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WDR45関連神経変性症

だぶりゅでぃーあーる45かんれんしんけいへんせいしょう

WDR45 associated neurodegeneration; SENDA/BPAN

告示

番号:91

疾病名:WDR45関連神経変性症

疾患概念

WDR45 遺伝子変異によるX染色体優性遺伝性疾患。脳の鉄沈着を伴う神経変性疾患(Neurodegeneration with brain iron accumulation: NBIA)の代表疾患である。小児期は非進行性の重度知的障害、成人期以降に進行性の運動機能障害や認知機能障害を呈し、MRIでは大脳黒質や淡蒼球に鉄沈着所見を認める。男児は生後より症状が重篤であり、胎生致死も多いと考えられている。

疫学

NBIAが10万人に1人未満の頻度とされている。NBIAのうち約45%が本疾患である(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK121988/)。

病因

X染色体上(Xp11.23)にあるWDR45 遺伝子がコードするタンパクWIPI4の機能不全による。WIPI4はオートファジー機能の中核をなすタンパクであり、全身の細胞においてオートファジー機能が障害されることで、細胞の管理維持機構が破綻し、特に中枢神経系の組織で症状をきたすと考えられている。

病理・病態

神経病理学的には黒質と淡蒼球に鉄沈着と変性を認める。WIPI4は全身組織で発現しており、オートファジーに関わる重要なタンパクである。オートファジーとは、細胞内の不要な成分をリソソームで分解・除去するシステムで、細胞の品質管理・維持に必須の細胞内分解機構である。飢餓や胚発生時に誘導され、細胞質内の不要なオルガネラやタンパク成分を、オートファゴソームと呼ばれる脂質二重膜に内包し、リソソームと融合して分解することで、栄養素のリサイクルや細胞内の恒常性維持に働いている。SENDA/BPAN患者のリンパ芽球では、健常者と比較してオートファジー活性が低下している。

臨床症状

小児期には言語機能を主とする重度の知的障害を呈する。一方、運動機能は緩徐に発達して独歩を獲得する。幼少期にはてんかんを発症することも少なくない。20歳代を過ぎるとジストニアやパーキンソン様症状が急速に進行し、認知症が加わり高次機能を喪失して数年で臥床状態となる。

検査所見

脳MRIが、特異性の高い所見を示す。NBIAの通り、黒質と淡蒼球にT1強調画像で高信号、T2強調画像で低信号を認め、鉄沈着を反映する。黒質ではT1強調画像で中心に線状の低信号を伴う。また、進行すると大脳萎縮も顕著となる。しかし、小児期はT1/T2強調画像では鉄沈着所見を捉える事ができず、より鋭敏に鉄を検出できるT2*強調画像や磁化率強調画像(SWI)で撮影する必要がある。この撮像方法により、低年齢でも鉄沈着所見を確認できる。

診断

臨床経過
  • 小児期の知的障害、けいれん
  • 成人期以降の知的退行、進行性運動機能障害
画像所見
  • 脳MRIで鉄沈着所見、とくに黒質と淡蒼球にT1強調画像で高信号、T2強調画像で低信号、さらに黒質にT1強調画像で中心に線状の低信号を伴う(T2*および磁化率強調像(SWI)でその変化は早期に検出可能)
  • 進行性の大脳萎縮
遺伝子解析

WDR45 遺伝子に異常を認める

診断の際の留意点/鑑別診断

他のNBIA(PKAN、INADなど)、早期にはレット(Rett)症候群との鑑別が必要になることがある。

治療

根治療法はまだ確立していない。対症療法として抗けいれん薬やドパミン製剤を使用する。また、intrathecal baclofen therapy(ITB療法)やbotulinum toxin(BTX)療法を併用することでジストニアの進行が緩和される症例もある。

予後

知的退行や運動機能障害を認めると急速に進行して、重度の認知機能障害および寝たきり状態となる。

最近のトピックス

難病プラットフォームによる疾患レジストリあり

患者会

研究班

AMED難治性疾患実用化研究事業

成人期以降の注意点

運動障害が出現するとその後は急速に進行して、寝たきり状態になることが多い。対症療法として、痙縮やジストニア進行予防目的に薬物療法を試みることも検討される。その後は、呼吸管理・栄養管理・ジストニアに対する対応・誤嚥対策など、全身的な管理が必要となる。

参考文献

  1. Wilson JL, Gregory A, Kurian MA, et al. Consensus clinical management guideline for beta-propeller protein-associated neurodegeneration. Dev Med Child Neurol. 2021. doi: 10.1111/dmcn.14980. PMID: 34347296.
  2. Kidokoro H, Yamamoto H, Kubota T, et al. High-amplitude fast activity in EEG: An early diagnostic marker in children with beta-propeller protein-associated neurodegeneration (BPAN). Clin Neurophysiol. 2020;131(9):2100-2104. doi: 10.1016/j.clinph.2020.06.006. PMID: 32682237.
  3. Gregory A, Kurian MA, Haack T, et al. Beta-Propeller Protein-Associated Neurodegeneration. 2017 Feb 16. In: Adam MP, Ardinger HH, Pagon RA, Wallace SE, Bean LJH, Mirzaa G, Amemiya A, editors. GeneReviews® [Internet]. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993–2021. PMID: 28211668.
  4. Hayflick SJ, Kurian MA, Hogarth P. Neurodegeneration with brain iron accumulation. Handb Clin Neurol. 2018;147:293-305. doi: 10.1016/B978-0-444-63233-3.00019-1. PMID: 29325618; PMCID: PMC8235601.
:第1版
更新日
:2021年11月1日
文責
:日本小児神経学会