予後不良症例の対応

出生後の早期(新生児期)に呼吸管理を行わないと死亡に至ることが多い。全例に重度の発達障害がある。

介護

呼吸管理が重要で、緩和的なケアが中心となる。

最近のトピックス

以前の名称は致死性異形成症であったが、呼吸管理を適切に行えば、致死性ではないことから、2013年にタナトフォリック骨異形成症に改定された。また2019年の厚生労働科学研究班からの報告で数年以上の長期生存例も多数あることが報告された。

研究班

「指定難病と小児慢性特定疾病に関連した先天性骨系統疾患の適切な診断の実施と医療水準およびQOLの向上をめざした研究」班

成人期以降の注意点

長期生存例が報告されていることは確かであるが、成人期に達することは稀であるが、呼吸管理が重要で、緩和的なケアが中心となる。

参考文献

  1. Sawai H, Oka K, Ushioda M, Nishimura G, Omori T, Numabe H, Kosugi S. National survey of prevalence and prognosis of thanatophoric dysplasia in Japan. Pediatr Int. 2019 Aug;61(8):748-753.
  2. 日本整形外科学会 骨系統疾患マニュアル改定第2版 20-21南江堂2007
:第1版
更新日
:2021年11月1日
文責
:日本小児整形外科学会
日本新生児成育医学会