1. 神経・筋疾患
  2. 大分類: 脳形成障害
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片側巨脳症

へんそくきょのうしょう

Hemimegaloencephaly

告示

番号:88

疾病名:片側巨脳症

疾患概念

片側巨脳症は、先天的に一側の大脳半球(患側)が形成異常により巨大化した状態で、難治てんかん、不全片麻痺、精神運動発達遅滞の三主徴を呈する。基礎疾患のない孤発性(isolated form)と神経皮膚症候群を基礎疾患とする症候性(syndromic form)に分類される。

疫学

正確な患者数は不明だが、全国で245人程度程度と推計される。

病因

大多数の症例が孤発性である。患者の中には、病変部に PI3KCAAKT3MTOR などの体細胞モザイク変異がみられる例があり、mTORシグナル経路の異常活性化が病因と考えられている。

症候性では、結節性硬化症、伊藤白斑、線状脂腺母斑症、神経線維腫症1型などの神経皮膚症候群が基礎疾患と知られている。過成長を伴うProteus症候群、Klippel-Treaunay-Weber症候群での合併例も報告されている。

臨床症状

難治てんかん、不全片麻痺、発達遅滞の三主徴を呈する。胎内で大頭症や脳室拡大を指摘されていることがある。てんかんの発症時期は、新生児期から乳幼児期が大半であるが、1歳以降のてんかん発症例もまれではない。強直発作やシリーズ形成性スパスムを呈し、脳波上の特徴から大田原症候群やウエスト症候群と診断されることが多い。乳幼児期後半以降になると不全片麻痺や発達の遅れが指摘されるようになる。

検査所見

1. 脳波所見
巨脳症側(患側)に焦点性突発性異常波を見ることが多い。Suprresion-burstパターン、ヒプスアリスミアなどが見られることもある。一見全般性の場合でも、患側から対側に異常波が波及してほぼ同期しているように見えることが多い。
2. 頭部画像所見
診断の原則は患側の大脳半球全体が対側より大きいことである。左右差が顕著でない場合も二葉以上が対側より大きいことで診断する。患側後頭葉が正中線を越えて対側に突出することが多い。患側側脳室は開大し前後に長くなることが多い。巨大化した脳葉には、厚脳回・多小脳回・皮質肥厚などがみられるほか、皮質白質の境界不鮮明化・白質量の増加・髄鞘化促進などの白質異常や、異所性灰白質などもみられる。他に画像上認められる所見として、脳梁肥厚、病側の嗅球や視神経、脳幹、小脳の拡大などがある。非巨脳側にも異常画像所見を見ることがある。

診断

A. 症状
  1. 難治のてんかん発作(新生児期から乳幼児期に発症)
  2. 不全片麻痺
  3. 精神発達遅滞
B. 検査所見
血液・生化学的検査所見:
特異的所見なし。
画像検査所見:
早くは新生児期又はその後の頭部CT/MRIにて患側大脳半球が全体的あるいは部分的(二葉以上)に巨大化している。
生理学的所見:
脳波では、患側に焦点性突発性異常波をみることが多い。一見左右差に乏しく、全般性にみえる場合もある。
病理所見:
大脳皮質構造の乱れ、異型で未熟な神経細胞の多数出現、異所性神経細胞、グリオーシスなどがみられ、神経細胞系及びグリア細胞系両方の分化・遊走・成熟障害と考えられる所見。
C. 鑑別診断

巨大化しない片側性大脳皮質形成障害、限局性皮質異形成、左右差のある多小脳回、腫瘍性病変(グリア系腫瘍)など。

診断のカテゴリー
B. 画像検査で、片側大脳半球の二葉以上が対側より大きい所見があれば確定診断とする。
A. の症状のうち、1つ以上を合併するが、病初期にはみられないこともあり、診断時に必須とはしない。

診断の際の留意点/鑑別診断

診断は画像診断により、頭部MR、一側大脳半球の二葉以上が巨大化している場合を本症とする。対側大脳半球には原則として異常を認めない。神経皮膚症候群の合併に注意する。巨大化しない片側性大脳皮質形成障害、限局性皮質異形成、左右差のある多小脳回、腫瘍性病変(グリア系腫瘍)など。

治療

種々の抗てんかん薬に治療抵抗性の場合が多く、難治例では外科治療(半球離断術)を行うことで、約6割の症例で発作消失が期待できる。新生児や乳児期早期に発作が頻発する例やてんかん性脳症の場合には、早期の手術を考慮する。早期手術の機会を逃した例でも、片麻痺や視野欠損の存在があり患側の大脳機能が低下している場合は、大脳半球離断術による新たな機能低下は起こりにくいので、薬剤抵抗性の例では1歳以降でも積極的な手術治療を考慮してよい。

予後

新生児期から乳児期早期の発症例は、抗てんかん薬によるけいれん発作コントロールは非常に困難で発達も停滞する。半球離断術により、発作の消失と発達の改善が見込める。乳児期後半以降のてんかん発症例では、ある程度けいれん発作の薬物コントロールができて、歩行可能になる例もある。発達遅滞や片麻痺のため、生涯にわたる支援やリハビリテーションが必要である。

研究班

平成29~31年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「稀少てんかんに関する調査研究」
令和2~4年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「稀少てんかんに関する包括的研究」

参考文献

  1. Flores-Sarnat I. Hemimegalencephaly: Part 1. Genetic, clinical, and imagingaspects. J Child Neurol 2002; 17: 373-384
  2. Sasaki M, et al. Clinical aspects of hemimegalencephaly by means of nationwide survey. J Child Neurol 2005; 20: 337-341
  3. Sato N.et al. (2007). Hemimegalencephaly: A study of abnormalities occurring outside the involved hemisphere. AJNR. American Journal of Neuroradiology, 28(4), 678–682.
  4. Lee JH, et al. De novo somatic mutations in components of the PI3K-AKT3-mTOR pathway cause hemimegalencephaly. Nat Genet 2012; 44: 941-945
  5. 佐々木征行.片側巨脳症.希少てんかんの診療指標.日本てんかん学会, 東京, 診断と治療社, 2017:124-126
:第1版
更新日
:2021年11月1日
文責
:日本小児神経学会