概念・定義
カウデン症候群は、皮膚・粘膜、消化管、乳腺、甲状腺、中枢神経、泌尿生殖器などに良性の過誤腫性病変が多発する常染色体優性遺伝性疾患である。
巨頭症、過誤腫性大腸ポリポーシス、脂肪腫および陰茎亀頭の色素斑を特徴とする先天性疾患であるバナヤン・ライリー・ルバルカバ症候群(Bannayan-Riley-Ruvalcaba syndrome,以下BRRS)は先天性の重症型として扱う。
病因
原因は不明である。原因遺伝子の一つとして、10番染色体長腕(10q22-23)に存在するPTEN遺伝子変異が関連することが示唆され、カウデン症候群の約80%にPTEN遺伝子の変異を認める。PTEN遺伝子の2ヒットにより過誤腫を発症すると考えられ、PTEN過誤腫症候群の代表的疾患とされている。
また、Bリンパ球の成熟障害により、種々のアレルギー疾患や自己免疫疾患を合併すると考えられている。
疫学
有病率は20~25万人に1人、国内の患者数は約500~600人と推計される。
臨床症状
口腔内粘膜乳頭腫症、顔面の外毛根鞘腫、四肢末端角化症、掌蹠角化症などの特徴的な皮膚粘膜病変を呈する。
全消化管にポリポーシスが認められ、ポリープが大きくなると消化管出血をきたし、貧血・下血・血便を認める。
高率に脂肪肝、脂肪性肝炎及び肝硬変を合併し、肝癌を併発することもある。
Bリンパ球の成熟障害により、気管支喘息、薬物アレルギーなどのアレルギー疾患や自己免疫性溶血性貧血、橋本病、などの自己免疫疾患を合併し、これらの症状が前面に出ることも少なくない。泌尿生殖器の奇形合併することがある。
巨頭症(頭囲≧97パーセンタイル、成人女性58cm以上、成人男性60cm以上)、知的障害(IQ≦75)、自閉症スペクトラムを合併することもある。(日本人乳幼児の頭囲曲線表1参照、18歳までの頭囲曲線図1参照)
成人型レルミット・ダクロス病(Lhermitte-Duclos disease, 以下LDD、小脳異形成神経節細胞腫)を合併すると、頭痛、嘔吐、視力障害、複視、小腸失調などの症状をきたす。
乳癌、甲状腺癌、子宮癌などを合併することもある。
検査所見
消化管ポリープから慢性出血をきたすと便潜血陽性、血液検査で貧血の所見を認める。蛋白漏出性胃腸症を合併すると、低蛋白血症をきたす。
上部消化管内視鏡検査、大腸内視鏡検査、小腸内視鏡検査(小腸カプセル内視鏡検査またはバルーン小腸内視鏡検査)で多発性のポリープを認める。食道の白色扁平隆起として観察されるglycogen acanthosisの多発は特徴的な所見である。
切除されたポリープの病理組織所見は通常、過形成または過誤腫である。
LDDの合併例では、頭部画像検査で小脳の片側に腫瘍を認め、病理学的には過誤腫またはdysplasiaである。
腹部超音波検査で高率に脂肪肝を合併するほか、甲状腺・子宮・泌尿生殖器、血管奇形のスクリーニングに超音波検査が有用である。
診断の際の留意点
家族性腺腫性ポリポージス、若年性ポリポーシス、ポイツ・ジェガース症候群などの、消化管ポリポーシスをきたす他の疾患との鑑別に留意する。
治療
根治のための治療法はない。個々の合併疾患の治療と対症療法が主体となる。
消化管の過誤腫が大きくなれば、内視鏡的ポリープ切除術または外科的に切除する。気管支喘息や自己免疫疾患を発症すれば、それらに対する治療を行う。知的障害や奇形に対しては対症的に対応する。癌を発症すれば手術などの治療を行う。癌の早期発見のために、早期からスクリーニングをすることが望ましい。
合併症
高率に脂肪肝、脂肪性肝炎及び肝硬変を合併し肝癌を併発することもある。さらに、Bリンパ球の成熟障害により、気管支喘息、薬物アレルギーなどのアレルギー疾患や自己免疫性溶血性貧血、橋本病、などの自己免疫疾患を合併し、これらの症状が前面に出ることも少なくない。LDD、泌尿生殖器の奇形、大頭症、知的障害なども合併する。乳癌(男女を問わず)、甲状腺癌、子宮癌などの悪性腫瘍の合併率は約30%と高い。
予後
治療及び検査を長期間にわたり行う必要がある。また、ステロイドホルモン薬を必要とする重症気管支喘息や、非代償性の肝硬変症例では長期療養が必要となり、予後不良である。BRRS、知的障害(IQ 75以下)、泌尿生殖器奇形を合併した症例では長期の対症療法が必要となる。進行癌を合併した症例では、通常の癌治療を行うが、一般に予後不良である。
成人期以降の注意点
消化管ポリポーシスおよび合併症に対する治療と検査は、成人期以降も継続が必要である。
乳癌、甲状腺癌、子宮癌、腎細胞癌、大腸癌などのサーベインランスが必要である。
参考文献
- 厚労省難治性疾患政策研究事業 「消化管良性多発腫瘍好発疾患の医療水準向上のための研究(H27-難治等(難)-一般-003)」 研究代表者 石川秀樹
- 日本消化器病学会編.大腸ポリープ診療ガイドライン2014. 南江堂,東京,pp148.
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2018年1月31日
- 文責
- :日本小児栄養消化器肝臓学会